文献情報
文献番号
202417004A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関における心理検査の実施実態と活用可能性に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23GC1012
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
松田 修(上智大学 総合人間科学部心理学科)
研究分担者(所属機関)
- 河野 禎之(筑波大学 人間系)
- 東 奈緒子(独立行政法人 国立病院機構 奈良医療センター リハビリテーション科)
- 満田 大(慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
4,325,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、医療機関における心理検査の実施実態と活用可能性を明らかにし、将来の精神保健福祉行政で活用可能な基礎データを提供することである。そのために、第一に、医療機関における心理検査の実施実態と活用可能性を明らかにすることを目的とし、国内外の文献レビューを踏まえたエキスパート・パネルによる協議と、その結果にもとづいて作成したアンケート調査を実施した。第二に、医療機関における心理検査の実施実態や活用の可能性について詳細に検討した。第三に、精神科領域の医療機関における心理検査の活用可能性と有用性を検討した。第四に、公認心理師による身体疾患患者に対する心理検査が、他職種による患者理解や支援にどのように寄与しているかについて質的に検討した。
研究方法
第一に、エキスパート・パネル(公認心理師4名、言語聴覚士1名)による協議を通じて、検査実施からフィードバックまでの流れを外来・入院場面別に整理し、現場の主要な課題を抽出した。その後、心理検査業務に従事する専門職(計33名)を対象にアンケート調査を実施し、現場の実態や改善策について分析した。第二に、1年目に実施した調査で得られたデータをもとに(1) 心理検査の所要時間とその影響要因について、(2)病院種別による特徴、(3)公認心理師の雇用形態による特徴の観点から分析を行った。第三に、医師から見た活用実態や有用性に関するWeb調査(医師調査、n=356)と、心理支援の一環として行う公認心理師によるフィードバック面接(直接的フィードバック)の有用性に関する一群事前事後比較試験(患者調査、n=36)を実施した。第四に、身体疾患患者の治療に関わり、公認心理師との協働経験を有する医療専門職20名にインタビュー調査を実施した。データ解析はテキストマイニングによる共起ネットワーク分析を実施した。
結果と考察
第一に、外来・入院のいずれにおいても、心理検査のフィードバックや報告書作成に診療報酬が設定されていないこと、心理士の専門的業務が十分に評価されていないこと、現場の裁量やマンパワーに依存した運用体制が大きな課題であることが明らかとなった。また、複数検査の同日算定や多職種連携、家族・院外関係者への情報提供等、臨床ニーズに即した柔軟な対応が制度面で困難な現状も示された。第二に、一部の心理検査では、換算ソフトの使用による時間の短縮効果を認めた。また、いずれの医療機関においても診断補助ならびに診断書・意見書の作成のため、発達障害・精神疾患・認知症を対象に、テストバッテリーを組んで実施されていた。心理検査の結果は対象者やその家族にフィードバックされ、自己理解の促進や強みの発見につながっていた。さらに、公認心理師が常勤職として複数名配置されることで、心理検査の活用の幅が広がることが示唆された。ただし、心理検査の実施時間や結果の処理時間のばらつきが大きく、その要因として検査者の習熟度の違いや、雇用形態が影響していることが推察された。第三に、医師調査の結果、心理検査が医師の業務や多職種連携・協働において有用であると多くの医師が感じている実態が明らかになった。患者調査の結果、公認心理師による直接的フィードバックには、患者の自己理解の促進、治療意欲の向上、日常生活や社会生活の困難への対応など、パーソナル・リカバリ−の促進につながる効果が期待できることが示唆された。第四に、心理検査の機能、評価されている心理的側面、検査が活用されている医療領域など、16のサブグラフを抽出した。結果から、公認心理師による身体疾患患者への心理検査は、心理状態や性格傾向、認知機能の把握に加え、生活史や家族背景、社会的文脈などを含む多面的アセスメントを通じて、他職種による患者理解や支援方針の形成を支えていることが明らかとなった。
結論
以上の結果から、心理検査は、多職種チームの業務、特に、診断、患者の心理特性・状態の把握、患者対応、地域連携(情報提供書類の作成)において有用性が示唆された。患者に必要な心理検査が十分に実施されるようにするためには、診療報酬において、臨床心理・神経心理検査の区分や点数の改正、公認心理師による心理検査結果の直接的フィードバックの評価新設等、実態に見合った評価の検討が急がれる。
公開日・更新日
公開日
2025-06-23
更新日
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