文献情報
文献番号
202416009A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症診断後支援の総合的・学際的研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24GB1003
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 毅(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 自立促進と精神保健研究チーム)
研究分担者(所属機関)
- 山下 真里(東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム)
- 井原 涼子(東京都健康長寿医療センター脳神経内科)
- 枝広 あや子(地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
- 杉山 美香(東京都健康長寿医療センター研究所)
- 井藤 佳恵(東京都健康長寿医療センター研究所 福祉と生活ケア研究チーム)
- 進藤 由美(東京都健康長寿医療センター 健康長寿医療研修センター)
- 矢吹 知之(高知県立大学 社会福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和8(2026)年度
研究費
7,181,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
認知症基本法は、認知症と共に生きる人が希望と尊厳をもって地域で暮らしていける共生社会の構築を目標に掲げている。本研究を貫く哲学は『認知症基本法に基づく新しい時代に、医療が認知症と診断された後に、人々の幸福の為できることを探求し、実装する』というものである。本事業の目的は以下の通りである
1. 日本の診断後支援の現状について調査しデータを得る
2. 様々な診断後支援の効果を研究する
3. 自治体等が参照できる分かりやすいマニュアルを作る
1. 日本の診断後支援の現状について調査しデータを得る
2. 様々な診断後支援の効果を研究する
3. 自治体等が参照できる分かりやすいマニュアルを作る
研究方法
この目的の為に初年度は以下の5つのプロジェクトを行った
1) 認知症疾患医療センターにおける診断後支援の実態に関する研究
2) 本人ミーティングを通じた認知症当事者の回復に関する研究
3) 医療機関における診断後支援の実態調査
4) 認知症サポート医調査
5) 認知症診断後の家族支援の現状と課題
1) 認知症疾患医療センターにおける診断後支援の実態に関する研究
2) 本人ミーティングを通じた認知症当事者の回復に関する研究
3) 医療機関における診断後支援の実態調査
4) 認知症サポート医調査
5) 認知症診断後の家族支援の現状と課題
結果と考察
1) 認知症疾患医療センターにおける診断後支援の実態に関する研究
令和5年10月現在において指定されている505施設に発送し、227施設(回収率45%)から回答を得た。診断後支援のうち、医療・介護に関する支援提供率は高かった一方で、「就労支援」「経済的支援」「権利擁護」に関する支援の提供率は低い傾向がみられた。
2) 本人ミーティングを通じた認知症当事者の回復に関する研究
東京都内の認知症支援地域拠点で行われた本人ミーティングに継続して参加した認知症を分析対象とし、観察記録、フィールドノート、議事録を分析した。分析対象者ごとに抽出したカテゴリを統合し比較・分類した結果、【認知症の受容と認識の変化】、【対人交流の積極性の変化】、【認知症と共に生きる知恵と工夫】、【尊厳】、【状況の変化】、【家族との葛藤】の6つのテーマを抽出された。この中から、特にミーティングがもたらした変化を表す2つのテーマは【認知症の受容と意識の変化】、【対人交流の積極性の変化】であった。参加を重ねるにつれて、認知症の受容が進み、対人交流が積極的になるなど前向きな変化が見られた。認知症の当事者がファシリテーターを担う、心理的安全性の高い場づくり、勉強会といった要素がこれらの変化を促進した可能性が示唆され、集団心理療法における治療的因子やリカバリー概念との関連も考察された。本人ミーティングは認知症当事者の心理的成長やリカバリーを促す可能性を持つ一方で、認知症は進行性の疾患/障害であり、参加者の認知機能や身体機能の変化によって容易に影響されてしまう可能性がある。
3) 医療機関における診断後支援の実態調査
抗Aβ抗体外来を受診する認知症の患者のQOLの調査を体系的に行うために、精神科医師、脳神経内科医師、心理士、精神保健福祉士および老年学を専門とする研究者の対話を重ね、4つの研究プロトコルを策定した。
4) 認知症サポート医調査
認知症サポート医の基本属性に大きな地域差はなかったが、東北地方では病院勤務者が多い傾向が見られた。
診断時の実践として、東北地方の認知症サポート医は本人への病名告知を行う割合が高い一方で、地域包括支援センターに関する情報提供は少なかった。困難事例への対応に際して、認知症疾患医療センターや地域包括支援センターとの連携することは、東京都の認知症サポート医の方が有意に多かった。ACPの実施状況には有意差はなかった。しかし「死に関することを話題にすることの心理的抵抗を表明した回答者が、東北地方の認知症サポート医の方が有意に高かった。
5) 認知症診断後の家族支援の現状と課題
全国の認知症疾患医療センターおよび東北エリアのサポート医を通じて1050票を配布し、2025年2月末時点で132票の回答を得た。予備解析の結果、違和感を覚えてから確定診断に至るまで平均12.2カ月を要し、診断確定プロセスに大きな個人差が認められた。診断直後に家族が求めた情報は「介護保険申請手続」「介護保険サービス利用」「認知症への対応」が多く、診断時点における介護生活に関する情報提供の必要性が示唆された。また、診断により安心感を得る一方で、本人の生活や症状進行への不安も高率に報告された。今後は、最終回収データを加え、家族支援に関連する要因を分析し、包括的な診断後支援モデルの構築を目指す。
令和5年10月現在において指定されている505施設に発送し、227施設(回収率45%)から回答を得た。診断後支援のうち、医療・介護に関する支援提供率は高かった一方で、「就労支援」「経済的支援」「権利擁護」に関する支援の提供率は低い傾向がみられた。
2) 本人ミーティングを通じた認知症当事者の回復に関する研究
東京都内の認知症支援地域拠点で行われた本人ミーティングに継続して参加した認知症を分析対象とし、観察記録、フィールドノート、議事録を分析した。分析対象者ごとに抽出したカテゴリを統合し比較・分類した結果、【認知症の受容と認識の変化】、【対人交流の積極性の変化】、【認知症と共に生きる知恵と工夫】、【尊厳】、【状況の変化】、【家族との葛藤】の6つのテーマを抽出された。この中から、特にミーティングがもたらした変化を表す2つのテーマは【認知症の受容と意識の変化】、【対人交流の積極性の変化】であった。参加を重ねるにつれて、認知症の受容が進み、対人交流が積極的になるなど前向きな変化が見られた。認知症の当事者がファシリテーターを担う、心理的安全性の高い場づくり、勉強会といった要素がこれらの変化を促進した可能性が示唆され、集団心理療法における治療的因子やリカバリー概念との関連も考察された。本人ミーティングは認知症当事者の心理的成長やリカバリーを促す可能性を持つ一方で、認知症は進行性の疾患/障害であり、参加者の認知機能や身体機能の変化によって容易に影響されてしまう可能性がある。
3) 医療機関における診断後支援の実態調査
抗Aβ抗体外来を受診する認知症の患者のQOLの調査を体系的に行うために、精神科医師、脳神経内科医師、心理士、精神保健福祉士および老年学を専門とする研究者の対話を重ね、4つの研究プロトコルを策定した。
4) 認知症サポート医調査
認知症サポート医の基本属性に大きな地域差はなかったが、東北地方では病院勤務者が多い傾向が見られた。
診断時の実践として、東北地方の認知症サポート医は本人への病名告知を行う割合が高い一方で、地域包括支援センターに関する情報提供は少なかった。困難事例への対応に際して、認知症疾患医療センターや地域包括支援センターとの連携することは、東京都の認知症サポート医の方が有意に多かった。ACPの実施状況には有意差はなかった。しかし「死に関することを話題にすることの心理的抵抗を表明した回答者が、東北地方の認知症サポート医の方が有意に高かった。
5) 認知症診断後の家族支援の現状と課題
全国の認知症疾患医療センターおよび東北エリアのサポート医を通じて1050票を配布し、2025年2月末時点で132票の回答を得た。予備解析の結果、違和感を覚えてから確定診断に至るまで平均12.2カ月を要し、診断確定プロセスに大きな個人差が認められた。診断直後に家族が求めた情報は「介護保険申請手続」「介護保険サービス利用」「認知症への対応」が多く、診断時点における介護生活に関する情報提供の必要性が示唆された。また、診断により安心感を得る一方で、本人の生活や症状進行への不安も高率に報告された。今後は、最終回収データを加え、家族支援に関連する要因を分析し、包括的な診断後支援モデルの構築を目指す。
結論
データがすくない診断後支援に関する体系的なデータが蓄積された。今後の政策の基礎資料となるとともに、3年目に作成するマニュアルに向けた重要な資料になる。
公開日・更新日
公開日
2025-05-01
更新日
-