文献情報
文献番号
202416008A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症の有病率に影響を与える因子の解明のための調査研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24GB1002
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
二宮 利治(九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学分野 )
研究分担者(所属機関)
- 前田 哲也(岩手医科大学 脳神経内科・老年科)
- 小野 賢二郎(金沢大学 医薬保健研究域医学系)
- 中島 健二(独立行政法人国立病院機構松江医療センター)
- 伊賀 淳一(愛媛大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和8(2026)年度
研究費
10,207,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
超高齢社会を迎えたわが国では、認知症は大きな医療・社会問題として注目されている。認知症対策の基盤として、全国的な有病率の把握が求められるが、悉皆調査は煩雑で実施が困難である。そこで本研究では、福岡県糟屋郡久山町において長期継続されている認知症の有病率調査の成績を用いて認知症の有病率、発症率及び生存率の時代的推移とその変化の要因を検討する。さらに、地域行政において利用可能な情報を用いた認知症有病率の推計モデルを作成する。
研究方法
久山町では1985年から2022年にかけて7回の認知症の有病率調査を実施した。さらに、1988年・2002年・2012年のベースライン調査に参加した対象者を10年間前向きに追跡した成績を用いて、認知症の発症率および発症後5年生存率を評価した。認知症の診断には2段階の評価法(神経心理テストによるスクリーニング+専門医の診断)を採用し、DSM-III-Rを診断基準とした。統計解析にはロジスティック回帰およびコックスモデル等を用いた。また、2012年・2017年調査のデータから、性別、年齢、要介護認定度、認知症高齢者自立度、治療歴、脳卒中既往歴の情報を用いた認知症有病率の推計モデルを作成した。
結果と考察
1985年から2012年にかけて認知症の有病率は6.7%から17.9%へと増加したが、その後は減少傾向を認め、2022年には11.9%となった。認知症の発症率については、2002年コホートで、1988年に比べ上昇したが、2012年コホートでは有意に低下した。特に65〜89歳での低下が顕著であった。なお、認知症発症後の5年生存率は2002年に上昇したが、2012年との間に差はなかった。以上のことから、近年の認知症の有病率の低下には、認知症の発症率の低下が関与していた。そこで、2002年と2012年のベースライン調査における背景因子を比較したところ、教育歴の向上、高血圧・高コレステロール・喫煙・低身体活動といったリスク因子の減少、糖尿病管理の質の改善などが発症率の低下に寄与していることが示唆された。
認知症の有病率の推計モデル検討では、要介護認定関連情報を有する高齢者においては、認知症高齢者自立度を含むモデルの識別能(C統計量0.93)が高く、要介護認定関連情報を有する者では、認知症の有病率の推定値と実測値の一致も良好であった。一方、認知症者においても要介護認定関連情報を有しない者が約30-50%を占めており、これがモデルの適用精度に影響している点が課題として示された。
認知症の有病率の推計モデル検討では、要介護認定関連情報を有する高齢者においては、認知症高齢者自立度を含むモデルの識別能(C統計量0.93)が高く、要介護認定関連情報を有する者では、認知症の有病率の推定値と実測値の一致も良好であった。一方、認知症者においても要介護認定関連情報を有しない者が約30-50%を占めており、これがモデルの適用精度に影響している点が課題として示された。
結論
近年の認知症有病率の減少は、その発症率の低下によるものであり、その背景には教育水準の向上、生活習慣病の管理改善などがあると考えられる。また、行政データを活用した推計モデルは高精度な予測が可能であり、今後の認知症対策における有用な手段となる。一方で、情報欠損への対応が今後の課題である。次年度は、前年度の認知症の有病率推計モデルの開発を引き続き実施する共に、他の地域のデータを用いたモデルの外的妥当性の検討を行う。
公開日・更新日
公開日
2025-05-30
更新日
-