認知症医療の進展に伴う社会的課題への対応のための研究

文献情報

文献番号
202416007A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症医療の進展に伴う社会的課題への対応のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24GB1001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
新井 哲明(筑波大学 医学医療系臨床医学域精神医学)
研究分担者(所属機関)
  • 五十嵐 中(東京大学 大学院薬学系研究科)
  • 岩田 淳(東京都健康長寿医療センター)
  • 春日 健作(新潟大学 脳研究所)
  • 新美 芳樹(東京大学大学院医学系研究科 医療経済政策学)
  • 東 晋二(東京医科大学 医学部)
  • 山中 克夫(筑波大学人間系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和8(2026)年度
研究費
10,133,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

概要版(繰越課題)
 本研究の目的は、認知症医療の進展、特に抗アミロイドβ(Aβ)抗体薬の導入や血液バイオマーカーによる早期診断技術の実装といった新たな科学的知見に基づく医療の変革が、現行の医療・福祉体制や社会制度に与える影響を多面的に明らかにし、それに対応する具体的かつ実践的な方策を提言することである。特に、抗Aβ抗体薬を取り巻く連携体制や支援体制の構築を通じて、認知症の人と共生できる社会の実現を目指す。研究班は7名の専門家で構成され、それぞれの領域で実地調査、質的・量的分析、制度的課題の抽出と検討を行った。具体的には、抗Aβ抗体薬の適切な導入・継続のための地域連携体制、治療の多面的価値評価法、血液バイオマーカー導入に伴う社会的・倫理的課題、抗Aβ抗体薬投与の現状と課題の分析、軽度認知障害(MCI)などの早期段階への支援策、薬剤非適応群に対する新たな支援体制など、認知症を取り巻く医療・社会環境の変化に対応する包括的な検討を行った。
 茨城県では、すでに構築されている認知症疾患医療センターによる連携体制を基盤に、初回投与施設および継続投与施設となる病院とともに、抗Aβ抗体薬投与に関する全県的な連携の会を設置し、投与に関する現状や実務上の課題について検討を続けてきた。挙げられ課題としては、点滴実施スペースやMRIの予約枠不足、ARIA等の副作用出現時の受け入れや緊急時対応、書式整備(診療情報提供書、治療サマリー、連携協定書、MCIデイケア対応マップ等)、CDR評価者の不足、非適応者への支援、投与の適否説明、投与継続時の認知機能やADLの評価法、同意取得や意思決定支援の方法、当事者参画推進など多岐に亘り、具体的な意見が交換された。抗Aβ抗体薬の広域的かつ持続的な導入には、診療・検査体制の標準化、情報共有の仕組み、地域特性に応じた柔軟な連携体制の確立等が不可欠であることが示された。本連携の会の活動を契機に、これまで必ずしも緊密とは言えなかった総合病院やかかりつけ医と認知症疾患医療センターとの連携体制がより顔の見える確かなものになってきており、このような活動を続けていくことで、各医療圏における認知症医療・ケアの連携体制がさらに強固になることが期待されるとともに、これらの知見は、今後の全国展開や政策立案の重要な基盤となると考えられた。
 抗Aβ抗体薬投与に関する現状での課題を明らかにし、抗Aβ抗体薬に望まれる各種体制の構築に活用することを目的に、日本認知症学会あるいは日本老年精神医学会専門医で、両学会が施行した「アルツハイマー病における抗アミロイドβ抗体薬の投与にあたり必要な事項」講習を受講した医師を対象にアンケートを実施した。311人の専門医がレカネマブを投与した患者は合計3,259人であった。回答者の大多数(79%)は、初回診察から初回点滴までの待ち時間が3か月以内であると報告した。4分の1の回答者は、外来診療スペースと人員が逼迫しており、治療効果はが予想よりも低いと報告した。安全性に関する懸念は限定的で、ARIA関連の中断は3.5%であった。半数以上が、点滴に関連する追加の加算やAPOE検査の保険適用を強く支持した。調査結果から、レカネマブへの早期アクセスは実現可能と思われるが、インフラ面および財政面のハードルが依然として残っている。日本においてこの治療法をより安全で、よりアクセスしやすく、持続的に使用するために、APOE検査に対する保険適用が不可欠となる可能性があると考えられた。薬剤投与においては、点滴スペースやそのための人員の確保、インフォームドコンセントに要する時間の確保、収益性の低さなどが課題となっており、また薬剤導入に際しては、最適使用推進ガイドラインにおいて要求される検査体制およびARIAを主とした副作用対応が大きな障壁となっていることが明らかとなった。
 これらに加え、認知症疾患医療センターとの連携を軸とした初回導入施設と継続導入施設との連携の強化、介助者のQOLの評価を加味した認知症治療の価値評価および医療経済評価、血液バイオマーカー(血漿リン酸化タウ:pTau217)の実装を見据えた対応、共同意思決定やアドバンスケアプランニングを含めた早期例への意思決定支援法の確立、薬剤非適応群に対するCognitive Stimulation Therapy等の非薬物療法の提供体制の確立などが今後の課題として重要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2025-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-05-30
更新日
2025-06-04

収支報告書

文献番号
202416007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,172,000円
(2)補助金確定額
13,172,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,552,255円
人件費・謝金 5,269,771円
旅費 1,379,420円
その他 1,008,116円
間接経費 3,039,000円
合計 13,248,562円

備考

備考
物品の購入にあたり、交付金の総額を若干上回ったため、自己資金より支出しました。

公開日・更新日

公開日
2025-05-30
更新日
-