AAVを利用した遺伝子導入法の基礎研究とその応用(パーキンソン病の遺伝子治療法開発)

文献情報

文献番号
199700730A
報告書区分
総括
研究課題名
AAVを利用した遺伝子導入法の基礎研究とその応用(パーキンソン病の遺伝子治療法開発)
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小澤 敬也(自治医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 中野今治(自治医科大学)
  • 永津俊治(藤田保健衛生大学総合医科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
80,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝子治療臨床研究が米国を中心に活発に実施されているが、臨床的有効性が確認されたものはまだ殆どなく、ベクター開発などの基盤研究の重要性が指摘されている。本研究では、安全性の点で脚光を浴びているアデノ随伴ウイルス(AAV)を利用した遺伝子導入法に焦点を当て、その基礎研究から応用の可能性について検討した。AAVに由来するベクターの実用化を図るには、作製法自体の開発が必須であり、特にパッケージング細胞株の樹立は重要課題である。また、AAVの性質を利用した染色体部位特異的遺伝子組込み法は、治療用遺伝子の第19番染色体AAVS1領域特異的組込みを狙った将来性のある技術であり、その開発を推進した。応用研究としては、神経細胞がAAVベクターに適した標的細胞であることに着目し、神経変性疾患であるパーキンソン病の遺伝子治療法開発に向けた基礎実験を行った。そのストラテジーとしては、チロシン水酸化酵素(TH)などのドーパミン生合成酵素遺伝子を用いる方法と、ドーパミン神経細胞の生存維持に関係する神経栄養因子遺伝子を用いる方法が代表的なものである。前者は対症療法を、後者は疾患の進行を防ぐことを目的としたものである。また、テトラヒドロビオプテリン(BH4: THの補酵素)生合成の第2段階に働くピルボイルテトラヒドロプテリン合成酵素(PTPS: pyruvoyltetrahydropterin synthese)やGDNF(glial cell line-derived neurotrophic factor)の遺伝子構造を解析し、基礎データの集積を行った。高齢化社会を迎え、パーキンソン病の急増が予想されており、現在のl-ドーパ内服療法に代わるより優れた治療法の開発は極めて重要な課題であると考えられる。
研究方法
1。AAVベクター作製技術の開発:1)Rep遺伝子部分(ゲノム左半分)とCap遺伝子部分(ゲノム右半分)をスプリットした形のヘルパープラスミドについて、Rep発現プラスミド(pRep)とCap発現プラスミド(pCap)、あるいはRep78/68発現プラスミド(pR78/68)とRep52/40およびCap発現プラスミド(pR52/40Cap)にスプリットしたプラスミドを構築し、AAVベクター作製効率を検討した。2)パッケージング細胞株の開発では、細胞毒性を有するRep蛋白質(Rep78/68)の発現をCre-loxPのスイッチ機構により制御することを試みた。具体的には、Rep発現ユニットのプロモーターと蛋白質コード領域の間にloxP配列で挟んだstufferを挿入したプラスミドを構築し、これを293細胞に導入した。AAVベクター作製時には、ベクタープラスミドを導入し、さらにCreリコンビナーゼ発現アデノウイルスベクターを感染させた。2。第19番染色体部位特異的遺伝子組込み法の開発:野生型AAVはそのウイルスゲノムを第19番染色体長腕AAVS1領域に特異的に組み込む性質を有しているが、この現象はウイルスゲノム両端のITRとRep蛋白質を介したものと考えられている。Rep78, Rep68, Rep52, Rep40の中のいずれが部位特異的組込み反応に関わっているのか調べるため、各Rep蛋白質を単独発現するプラスミドを構築し、ITRで挟んだneo耐性遺伝子を持つプラスミドと共に293細胞にトランスフェクションした。その後、AAVS1領域への特異的遺伝子組込みについて、PCR-dot blot法、Southern分析法、FISH(fluorescence in situ hybridization)法などにて検討した。さらに、組込みに関与するRep機能ドメインを解析するため、多数のRep変異体発現プラスミドを構築し、同様に検討した。3。パーキンソン病の遺伝子治療モデル実験:TH遺伝子あるいは芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)遺伝子を含むAAVベクター(AAV-TH及びAAV-AADC)を作製した。黒質線条体路に6-OHDA(6-hyd
roxydopamine)を注入して作製したパーキンソン病モデルラットの線条体にAAV-THおよびAAV-AADCをステレオ装置を用いて注入し、その前後でapomorphine投与時の異常運動の回転数を比較した。GDNF遺伝子については、初代培養ラット中脳細胞にAAV-GDNFを感染させ、抗TH抗体を用いた免疫染色により検討した。その他、PTPS遺伝子とGDNF遺伝子の単離を行い、エキソン周辺やプロモーター領域の塩基配列を決定した。
結果と考察
1。AAVベクター作製技術の開発:1)スプリットタイプ・ヘルパープラスミドについては、pRep:pCap=1:9のときの力価が最も高く、従来のヘルパープラスミドと同等以上であった。pR78/68とpR52/40Capを用いた場合も同様の結果が得られた。Capの発現量の多いことが重要であると考えられた。2)パッケージング細胞株の開発では、今回樹立したものでは、108 - 109 particles/10cm dishのAAVベクターを作製できた。但し、従来法に比べると力価がまだ低く、また長期間その性質を維持するのが困難であるため、さらに改良を加えていく必要がある。特に、Cap蛋白質の発現レベルを高める工夫が重要である。2。第19番染色体部位特異的遺伝子組込み法に関する検討:Rep78/68を発現させた場合にITRで挟んだ目的遺伝子のAAVS1領域への部位特異的組込みが検出された。Rep変異体に関しては、Arg107、Lys136、Arg138をそれぞれAlaに変換したRep変異体では特異的遺伝子組込み活性が失われた。本法は将来的に重要なテクノロジーであり、今回の知見は基礎データとして重要である。3。パーキンソン病の遺伝子治療モデル実験:パーキンソン病モデルラットを用いた遺伝子治療実験では、2種類の遺伝子(THおよびAADC)を別々のAAVベクターで同一の神経細胞に導入できること、TH遺伝子単独よりAADC遺伝子併用の方が有効であることが示された。GDNF遺伝子を初代培養ラット中脳細胞へ導入した実験では、ドーパミン神経細胞の生存が維持され、神経突起の成長が促進された。このことは、GDNF遺伝子治療がドーパミン神経細胞の選択的変性を阻止し、病像の進展を遅延させる効果を持つことを示唆している。その他、PTPS遺伝子とGDNF遺伝子の単離を行い、エキソン周辺やプロモーター領域の塩基配列を決定した。今後の遺伝子治療法の開発上、これらは重要な基礎的知見をもたらすと考えている。
結論
AAVを利用した遺伝子導入法の基礎研究では、AAVベクター作製法に関して、スプリットタイプ・ヘルパープラスミドの検討、Cre-loxP系のスイッチ機構によりRep蛋白質を制御したパッケージング細胞株の開発を行った。また、AAVの特性を利用した第19番染色体部位特異的遺伝子組込み法では、Rep78/68とITRが重要な働きをしていることを示した。AAVベクターの応用研究では、パーキンソン病の遺伝子治療法の開発を進めた。治療用候補遺伝子としては、ドーパミン合成に必要なTHとAADC、ならびに神経栄養因子のGDNFの各遺伝子をAAVベクターに挿入し、遺伝子導入実験を行った。AAV-THとAAV-AADCの併用効果は、パーキンソン病モデルラットの線条体にベクターを注入する実験で明らかになった。また、培養神経細胞にAAV-GDNF遺伝子を導入すると、ドーパミン神経細胞の生存維持と神経突起伸長作用が確認できた。その他、PTPS遺伝子及びGDNF遺伝子をそれぞれ単離し、それぞれの構造を解明した。

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