訪問看護サービスの安全管理に係る多角的・科学的エビデンス構築

文献情報

文献番号
202415006A
報告書区分
総括
研究課題名
訪問看護サービスの安全管理に係る多角的・科学的エビデンス構築
研究課題名(英字)
-
課題番号
24GA1002
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
山本 則子(国立大学法人 東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 吉岡 京子(東京大学 大学院医学系研究科 健康科学・看護学専攻 地域看護学分野)
  • 角川 由香(東京大学 医学系研究科)
  • 柏原 康佑(東京大学 医学部附属病院)
  • 五十嵐 歩(東京大学大学院 医学系研究科 健康科学・看護学専攻)
  • 沼田 華子(東京大学 医学系研究科 健康科学看護学専攻 高齢者在宅長期ケア看護学分野)
  • ELTAYBANI SAMEH(エルタイバニ サメハ)(東京大学  健康科学・看護学専攻)
  • 高岡 茉奈美(東京大学 大学院医学系研究科附属グローバルナーシングリサーチセンター)
  • 山名 隼人(自治医科大学 データサイエンスセンター)
  • 平原 優美(日本訪問看護財団)
  • 弓野 大(医療法人社団ゆみの)
  • 辻村 真由子(滋賀医科大学 医学部看護学科)
  • 内山 瑛美子(東京大学 大学院工学系研究科)
  • 矢坂 泰介(東京大学 大学院医学系研究科ナーシングデータサイエンス講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学政策研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
6,908,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、訪問看護の質と安全性の向上を目的として、訪問看護利用者における自宅内発生事故の実態把握と予防・対応策の検証を行うものである。具体的には、①訪問看護事業所における安全管理体制と事故内容の実態把握、②自治体による事故報告の把握・活用状況の解明、③レセプトデータを用いた事故の実態分析、④高齢心不全患者を対象とした事故予防効果の検証を通じて、訪問看護における包括的な安全管理体制の構築に資する知見を得ることを目指した。
研究方法
本研究は4つの研究課題から構成された。
研究1では、文献検討と有識者ヒアリングによる在宅ケアの安全性に関する概念化と内容整理を行い、全国調査に向け質問項目を確定した。
研究2では、被災3県を除く全国の自治体を対象に、訪問看護利用者の事故報告に関する横断的Web調査を行った。調査の呼びかけは厚生労働省老健局老人保健課の「調査・照会(一斉調査)システム」を通じて行い、研究目的・方法等を記載した説明文書を送付した。また、都道府県から市
区町村への調査協力依頼をするために、調査票配布協力依頼状と説明文書も併せて送付した。
研究3では、関東地方の1県の全市町から2019~2023年度の医療・介護レセプトデータを取得し、個人レベルで連結したデータベースを構築し解析した。
研究4では、東京都内のクリニック3拠点で65歳以上の心不全患者を対象とした前向き縦断調査と、訪問看護利用者および家族へのインタビュー調査を実施した。
結果と考察
研究1の文献検討では、在宅ケアにおける安全性が身体的、社会的、精神的、認知的の多次元的概念として捉えられること、服薬関連と転倒が主要な事故類型であることを明らかにした。また、看護師は予防的アセスメント、予見、安全性の確立、検証という段階的プロセスを通じて安全管理の中核的役割を担っていることが示された。有識者ヒアリングからは、日本の訪問看護における具体的な事故・インシデント事例と、家庭環境への配慮や訪問看護師不在時のリスク管理という訪問看護特有の課題が明らかになった。先行研究による知見と日本の実情を統合することで、訪問看護の安全管理における課題が多面的に整理され、実態調査に必要な要素を網羅的に特定できた。
研究2では、都道府県票に対し回答のあった46自治体(回収率23.6%)のうち、介護保険利用者の事故を「把握する仕組みがある」と回答した自治体は12(26.1%)であった一方、医療保険利用者の事故を把握する仕組みがあると回答自治体は1件もなかった。市区町村票に回答のあった403自治体(回収率24.2%)では、介護保険利用者の事故を把握する仕組みがある自治体は318(78.9%)、うち事故情報を活用していないと回答した自治体が185あった。医療保険利用者の事故を把握する仕組みがある自治体22(5.5%)、うち事故情報を活用していない自治体が11あった。
介護保険利用者に関しては、一定の基準に基づく事故把握体制が比較的整備されていた一方で、医療保険利用者に関して自治体が保険者として事故を把握する体制を含めた事故把握体制は不十分であることが窺われた。
研究3では約20万人規模のデータベースを構築し、2021年度の介護保険訪問看護利用者約6,000人の分析から、12ヶ月間の外傷発生率が約12%、骨折による入院率が約2%であることを明らかにした。
研究4では、高齢心不全患者67名を対象とした調査で、転倒・転落が最も多い事故(15%)であり、内服・薬剤関連事故は訪問看護利用群で高い傾向を示した。インタビュー調査からは、生活導線につかまれる物を置くこと、一包化や薬ボックスを用いた間違いにくい内服管理の改善といった事故予防行動と、気兼ねなく在宅サービス提供者に事故の報告・相談のできる良好な関係性の構築が事故予防に寄与していることが示唆された。
結論
本研究の結果を踏まえ、今後は訪問看護事業所における安全管理体制および事故・インシデント等に関する実態調査の実施により、その詳細を把握するとともに、訪問看護利用中の事故を把握しデータを活用していると回答した自治体へのヒアリングを行い、事故予防・管理活動実施上の自治体による工夫や直面している困難等を把握する。以上より、訪問看護が両保険制度にまたがるサービスであるという特性を踏まえた統合的なリスクマネジメント体制の構築と、現場が活用可能な形での事故情報フィードバック体制の整備を検討することが必要である。また、本研究で得られた知見を基に、訪問看護利用者の安全を確保するための包括的なガイドラインや事故予防・事故報告体制構築に関する検討を進め、在宅医療の質向上に貢献していくことが求められる。

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
2025-08-18

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-06-02
更新日
2025-08-18

収支報告書

文献番号
202415006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,979,000円
(2)補助金確定額
8,979,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 803,811円
人件費・謝金 3,237,830円
旅費 2,905円
その他 2,782,284円
間接経費 2,071,000円
合計 8,897,830円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2025-08-18
更新日
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