文献情報
文献番号
202412005A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギー疾患医療の質および経年推移の可視化と、アレルギー疾患対策基本法に基づく政策的介入効果の評価法の開発に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24FE1001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
長尾 みづほ(独立行政法人国立病院機構三重病院 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
- 堀口 裕正(独立行政法人国立病院機構 本部 総合研究センター 診療情報分析部)
- 森田 英明(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 免疫アレルギー・感染研究部)
- 野田 龍也(公立大学法人奈良県立医科大学 医学部 公衆衛生学講座)
- 二村 昌樹(国立病院機構 名古屋医療センター 小児科)
- 佐藤 さくら(国立病院機構相模原病院臨床研究センター 病態総合研究部)
- 神尾 敬子(東京女子医科大学・内科学講座呼吸器内科学分野)
- 坂下 雅文(福井大学 医学部 耳鼻咽喉科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和8(2026)年度
研究費
6,542,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、アレルギー疾患対策基本法に基づき、気管支喘息(BA)、食物アレルギー(FA)、アレルギー性鼻炎(AR)、アトピー性皮膚炎(AD)の4疾患に対する政策的介入の効果を、全国規模で定量的に可視化・評価することを目的とする。対象はレセプト情報・特定健診等情報を包含するナショナルデータベース(NDB)であり、実臨床における治療継続、薬剤導入、診療アクセスの実態を把握し、指標化することで、標準的医療の浸透度や地域格差の構造的課題を明らかにする。令和6年度は初年度として、研究体制の構築、NDB利用承認、予備的集計、疾患ごとの評価指標設計、および疾患横断的視点からの課題整理に取り組み、今後の政策的実装に資する評価モデルの土台形成を行った。
研究方法
研究班は、各疾患の専門家を中心に構成され、FA(佐藤・桑原・長尾)、BA(神尾・森田・野田)、AR(坂下・長尾・野田)、AD(二村・佐藤・長尾)に分担して解析を行い、野田班が全体のデータ処理を統括した。令和6年度は、(1)NDBの包括的利用申請と厚生労働省保険局からの承認取得、(2)既存データを活用した探索的解析、(3)疾患別評価指標の草案策定、(4)各種患者属性・治療傾向に関する集計と分布分析、(5)将来的なアウトカム評価と地域間比較に資する横断的指標設計の検討、を進めた。研究班内では定期的な議論・意見交換を重ね、解析設計の妥当性と現場への応用可能性を意識した体制整備に努めた。
結果と考察
FAでは、2016~2021年度のエピペン新規処方は年間約3万人で推移し、年齢層別では0~9歳が最多であった。アドレナリン注射後のエピペン処方率は全体で5割未満、薬剤アレルギーではさらに低く、緊急対応後のフォロー体制に課題があることが明らかとなった。診療所・病院間の処方率は均等であるが、近年は診療所の比率が上昇している。
BAでは、ICSとBioの導入傾向を分析し、15歳未満ではICS新規導入が減少、15歳以上では増加がみられた。施設別には病院での処方は横ばいだが、診療所では明確な増加傾向を示しており、地域・年齢・施設別での治療方針の違いを反映している。今後は高用量ICSや複数吸入薬併用例の抽出により、重症群の層別化を行うことが求められる。
ARでは、SLIT導入が2018年以降に加速し、特に学童期にダニSLIT、成人層でスギSLITの導入が顕著であった。継続率は全体で約6割にとどまり、地域差と処方医の専門性が影響する可能性が示唆された。今後は中断後の再診率や、合併症との関連を評価する指標構築が望まれる。
ADでは、全身療法導入患者(Bio・JAK)の抽出と受診行動・併用薬の変遷を解析した。12週以上の継続投与例では、導入前後での薬剤パターン変化が顕著で、導入患者は重症例に集中していた。また、BA併存例での治療内容の複雑化が認められ、AD単独例とは異なる医療資源利用傾向が明らかとなった。特に、施設間の導入率の差や、処方タイミングの遅延は、診療アクセスと構造的課題を浮き彫りにする重要な知見である。
さらに、疾患横断的には、治療強度・継続性・フォロー体制を共通指標として整備し、今後のアウトカムとの関連性検証が重要であるとの認識が得られた。単年度集計では捉えきれない経時変化の評価においても、3年以上の継続的なデータ解析が指標の妥当性を高める上で不可欠である。
BAでは、ICSとBioの導入傾向を分析し、15歳未満ではICS新規導入が減少、15歳以上では増加がみられた。施設別には病院での処方は横ばいだが、診療所では明確な増加傾向を示しており、地域・年齢・施設別での治療方針の違いを反映している。今後は高用量ICSや複数吸入薬併用例の抽出により、重症群の層別化を行うことが求められる。
ARでは、SLIT導入が2018年以降に加速し、特に学童期にダニSLIT、成人層でスギSLITの導入が顕著であった。継続率は全体で約6割にとどまり、地域差と処方医の専門性が影響する可能性が示唆された。今後は中断後の再診率や、合併症との関連を評価する指標構築が望まれる。
ADでは、全身療法導入患者(Bio・JAK)の抽出と受診行動・併用薬の変遷を解析した。12週以上の継続投与例では、導入前後での薬剤パターン変化が顕著で、導入患者は重症例に集中していた。また、BA併存例での治療内容の複雑化が認められ、AD単独例とは異なる医療資源利用傾向が明らかとなった。特に、施設間の導入率の差や、処方タイミングの遅延は、診療アクセスと構造的課題を浮き彫りにする重要な知見である。
さらに、疾患横断的には、治療強度・継続性・フォロー体制を共通指標として整備し、今後のアウトカムとの関連性検証が重要であるとの認識が得られた。単年度集計では捉えきれない経時変化の評価においても、3年以上の継続的なデータ解析が指標の妥当性を高める上で不可欠である。
結論
令和6年度は、アレルギー4疾患に関する診療実態を明らかにし、診療評価指標開発のための基盤を確立した年であった。FAではエピペン処方動向、BAでは年齢・施設別のICS/Bio使用傾向、ARではSLIT導入と継続率、ADでは全身療法導入の構造的課題が明確となり、各領域で診療の質を定量化しうる視点が得られた。今後は、令和7年度以降に提供される最新NDBデータを用い、設計済みの評価指標をもとに本格的な実証解析を実施し、都道府県別・施設種別における診療の質や格差を可視化する。これにより、アレルギー疾患対策における科学的政策形成と、患者にとって公平で質の高い医療提供体制の実現に大きく寄与することが期待される。
公開日・更新日
公開日
2025-11-20
更新日
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