文献情報
文献番号
200941016A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質による神経伝達物質受容体を介した精神毒性発現機序の解明および行動評価方法の開発に関する研究
課題番号
H20-化学・一般-011
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
鍋島 俊隆(名城大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
- 山田 清文(名古屋大学医学部附属属病院・大学院医学系研究科)
- 野田 幸裕(名城大学 薬学部)
- 永井 拓(名古屋大学医学部附属属病院・大学院医学系研究科)
- 間宮 隆吉(名城大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
22,170,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
脳神経系の発達がダイナミックに起こる周産期は化学物質に対して脆弱である。特に、神経情報伝達の基盤となる受容体は胎児期から新生児期にかけて形成されるため化学物資に曝露される危険性が最も高いと考えられる。したがって、神経伝達異常を引き起こす化学物質が子供の精神発達へ悪影響を及ぼすことは明白であるが、その詳細なメカニズムは不明であり、動物実験等による行動評価系も確立されていない。本研究では情動性・認知機能に重要な役割を果たしていると考えられる神経伝達物質受容体に着目し、情動や認知機能の変化を簡便に評価できる方法について検討した。
研究方法
化学物質による神経伝達物質受容体を介した精神毒性発現機序を解明するために、グルタミン酸受容体、アセチルコリン受容体に対して選択的に作用する化合物(グルタミン酸受容体拮抗薬フェンシクリジン(PCP)およびMK801、アセチルコリン受容体作動薬ニコチン)を、周産期のマウスに投与して神経発達にどのような影響を及ぼすかを行動学的に評価した。異常免疫応答を惹起する化合物であるpolyriboinosinic-polyribocytidilic acid(polyI:C)を用いて化学物質による免疫系を介した精神発達障害機構についても解析した。また、各化合物の暴露による脳内のタンパク質発現変化をプロテオーム解析により調べた。
結果と考察
胎生期にNMDA受容体非競合的拮抗薬PCPおよびMK801を暴露したマウスでは、発達に伴い異常行動が発現することを行動評価法で確認することができた。一方、新たな行動評価系を追加することで母親のニコチン摂取が仔マウスの注意力および情動性の発達を障害することを確認できた。新生仔期にpolyI:Cを連続処置したマウスは、不安様行動の増加、認知機能障害、社会性行動の異常および海馬における脱分極誘発性グルタミン酸遊離の障害を示した。PolyI:Cを新生仔期に投与したマウスの脳内におけるタンパク発現変化を網羅的に解析した結果、ALDH1L1およびCRMP5の発現異常を同定した。
結論
グルタミン酸受容体拮抗薬およびアセチルコリン受容体作動薬が精神発達障害を誘発することを明らかにし、これらの行動異常を感度良く評価できる方法をセットアップできた。また、異常免疫応答を惹起する化合物を用いて、免疫系など生体との相互作用を介した化学物質による精神発達障害が引き起こされることを明らかにした。したがって、これらの行動評価方法を使うことによって、化学物質の精神毒性を効率よく評価し、治療薬および予防法を提案することが可能になると思われる。
公開日・更新日
公開日
2010-05-30
更新日
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