ナノマテリアルの経皮毒性に関するトキシコキネティクスおよびトキシコプロテオミクス等の融合による有害性評価法・リスク予測法の開発

文献情報

文献番号
200941004A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルの経皮毒性に関するトキシコキネティクスおよびトキシコプロテオミクス等の融合による有害性評価法・リスク予測法の開発
課題番号
H19-化学・一般-005
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
堤 康央(大阪大学 薬学研究科(毒性学分野))
研究分担者(所属機関)
  • 八木清仁(大阪大学 薬学研究科(生体機能分子化学分野))
  • 中川晋作(大阪大学 薬学研究科(薬剤学分野))
  • 吉川友章(大阪大学 薬学研究科(毒性学分野) )
  • 角田慎一(独立行政法人医薬基盤研究所(バイオ創薬プロジェクト))
  • 今澤孝喜(独立行政法人医薬基盤研究所(共用機器実験室))
  • 阿部康弘(独立行政法人医薬基盤研究所(バイオ創薬プロジェクト))
  • 吉岡靖雄(大阪大学 大阪大学臨床医工学融合研究教育センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
52,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、ナノマテリアル(NM)を配合した様々な製品の開発が盛んに行われている。しかし、NMの革新的な機能が逆に、ヒトの健康に悪影響(NanoTox)を及ぼす可能性が懸念され始めており、NMの安全性確保が急務となっている。本観点から我々は、NMの安全性情報の収集と、安全なNMの開発支援を目的に、香粧品基材として汎用されているナノシリカ(nSP)の物性とそれを反映した体内動態や安全性との連関を解析してきた。これまでに、100 nm以下のサイズのnSPが経皮吸収性や体内動態、生体影響の点でサブミクロンサイズ以上のものとは決定的に異なることを初めて明らかとしている。今年度は、nSPに関して血液凝固系や胎仔・新生児、起炎性、薬物相互作用に与える影響等を精査した。さらに、本邦が担当するOECDガイドライン作製に向けて、フラーレン(FL)やカーボンナノチューブ(CNT)の経皮毒性試験を実施した。
研究方法
表面未修飾nSP(直径70、100、300、1000 nm)と、アミノ基あるいはカルボキシル基で修飾したnSP70を使用した。また、CNTおよびFLの安全性試験は、OECDガイドライン(TG410限定試験)に準拠した。
結果と考察
nSP70投与によって、正常マウスでは急激な肝傷害マーカーの上昇と血液凝固系の過剰な活性化が、妊娠マウスでは胎仔吸収が認められ、出生した新生仔の血中において顆粒球の有意な増加が認められた。さらにnSP70投与マウスでは、シスプラチンの副作用(肝傷害)、起炎性が促進されていた。これらの現象は、表面修飾体あるいはサブミクロンサイズの素材を適用した群では著しく減弱していた。一方で、CNTやFLは安全性に懸念がないと考えられるものの、血液検査において統計学的に有意な影響が散発的に見られたため、他国の検査結果と共に総合的に判断する必要があると判断された。
結論
これらの結果から、NM配合製品に関しては、体内吸収性や体内動態の定量的かつ詳細な評価が必要である事が強く示唆されたものの、粒子径や表面性状を適切に制御することによって有効かつ安全なNMの創製が実現するものと考えられ、本成果は、安全性を確保しつつも、我が国のナノ産業の発展を達成し得ることを示すものである。

公開日・更新日

公開日
2010-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200941004B
報告書区分
総合
研究課題名
ナノマテリアルの経皮毒性に関するトキシコキネティクスおよびトキシコプロテオミクス等の融合による有害性評価法・リスク予測法の開発
課題番号
H19-化学・一般-005
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
堤 康央(大阪大学 薬学研究科(毒性学分野))
研究分担者(所属機関)
  • 八木清仁(大阪大学 薬学研究科(生体機能分子化学))
  • 中川晋作(大阪大学 薬学研究科(薬剤学分野))
  • 吉川友章(大阪大学 薬学研究科(毒性学分野))
  • 角田慎一(独立行政法人医薬基盤研究所(バイオ創薬プロジェクト))
  • 今澤孝喜(独立行政法人医薬基盤研究所(共用機器実験室))
  • 阿部康弘(独立行政法人医薬基盤研究所(バイオ創薬プロジェクト))
  • 吉岡靖雄(大阪大学臨床医工学融合教育研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、産業利用を目的として開発・製造されるナノマテリアル(NM)配合製品の実用化が急速に進められている。しかし近年、NMの革新的な機能が逆に、ヒトの健康に悪影響(NanoTox)を及ぼす可能性が懸念され始めている。しかし世界的に観ても、NMのリスク評価・管理に必須となる曝露情報(吸収→分布・蓄積・代謝→排泄といった細胞内・体内動態情報)は皆無に等しい。このまま不十分な安全性情報に基づいたNM規制を施行した場合、NM利用製品の産業応用の阻害に繋がり、将来的にナノテクノロジーに立脚した我が国の産業競争力を喪失させかねない。そこで本研究では、特に実用化が進んでいるNMを経皮適用する領域での安全性情報の集積を目的に、ナノシリカ(nSP)を中心に実際に上市されているNMに関して、素材の物性とそれを反映した体内動態や生体影響の関連を精査した。
研究方法
本研究では、表面未修飾nSP(直径70、100、300、1000 nm;それぞれnSP70、nSP100、nSP300、mSP1000)と、粒子表面をアミノ基あるいはカルボキシル基で修飾した直径70 nmのnSP(それぞれnSP70-N、nSP70-C)を使用し、経皮吸収性、急性毒性および肝毒性、胎仔や新生児に与える影響等について評価した。
結果と考察
100 nm以下のサイズのnSPが、従来型のサブミクロンサイズ以上のものとは決定的に異なり、①経皮吸収されて全身血中にまで移行し得ること、②肝実質に移行し、肝傷害を引き起こし得ること、③皮内ランゲルハンス細胞や所属リンパ節にまで移行し、免疫毒性を招き得ること、④血液-脳関門を突破し、脳神経毒性を呈し得ること、⑤血液-胎盤関門を突破して胎仔の脳や肝臓にまで移行すること、⑥細胞核にまで移行してDNA傷害性を誘発し得ること、⑦表面修飾nSPを適用することによって①?⑥を低減出来る事などを初めて明らかとした。
結論
これらの結果は、nSPの曝露実態の定量的かつ詳細な評価やそれらを基盤とした摂取許容量や最大無影響量等の設定が必要であることを強く示唆している。また、本事業の成果の中で、最も重要な発見は、NMの粒子表面の適切な制御が、安全なNMを設計するための指針になり得ることを見出した点である。将来的には、これらを基盤とし、安全なNMの開発、NMの社会受容の促進などが実現することを期待している。。

公開日・更新日

公開日
2010-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200941004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
当該研究課題は、多数の論文発表や学会発表に加え、Nature(Vol.461, 2009)、日経バイオテクオンライン(2009年11月26日配信)のトピックス等にも取り上げられるなど学術的に大きな注目を集めている。実際、一昨年の国際ナノ毒性会議においては、我が国からの発表演題の大部分、昨年の欧州毒性会議のナノ毒性セッションでは国内外全体の20%もの発表が当該グループからの報告であったことなどからも、当該事業ではナノマテリアルの安全性確保に関して専門的・学術的に優れた成果を挙げたと言える。
臨床的観点からの成果
当該研究課題においては、単にナノマテリアルの安全性に関する研究を実施するだけではなく、ナノマテリアルの薬物相互作用誘導に関する検討や疾患の発症や悪化における影響をも解析してきた。これらの検討結果から、直径100 nm以下のナノマテリアルが、抗がん剤の肝細胞死誘導能やアトピー性皮膚炎の発症に対して促進的に働く可能性を見出した。以上の成果から、ナノマテリアルの安全性確保を主目的とした当該事業が、厚生労働行政的・社会的に重要であるのみならず、臨床的観点からも必要性の高い内容であることが裏付けられた。
ガイドライン等の開発
昨年にOECD主導のナノマテリアルの安全性調査に関するスポンサーシッププログラムにおける我が国のマイルストンが決定した。本邦は、カーボンナノチューブ(CNT)やフラーレン(C60)に関する安全性情報を集積する必要に迫られている。当該グループでは、CNTやC60の経皮安全性評価を担当しており、滞りなく安全性試験を終了した。この成果は、ナノマテリアルのリスク管理といった厚生労働的視点、さらにOECD対応等による国際貢献の点で、先進国・知財技術立国・健康立国としての我が国に資するものである。
その他行政的観点からの成果
当該グループでは、ナノマテリアル関連産業や化粧品業界・学会と密に連携して安全性評価を進めており、これら連携によって他に類を見ない優れた産業的かつ行政効果を得つつある。ナノマテリアルの経皮安全性評価を主目的としているため、研究代表者は香粧品学会の評議員を務め、かつ日本化粧品工業連合会と協力を得つつ安全性評価を推進した。これらの連携によって関連ナノマテリアル産業の新製品開発意欲を喪失させることなく、産官学が一体となったリスク評価が実現するものと期待している。
その他のインパクト
当該事業においては、ナノマテリアルの安全性確保研究の重要性の啓蒙・公表を目的として、日本薬学会第128年会にて『シンポジウム:ナノマテリアルの医薬品への展開とリスク』を、日本薬学会第130年会にて『シンポジウム:ナノマテリアルの安全確保に向けたNanoTox研究の最前線』を企画・開催した。両シンポジウムは、同学会の講演ハイライトに採択・掲載され、薬事日報(2008年)に、本成果が掲載されている。このように、対外的な注目を集めたことから、各種業界に大きなインパクトを与えたものと考えられる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
7件
査読有り
その他論文(和文)
6件
和文総説6件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
48件
学会発表(国際学会等)
15件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
シンポジウムの企画・運営

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Morishige T., Yoshioka Y., Nakagawa S. et al.
Titanium dioxide induces different levels of IL-1beta production dependent on its particle characteristics through caspase-1 activation mediated by reactive oxygen species and cathepsin B.
Biochem. Biophys. Res. Commun.  (2010)
原著論文2
Morishige T., Yoshioka Y., Nakagawa S. et al.
Cytotoxicity of amorphous silica particles against macrophage-like THP-1 cells depends on particle-size and surface properties.
Pharmazie  (2010)
原著論文3
Yamashita K., Yoshioka Y., Tsutsumi Y. et al.
Carbon nanotubes elicit DNA damage and inflammatory response relative to their size and shape.
Inflammation  (2010)
原著論文4
Nabeshi H., Yoshikawa T., Tsutsumi Y. et al.
Size-dependent cytotoxic effects of amorphous silica nanoparticles on Langerhans cells.
Pharmazie , 3 (65) , 199-201  (2010)
原著論文5
Nishimori H., Kondoh M., Yagi K. et al.
Histological analysis of 70-nm silica particles-induced chronic toxicity in mice.
Eur. J. Pharm. Bipharm. , 3 (72) , 626-629  (2009)
原著論文6
Nishimori H., Kondoh M., Yagi K. et al.
Silica nanoparticles as hepatotoxicants.
Eur. J. Pharm. Bipharm. , 3 (72) , 496-501  (2009)
原著論文7
Nishimori H., Kondoh M., Yagi K. et al.
Influence of 70-nm silica particles in mice with cisplatin or paraquat-induced toxicity.
Pharmazie , 6 (64) , 395-397  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
2016-06-21