デュシェンヌ型及びデュシェンヌ様筋ジストロフィーの分子論的研究

文献情報

文献番号
199700720A
報告書区分
総括
研究課題名
デュシェンヌ型及びデュシェンヌ様筋ジストロフィーの分子論的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 幹晴(国立精神・神経センター、神経研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 笹岡俊邦(国立精神・神経センター、神経研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
59,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)とデュシェンヌ様筋ジストロフィー(SCARMD)の本体解明と治療法の開発を究極の目的とするが、当面の目的としてはこれら筋ジストロフィーの病態の分子機構を明らかにすることである。両筋ジストロフィーは原因遺伝子が異なるものの、臨床症状、病理像はともに良く似ている。この類似は両者共通して認められるサルコグリカン(SG)複合体の著減或いは消失に起因するに違いないと我々は考えており、従ってこの複合体の機能を理解できれば、分子機構が説明できるだろうと考えている。これまでに我々はジストロフィン結合タンパク質(DAP)がこのSG複合体やジストログリカン(DG)複合体など3つの複合体の各成分に分類できることを示し、これらとジストロフィンの筋細胞膜上での結合様式を大まかに定めたモデルを提唱、それは広く一般に用いられてきた。しかしSG複合体とジストロフィンや他の複合体との結合様式、並びに4種のSGによる複合体の形成機構などはまだ不明である。SG複合体の機能を理解するには、これらを明らかにすることが必要である。初年度の研究として我々はSG、DG各複合体及びジストロフィンの相互作用に関する研究、25DAPのクローン化を目指す研究(吉田)、そしてSGノックアウトマウスの作成を目指す研究(笹岡)を進めた。中では特にDG複合体とジストロフィンの相互作用に関する研究に進展があった。
研究方法
ジストロフィンとDAPの複合体(dys-DAP複合体)はウサギ骨格筋の細胞膜より調製した。 この複合体の各成分とジストロフィンの相互作用を調べるためにジストロフィンのC末端部に相当する様々な領域をグルタチオン-Sトランスフェラーゼ(GST)に融合させた融合タンパク質(DCT)を調製した。相互作用は、dys-DAP複合体をSDS/PAGEで分離し、PVDF膜に転写したものにDCTを反応させて調べた。結合したDCTはGSTの特異抗体で検出した。DCTは対応するジストロフィンの両端アミノ酸番号(何れも3千番台)を下3桁で表示して区別した。
結果と考察
(1) ジストロフィン上のb-DG結合部位:DG複合体の構成要素で膜貫通性のDAP、b-DGはジストロフィン分子の後半部、ヒンジ4と後続するCysリッチドメインの前半2/3くらいの範囲に結合していることを我々は既に報告した。遺伝子変異によってこの領域が抜けると重症の筋ジストロフィーDMDになることが患者の遺伝子解析から示されており、この結合の消失がDMD発症の最も大きな原因の1つと我々は考えた。この考え方は筋ジストロフィーの研究者に広く認められている。最近、ヒンジ4付近にWW、CysリッチドメインのC末端部にZZと呼ばれるタンパク質モチーフの存在することが提唱された。WWモチーフは特定のタンパク質と結合可能な構造と一般に考えられているが、ジストロフィンの場合も該当するかどうか、明らかでない。一方我々が明らかにした結合領域の結合はむしろ弱く、後続のC末端ドメイン前半部に至る構造の存在によって強化されることも我々は指摘していた。この知見とZZモチーフの関わりも明らかでない。こうした問題点を明らかにするため今回我々はb-DGと強い結合能を持つDCT 027/345を出発点とし、N末或いはC末を削ることによって結合がどう変化するか調べた。N末を30残基削ったDCT 057/345では結合能が維持されたが、更に15残基削ったDCT 072/345では結合が消失した。この部分はWWモチーフの前半部に相当することから、このモチーフがb-DGとの結合に関与することが示唆された。ただしほぼWWモチーフだけからなるDCT 027/105は結合しなかった。一方b-DG側ではC末15残基がジストロフィンの結合に関与していると報告されている。我々は
今回これを確認するとともに、その中PPPYの4残基が必須であることを見出した。この配列はWWモチーフと結合するタンパク質に見られるコンセンサス配列(PPxY)と合致し、ジストロフィンの場合もWWモチーフが結合に直接関与していることを強く支持した。次にC末側では、21残基だけ削ったDCT 027/324において結合能の明確な低下が見られた。この21残基はZZモチーフの後半部に相当する。ZZモチーフはZnフィンガーの一種で、モチーフ内に存在するCys中特定の4つがZnイオンに配位して構造を形成すると推定されている。DCT 027/324ではこの中2つが失われる。一方我々はDCTのCysをNEMで修飾すると結合が消失することを見ており、Cysが結合に関与する可能性に注目していた。そこでCysを順次、Tyrに変異させたDCT 027/345を作成し、その結合能を検討した。その結果唯一#3340のCysを変異させた時だけ、結合の消失することがわかった。こうした結果はZZモチーフ又はその近傍の構造がb-DGの結合に強く影響することを示す。こうした結果から我々はジストロフィンがWWモチーフを介してb-DGと結合すると考える。しかしDCT 027/105は結合しないことから、これが機能するためには後続の関与が必須と思われる。中でも#3340のCysの関与が重要と思われる。結合に影響するCysが1ケであることから、ジストロフィンのこの領域は推定されたZnフィンガーとは別の構造をとっているのかもしれない。最近、点変異により#3340のCysがTyrに変化してDMDとなったケースが報告されたが、これは我々の結果で説明可能である。
(2) dys-DAP複合体におけるSG複合体の存在の仕方:dys-DAP複合体の結合を部分的に壊し、SG複合体が他成分と結合を維持した形で調製される方法を検索し、それによってSG複合体の存在の仕方を知ろうと考えた。様々な方法を試みたが、その中で制御の容易な方法が1つ見つかった。この方法により、ジストロフィンの無い状態でもSG複合体がDG複合体と結合していることがわかり、その存在様式の一端を見ることができた。
(3) 25DAPの解析:DAPの中で解析が遅れていた25DAPクローン化のため、アミノ酸配列分析を目指した。必要量の確保に大量の精製dysDAP複合体が要求されたが、なぜか収率が低く、労苦を強いられた。原因を色々探った後、精製に用いるレクチンゲルを改良する(レクチンとゲルの間にスペーサーを導入する)ことでどうやら収率を維持する見通しがついた。しかしこうした間に米国のグループから25DAPのクローン化が報告された。我々の目的の1つは25DAPがSCARMD原因遺伝子の可能性を探ることなので、公表された遺伝子配列に基づいて直ちに抗体を作成することとし、実行している。
(4)SGノックアウトマウスの作成:SG複合体1成分の遺伝子をノックアウトしたマウスはSCARMDのモデルになるはずで、これを実験的に証明する必要がある。今年度は実験環境の整備に時間を要したが、どうにか遺伝子ターゲティングベクターの作成にこぎつけた。
結論
(1)に関して、結合部位と見られるWWモチーフとこれに影響を及ぼすZZモチーフはアミノ酸にして200残基以上離れているが、この間の領域は結合にどう影響するのであろうか。DMDのケースを調べると、この領域の前半部(エキソン#64-66)が in frameで抜けた例がある。一方変異を導入したジストロフィンをジストロフィン欠損モデルマウス(mdx)に強制発現させた報告では、エキソン#65-66を in frameで抜いた場合、b-DGの発現回復が見られ、b-DGがジストロフィンと結合する可能性を示唆した。これらの報告に鑑み、モチーフ間の領域の一部を除いたDCTを現在作成しており、その結合を調べた上で全体の結果をまとめ論文としたい。(2)については得られた複合体等について詳細な解析を行い、SG複合体の存在様式を明らかにしていく。(3)については現在タイターチェックを行っており、良い抗体が得られた時点で患者の組織を調べる。(4)についてはノックアウトマウスが作成できしだい、これを詳しく解析していく。

公開日・更新日

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