精神分裂病の病態におけるニューロテンシン神経伝達に関する研究

文献情報

文献番号
199700718A
報告書区分
総括
研究課題名
精神分裂病の病態におけるニューロテンシン神経伝達に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
山田 光彦(昭和大学医学部精神医学教室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究ではドーパミン神経系調節因子として関心を集めているニューロテンシンの精神分裂病の発症機序及び治癒機転のメカニズムにおける役割を検討することを目的とした。特に最近発見されたNT2受容体の発現分布やその共役する細胞内情報伝達系についての詳細は不明であり、NT1受容体を介する情報伝達系との総合的な理解のための重要な知見を得ることが期待された。
研究方法
それぞれの脳サンプルを用いて in situ hybridization 法を行いNT1、NT2各受容体mRNAの発現を定量的画像解析装置を用いて検討した。プローブには、特異的塩基配列を持つcRNA断片を用いた。ヒト中脳ではメラニン含有細胞をドーパミン神経細胞として同定した。ラットは雄性SDラットを用い、中脳黒質のドーパミン神経細胞はABC法を用いた免疫組織化学実験を行いチロシン水酸化酵素免疫陽性細胞として同定した。また、GFAP免疫陽性細胞をアストロサイトと同定した。それぞれのサンプルより25um厚の切片を用いて二重染色を行った。次に、ラットのNT2受容体を恒常的に発現している培養細胞株(CHO細胞)を遺伝子組み替え技術とトランスフェクション法により作製し、共役する細胞内情報伝達系(イノシトール隣脂質水酸化反応の促進、細胞内カルシウム濃度の上昇、cyclic AMP合成系)について検討を進めた。
結果と考察
今回の研究では、対照脳と比較して精神分裂病患者脳の中脳においてNT1受容体mRNAの分布や発現量に有意な変化を見いだすことができなかった。我々の結果は、精神分裂病患者死後脳におけるニューロテンシン結合能の増加の報告(Uhl and Kuhar, Nature, 1984)をそのまま支持するものではないが、NT1受容体以外のニューロテンシン結合部位(NT2受容体など)の発現量の変化が神分裂病患者脳で引き起こされている可能性を示すものであり、今後のさらなる検討が望まれる。また、NT2受容体mRNAのラット中脳黒質における発現はNT1受容体と異なりドーパミン神経細胞ではなくアストロサイトに多くみられ、独特のな脳内分布パターンを示すことが明らかとなった。
次に、ラットのNT2受容体を恒常的に発現している培養細胞株を用いて共役する細胞内情報伝達系について検討を進めが、NT2受容体をニューロテンシン及び他のニューロテンシン関連ペプチドで刺激してもイノシトール隣脂質水酸化反応の促進、細胞内カルシウム濃度の上昇、cyclic AMP合成の促進などの細胞内情報伝達系の活性化はみられなかった。また、興味深いことにNT1受容体拮抗薬のSR48692がNT2受容体に対してアゴニストとして作用することが示された。この結果は、2つの受容体サブタイプの共役する細胞内情報伝達系などの薬理学的性質が全く異なるものであることを示すものである。
これらの結果を総合すると、ニューロテンシンによる情報伝達は2つの受容体サブタイプを介して複雑に精神分裂病の発症機序及び治癒機転に関与していることが示された。
結論
本研究では、2つのニューロテンシン受容体サブタイプの脳内分布や機能が全く異なるものであることが示され、ニューロテンシンによる情報伝達の精神分裂病の発症機序及び治癒機転における役割について重要な基盤的知見を得ることができた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)