失語がある人の生活の質に影響する因子の調査研究

文献情報

文献番号
202406005A
報告書区分
総括
研究課題名
失語がある人の生活の質に影響する因子の調査研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24CA2005
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
菅原 英和(初台リハビリテーション病院)
研究分担者(所属機関)
  • 竹中 啓介(昭和女子大学 人間社会学部福祉社会学科 )
  • 木下 大生(武蔵野大学 人間科学部)
  • 廣實 真弓(埼玉医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
4,038,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
失語症は、単なる言語機能の障害にとどまらず、IADL(手段的日常生活動作)やAADL(拡大日常生活動作)、社会参加、心理的健康、経済状況、地域交流、自己管理能力など、生活全般に広範な影響を及ぼすと考えられている。本研究の目的は、失語症を有する慢性期脳疾患患者においてQOLに影響を与えるさまざまな要因を多角的に明らかにすることにある
研究方法
本研究では、失語症が生活に与える具体的な影響を明らかにし、将来的な支援体制の構築に資することを目的として、全国規模のアンケート調査を実施した。調査対象は、発症から1年以上が経過した慢性期の失語症者を中心とする脳疾患患者とした
調査では、心身機能(言語機能、身体的障害)、IADL(通信機器の操作、買い物、外出、服薬管理、金銭管理など)、社会参加(地域交流、公的機関の利用、投票、外食など)、環境因子(制度の利用状況、障害者手帳の所持、支援機器の使用状況)について詳細に尋ね、これらが失語症の重症度やQOLとどのように関連しているかを分析した。また、失語症と併存しやすい片麻痺や加齢による制約も考慮し、サブグループ解析を通じて、それらの影響を除外した純粋な言語障害がQOLに及ぼす影響の抽出を試みた。
さらに、社会的孤立や雇用の喪失、収入の減少など、心理社会的・経済的問題にも焦点を当て、長期間経過後の生活環境の変化や地域社会との関係、制度利用の実態を可視化することで、失語症者が直面する複合的課題を包括的に捉えることを目指した。
制度的支援については、意思疎通支援事業やガイドヘルパー制度の認知度・利用状況、障害者手帳の所持状況(等級や種別)などを調査し、これらの制度がQOLの向上に寄与しているか、あるいは活用が進まない要因を明らかにすることを意図した。
加えて、失語症のある人の就労実態やニーズをより深く把握するために、就労世代の失語症者を対象とした半構造化面接形式によるインタビュー調査を実施した。
結果と考察
アンケートの対象は、失語症状を有する慢性期脳疾患患者1,100名であり、回収率は46.4%であった。
年齢構成はシニア層が中心であったが、発症時には働き盛りの世代が多く、発症による社会的役割の喪失が示唆された。発症原因では脳梗塞が最も多く、約半数が片麻痺を併発していたことから、言語機能のみならず身体機能の制限が生活に複合的な影響を及ぼしていることが確認された。一方、麻痺のない群を対象としたサブグループ解析により、失語症および高次脳機能障害の影響の大きさも明らかとなった
就労については、発症後の離職率が高く、就労世代に限定しても発症後に就労を継続できたのは約4割にとどまった。また、雇用形態には、正職員から福祉的就労やパート雇用へと移行する傾向が認められた。経済面では、年金受給によって支えられているケースが多く、給与収入の減少により経済的自立の困難さが示唆された
地域交流に関しては、半数以上が家族以外との交流を維持していたものの、一定数の孤立層も存在した。失語症友の会や会話サロンへの参加率は必ずしも高くはなく、意思疎通支援制度やガイドヘルパー制度の認知度および利用率も低かったことから、情報提供の強化と利用促進が喫緊の課題であると考えられる
障害者手帳に関しては、音声言語機能に関する手帳の所持率は30%と低く、その背景には制度運用上の課題、サービス提供の限定性、診断・認定機関の地域差などが影響していると考えられた
ICT活用では、SNSやメール、インターネットの利用に困難を抱える者が多く、視覚的および言語的処理の課題が示された。一方で、支援があれば利用可能な層も一定数存在しており、段階的な支援策の導入や環境整備の必要性が示唆された
外出や移動においては、買い物や交通機関の利用に高い支援ニーズがあり、失語症によるコミュニケーション障害が単独行動の大きな制約となっていた。同行支援や簡易な意思疎通ツールの普及が有効な支援策として求められる。
自己管理においては、服薬は比較的自立していたものの、家計管理や公的手続きには支援が必要とされ、信頼できる支援者の存在が重要であった。また、選挙や災害時においても支援や合理的配慮が必要であることが明らかとなった
インタビュー調査では、失語症者の就労には職場や支援者の障害理解と連携が不可欠であることが示された。一方、通勤困難や制度の不備、支援の不在により就労を断念した例も多く、特に自治体間での支援格差が課題であった。工賃の低さや交通支援の不十分さへの不満もあり、当事者の希望に沿った職場探しや定着支援を行う伴走型支援体制の構築が求められる
結論
失語症者の生活と社会参加を支えるためには、医療・福祉・行政の連携による包括的かつ段階的な支援体制の構築が不可欠であり、当事者の声を反映した支援策の実現が今後の重要課題であると考えられた

公開日・更新日

公開日
2025-09-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-09-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202406005C

収支報告書

文献番号
202406005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,249,000円
(2)補助金確定額
4,278,835円
差引額 [(1)-(2)]
970,165円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 793,784円
人件費・謝金 843,627円
旅費 55,388円
その他 1,598,613円
間接経費 987,423円
合計 4,278,835円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2025-09-30
更新日
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