危機的出血に対する輸血ガイドライン導入による救命率変化および輸血ネットワークシステム構築に関する研究

文献情報

文献番号
200940022A
報告書区分
総括
研究課題名
危機的出血に対する輸血ガイドライン導入による救命率変化および輸血ネットワークシステム構築に関する研究
課題番号
H19-医薬・一般-031
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
稲田 英一(順天堂大学 医学部麻酔科学・ペインクリニック講座)
研究分担者(所属機関)
  • 入田 和男(九州大学 新病院建設推進室)
  • 紀野 修一(旭川医科大学 臨床検査・輸血部)
  • 稲葉 頌一(神奈川県赤十字血液センター)
  • 矢野 哲(東京大学医学部附属病院 女性外科)
  • 益子 邦洋(日本医科大学千葉北総病院 救命救急センター)
  • 青山 和由(成育医療センター 集中治療部麻酔科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
11,520,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
手術室や救命救急センターで起こる危機的出血および産科危機的出血の実態と予後、輸血部や血液センターの対応について、「危機的出血への対応ガイドライン」の認知度、異型適合輸血の実施、副作用発生について検討する。血液センターおよび基幹病院間の輸血オンラインネットワークの雛型を作成する。
研究方法
全国の病床数500床以上の384施設の麻酔科認定病院における麻酔科および輸血部、全国27施設の小児専門病院、全国の212施設の救命救急センター、日本産科婦人科学会研修指定施設のうち分娩を取り扱っている740施設を対象とし、危機的出血およびそれに対する輸血の実態および血液センターにおける緊急輸血に対する体制・対応についてアンケート調査を行った。輸血オンラインネットワークシステムは複数施設間での模擬データを用いた実証実験を行った。
結果と考察
手術室においては、5,000ml以上の大量出血の発生頻度は28.6/1万症例,危機的出血の発生頻度は4.1/1万症例であり、これまでと同様であった。予後は改善されていなかった。全身状態不良と急速輸血に関係する高カリウム血症による死亡と考えられる症例があった。「危機的出血への対応ガイドライン」の普及率は上昇したが、医師の周知度は低く、緊急O型血を含む異型適合血の使用頻度は低い。救命救急センターでは未交差同型血輸血の実施施設92%、血液型不明症例における未交差O型赤血球輸血実施施設が87%にのぼり、ガイドラインの普及がうかがわれた。産科部門では回答施設の90%で自己血貯血が実施されていた。出血の高リスク妊婦において自己血貯血による同種血輸血回避率が高いためと考えられる。小児専門病院における危機的出血の発生頻度は3.7/1万症例であった。自己血貯血により開腹術、整形外科手術では同種血輸血回避率が高かった。基幹病院間まで含む輸血ネットワークシステムに対する必要性を感じているのは救命救急センターで84%、輸血部調査では59%であった。実証実験にはFAXを電子化したオーダーシステムも取り入れ、より現実に即した形のものが出来上がった。
結論
危機的出血に対するガイドラインや院内ガイドラインは普及してきたが、その実施にあたっては医師の意識を高める必要がある。危機的出血発生時の対応は進んできたが、予後は改善されていない。血液センター、基幹病院間を結ぶ輸血ネットワークシステムの必要性は高い。

公開日・更新日

公開日
2010-04-08
更新日
-

文献情報

文献番号
200940022B
報告書区分
総合
研究課題名
危機的出血に対する輸血ガイドライン導入による救命率変化および輸血ネットワークシステム構築に関する研究
課題番号
H19-医薬・一般-031
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
稲田 英一(順天堂大学 医学部麻酔科学・ペインクリニック講座)
研究分担者(所属機関)
  • 入田 和男(九州大学 医学部新病院建設推進室)
  • 紀野 修一(旭川医科大学 臨床検査・輸血部)
  • 矢野 哲(東京大学医学部 附属病院 女性外科)
  • 稲葉 頌一(神奈川県赤十字 血液センター)
  • 青山 和由(成育医療センター 手術集中治療部麻酔科)
  • 津崎 晃一(慶應義塾大学 医学部麻酔科学講座)
  • 半田 誠(慶應義塾大学 医学部輸血・細胞治療部)
  • 蕨 謙吾(順天堂大学 医学部麻酔科学・ペインクリニック講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
手術室や救命救急センターで起こる危機的出血および産科危機的出血の実態と予後、輸血部や血液センターの対応について、「危機的出血への対応ガイドライン」の認知度、異型適合輸血の実施、副作用発生について検討する。血液センターおよび基幹病院間の輸血ネットワークシステムの雛型の構築を目的とした。
研究方法
病床数500床以上の384施設の麻酔科認定病院における麻酔科および輸血部、27施設の小児専門病院、212施設の救命救急センター、分娩を扱う日本産科婦人科学会研修指定施設740施設を対象とし、危機的出血およびそれに対する輸血の実態および血液センターにおける緊急輸血に対する体制・対応について年次アンケート調査を行った。輸血ネットワークシステムは、血液センター業務の実地調査に基づきソフトを作成し、臨床現場での現行システムと並行した実証実験と、模擬データを用いた複数施設間仮想実験を行った。
結果と考察
術中出血量が5,000 mlの発生頻度は28.3/1万症例、危機的出血発生頻度は4.3/1万症例であった。それらの患者で、後遺症を残して回復14.8%、死亡18.8%であり、調査期間中に大きな変化はなかった。異型適合赤血球輸血症例の生存率は改善しつつある可能性がある。救命救急センターで血液型不明症例に対するO型赤血球輸血を実施していない施設は2009年度は11%、未交差同型血を実施していない施設は8%であった。産科領域では出血の高リスク妊婦の大部分で自己血貯血(中央値で800ml)行われ、同種血輸血回避に有用であった。小児領域では、麻酔科管理症例数は74,140症例における危機的出血の発生率は3.9/1万症例であった。輸血部調査で危機的出血時に未照射血使用症例はあったがGVHDの発生はなかった。後追い交差適合試験で不規則抗体陽性の症例があったが、溶血反応は報告されなかった。 緊急輸血を含む院内ガイドラインの作成が進み医療関係者の認知度は上昇した。しかし、院内コンセンサスが不十分であるという実態も明らかとなった。 輸血ネットワークが必要と考える施設は過半数を超えた。
結論
緊急輸血を含む院内ガイドラインは普及し、異型適合血使用も進んだが、さらに医師の意識を高め院内コンセンサスを得る必要がある。予後は改善されていない。血液センター、基幹病院間を結ぶ輸血ネットワークシステムの必要性は高い。

公開日・更新日

公開日
2010-04-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200940022C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 術中の危機的出血発生時の心停止発生率や予後についてのデータが明らかになった。緊急輸血時には、出血量、出血速度のほか、アシドーシス、高カリウム血症、低体温などがリスク因子であることも明らかになった。
臨床的観点からの成果
日本麻酔科学会および日本輸血・細胞治療学会が2007年に作成した「危機的出血への対応ガイドライン」の普及度が上昇し、医療施設における緊急輸血に関するマニュアルの作成が大きく進んだ。危機的出血発生時の同型血輸血や、O型血を含む異型適合輸血の認知度が高まり、特に救急領域では実践されるようになった。緊急輸血時の高カリウム血症の危険度も明らかになった。
ガイドライン等の開発
「危機的出血への対応ガイドライン」の整備に向けてのデータベースが充実した。さらに、5学会合同で作成した「産科危機的出血への対応ガイドライン」の作成において、妊婦における自己血輸血などのデータベースを供給した。
その他行政的観点からの成果
 平成21年2月20日の薬食発0220002号の「輸血療法の実施に関する指針」及び「血液製剤の使用指針」の一部改正における「緊急時の輸血」において、血液型不明時のO型血の使用、不規則抗体存在時の緊急輸血、異型適合輸血などが加えられた。
その他のインパクト
 「危機的出血への対応ガイドライン」を含む危機的出血への対応について日経メディカル誌に取り上げられた。輸血関連研究班第2回合同班会議において研究成果を発表した。日本輸血・細胞治療学会や、日本臨床麻酔学会、日赤シンポジウムなどで大量出血や危機的出血への対応がテーマとして取り上げられた。各地の研究会における講演も多く行われた。平成22年4月に「産科危機的出血への対応ガイドライン」作成に関与した学会のホームページに掲載するとともに、平成22年4月8日に厚生労働省記者クラブで発表を行った。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
23件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
32件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
血液センターと基幹病院を結ぶ輸血オンラインネットワークシステムについての特許出願について検討中である。
その他成果(施策への反映)
1件
 平成21年2月20日の薬食発0220002号の「輸血療法の実施に関する指針」及び「血液製剤の使用指針」の一部改正における「緊急時の輸血」の追加
その他成果(普及・啓発活動)
1件
日本輸血・細胞治療学会、日本麻酔科学会、日本産科婦人科学会など5学会合同の「産科危機的出血への対応ガイドライン」作成に寄与

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
紀野修一、半田誠、稲田英一、他
輸血部門における危機的出血への対応に関するアンケート調査結果
日本輸血・細胞治療学会誌 , 55 (5) , 624-632  (2009)
原著論文2
入田和男,稲田英一,吉村速、他
麻酔科認定病院の手術室で発生している大量出血とその対応に関する実態調査
麻酔 , 58 (1) , 109-123  (2009)
原著論文3
入田和男,吉村速,坂口嘉郎、他
“危機的出血への対応ガイドライン”と麻酔科における危機管理
麻酔 , 57 (9) , 1109-1116  (2008)

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-