世界の健康危機への備えと対応の強化に関する我が国並びに世界の戦略的・効果的な介入に関する研究

文献情報

文献番号
202405001A
報告書区分
総括
研究課題名
世界の健康危機への備えと対応の強化に関する我が国並びに世界の戦略的・効果的な介入に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23BA1001
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
詫摩 佳代(慶應義塾大学 法学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 淳一(獨協大学 法学部)
  • 中山 一郎(北海道大学 大学院法学研究科)
  • 武見 綾子(東京大学先端科学技術センター グローバル合意形成政策分野)
  • 西本 健太郎(東北大学 大学院法学研究科)
  • 松尾 真紀子(東京大学 大学院公共政策学連携研究部)
  • 藤田 雅美(国立国際医療研究センター 国際医療協力局)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題解決推進のための行政施策に関する研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新型コロナウイルス感染症のパンデミックを経て、①疾病の国際的伝播を最大限防止する目的で制定された法的枠組である国際保健規則(IHR)を強化すること、②IHRで対応できない課題解決のために、またパンデミックで明らかとなった健康危機の問題の複合性に適切に対処する目的で、新たな法的枠組を作成することの2点が必要であるということが加盟国間のコンセンサスである。特に後者に関しては、「パンデミックの予防、備えおよび対応に関する国際条約(パンデミック条約)」の令和6年作成を目指して関係の国・諸アクターの間で交渉が進められてきて、日本も交渉国として積極的に関与してきた。
 他方、当該条約に関しては、感染症に情報提供と収集、健康危機下の医薬品・医療用品の衡平分配や技術移転・知財の取扱い、動物由来の感染症対策、病原体の国際共有等の個別の論点に関して、詰めきれていない部分が多い。また、気候変動や生物多様性等に関する既存の枠組みとの整合性や調整も難しい課題となっている。IHRの強化に関しても、履行確保の方法や現地調査の受入義務など、各種論点がある。
 本研究では国際文書とその交渉に関する包括的な情報収集に加え、技術的・法的観点からの分析を行い、日本の交渉におけるプレゼンス確保を目指すと同時に、わが国を含めた世界各国が健康危機の備えと対応に実質的に貢献できるように、具体的な支援のあり方を分析することを目指している。
研究方法
各メンバーは公開資料や関連の専門文献の渉猟、関係者へのインタビューや意見交換を通じて研究を進めた。
結果と考察
詫摩佳代は地政学的な対立が激化し、保健協力に限られない多国間協力が危機に立たされる中で、パンデミック条約交渉の国際政治的な意義、成立した場合の意義、成立しなかった場合のグローバル保健ガバナンスのあり方を論じた。
 鈴木淳一はIHR改正及びパンデミック条約について法的な分析を行い、健康危機対応の目的のためには、各国の主権尊重と国際協力のバランスを平時にあらかじめ確保することが必要となり、改正IHR及びパンデミック条約はそのための規範になりうると指摘する。 
 武見綾子はIHR改正案について、批判的に検討する。IHR改正案では、パンデミック条約と合わせて多くの進展が見られる一方で、先進国も含めた世界的な危機に対応するための具体的な方策や、感染症早期探知を可能とするための制度的な介入等については法的な合意に限らずより政策的な議論を進める必要があると指摘する。
 中山一郎はパンデミック対応をめぐる国際ルールにおける知的財産の取扱いについて分析し、パンデミック時に技術・ノウハウ移転を通じて国内(地域内)生産を目指す現在の条約案の発想は、非現実的であり、むしろ、パンデミック時には、製造能力を有する(先進国)企業が迅速にワクチン等を量産して、途上国などに供給するモデルを基本とすべきだと指摘する。また、緊急時に迅速にワクチンを開発するためには、病原体等への早期アクセスとともに、開発インセンティブの確保も重要であり、今後の制度の詳細設計に際しては、その点にも留意する必要があると論じる。
 西本健太郎はパンデミック条約案第3章「制度的枠組みおよび最終規定」の主な規定について、その沿革、交渉過程における文言の変遷、そして制度設計上の問題等について詳細に検討している。そして、締約国会議を設け、協定の実施状況の定期的な検討や、その効果的な実施の促進のため必要な決定を行う権限を与えていることや、附属書や議定書の採択を通じて、協定の内容がさらに発展していくことが予定されていることに特徴があると指摘する。また、パンデミック条約第3章に含まれる条文の設計に着目すると、同様にWHOで採択された条約であるたばこ規制枠組条約をはじめとして、既存の条約の規定に基づいたものが多いことが特徴であると指摘する。
 松尾真紀子は、パンデミック対応の際に必須となる病原体・BMとそのGSDのABSに関する議論の分析に特化して分析、しガバナンス・制度設計上の問題を指摘する。
 横堀雄太は国際文書とその交渉に関する包括的な情報収集に加え、技術的・法的観点からの分析を行い、日本の交渉におけるプレゼンス確保を目指すと同時に、わが国を含めた世界各国が健康危機の備えと対応に実質的に貢献できるように、公衆衛生学的立場から具体的な支援のあり方を分析し、国際文書の交渉会議へインプットを行った。そして、モニタリングや情報共有の方法について詳細な検討を行っている。
結論
パンデミック条約案並びにIHR改正案はパンデミックの経験を踏まえた提案、改正が盛り込まれているが、多くの法的、運用上の課題を抱えており、引き続き、検討していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2025-07-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2025-07-17
更新日
-

収支報告書

文献番号
202405001Z