乱用薬物による神経毒性・依存症に対する診断・予防及び治療法に関する研究

文献情報

文献番号
200940017A
報告書区分
総括
研究課題名
乱用薬物による神経毒性・依存症に対する診断・予防及び治療法に関する研究
課題番号
H19-医薬・一般-023
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
鍋島 俊隆(名城大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 経之(長崎国際大学 薬学部)
  • 鈴木 勉(星薬科大学)
  • 大熊 誠太郎(川崎医科大学)
  • 新田 淳美(富山大学 大学院医学薬学研究部)
  • 曽良 一郎(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 伊豫 雅臣(千葉大学 大学院医学研究科)
  • 西川 徹(東京医科歯科大学大学院 )
  • 池田 和隆(東京都精神医学総合研究所)
  • 氏家 寛(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本課題は乱用薬物による神経毒性や依存症に対する予防・治療薬を開発し、薬物依存者の診断法を確立することにより、国際的な依存・乱用防止の啓発に役立て、研究成果を社会に還元することを目的としている。
研究方法
平成20年度までに行ってきた乱用薬物の依存及び精神行動障害の分子機序の解明と候補薬物の検討、それらに基づいた予防・治療薬の開発および診断法に関する研究をさらに発展させ、基礎研究と臨床研究のクロストークによる臨床応用を目指した。
結果と考察
基礎研究では薬物依存と摂食関連ペプチドの関連について、広範な神経ペプチドについて検討を行い、それらの発現調節におけるエピジェネテイック修飾の関与について明らかにした。カルシウムチャンネルサブユニットの拮抗薬は薬物依存治療薬としての可能性があり、その作用点はカルシウムチャンネルを介した神経細胞内のアクチン骨格脱重合因子であることを明らかにした。薬物依存の渇望・再燃に注目してストレス誘発薬物再燃モデルを確立し、ストレス関連因子である副腎皮質刺激ホルモン放出因子が渇望状態のバイオマーカーとして有用であることを示した。アルツハイマー病治療薬であるガランタミンは依存性薬物による精神障害や認知障害だけでなく精神依存に対しても有効性が示すことを明らかにした。また、本研究課題において発見された新規薬物依存関連遺伝子shatiおよびpiccoloの生理的役割についても明らかにした。臨床研究では選択的セロトニントランスポーター阻害作用のある抗うつ薬の覚せい剤嗜好性に対する抑制効果がカリウムチャンネル阻害作用に由来することを明らかにし、さらにアルコール依存患者におけるその作用の有効性についても昨年度に開発した再飲酒リスク評価を用いて明らかにした。動物実験において治療薬としての有効性が期待された抗生物質であるミノマイシンは臨床症例においても有効性を示すことを明らかにした。また、患者サンプルを用いた研究についてはグルタミン酸作動性神経系の受容体のサブユニットやアデノシン受容体の遺伝子変異が覚せい剤精神病の発症脆弱性に関与することを示した。また、乱用薬物に対する感受性の発達による変化に関連する遺伝子であるSAP97を見出した。
結論
乱用薬物による神経毒性や依存症に対する予防・治療薬を開発し、薬物依存者の診断法を確立することを実践するなど、多くの研究成果が得られた。

公開日・更新日

公開日
2010-05-28
更新日
-

文献情報

文献番号
200940017B
報告書区分
総合
研究課題名
乱用薬物による神経毒性・依存症に対する診断・予防及び治療法に関する研究
課題番号
H19-医薬・一般-023
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
鍋島 俊隆(名城大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 山本 経之(長崎国際大学 薬学部)
  • 鈴木 勉(星薬科大学)
  • 大熊 誠太郎(川崎医科大学)
  • 新田 淳美(富山大学大学院医学薬学研究科)
  • 曽良 一郎(東北大学大学院医学系研究科)
  • 伊豫 雅臣(千葉大学大学院医学研究科)
  • 西川 徹(東京医科歯科大学大学院)
  • 池田 和隆(東京都精神医学総合研究所)
  • 氏家 寛(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本課題は乱用薬物による神経毒性や依存症に対する予防・治療薬を開発し、薬物依存者の診断法を確立することにより国際的な依存・乱用防止の啓発に役立て、研究成果を社会に還元することを目的とした。

研究方法
平成19年度から3年間にわたり、基礎研究では乱用薬物による依存及び精神行動障害動物モデルを用いて病態解析と候補薬物のスクリーングを行い、臨床研究では基礎研究で検討した候補薬物の適用と乱用薬物の再使用リスク評価の確立、患者サンプルを用いた薬物依存関連因子の探索を行った。
結果と考察
基礎研究:摂食関連ペプチドを中心とした神経ペプチドの薬物依存との関連および発現調節について明らかにした。覚せい剤による精神依存におけるカルシウムチャンネルの関与を明らかにし、カルシウムチャンネル拮抗薬が薬物依存治療薬となる可能性を見出した。薬物依存の渇望・再燃に注目してストレス誘発薬物再燃モデルを確立し、副腎皮質刺激ホルモン放出因子が渇望状態のバイオマーカーとして有用であることを示した。アルツハイマー病治療薬であるガランタミンが乱用薬物による精神障害、認知障害および精神依存に対しても有効性を示すことを明らかにした。また、新規薬物依存関連遺伝子shatiおよびpiccoloを発見し、それらの生理的役割についても明らかにした。
臨床研究:薬物依存における薬物再使用リスク評価法ASI日本語版とSRRSを開発して依存患者を診断した。また、再飲酒リスク評価尺度を作成・標準化した。G蛋白質活性型内向き整流性カリウムチャネル阻害能を有する薬物がアルコール依存患者に有効であることを見出した。抗腫瘍性抗生物質ミタラマイシンおよび抗生物質ミノサイクリンが覚せい剤による精神障害に対して有効性を示すことを動物並びに患者を用いて明らかにした。乱用薬物に対する感受性の発達による変化に関連する遺伝子であるCCN1やSAP97などを発見し、覚せい剤による精神障害におけるセロトニン1B受容体の関与を明らかにした。また、覚せい剤精神病患者サンプルを用いて網羅的な解析を行い、覚せい剤精神病の発症脆弱性や遷延化とグルタミン酸作動性神経系遺伝子群およびアデノシンA2A受容体遺伝子の変異との関連性を見出した。
結論
基礎研究と臨床研究のクロストークによって挙げた多くの成果により、診断・予防・治療薬の開発・臨床応用を実践することができた。

公開日・更新日

公開日
2010-05-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-04-07
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200940017C

成果

専門的・学術的観点からの成果
乱用薬物の依存および精神行動障害動物モデルを用いて病態解析ならびに候補薬物のスクリーングを行い、カルシウムチャンネル拮抗薬、アルツハイマー病治療薬、抗腫瘍性抗生物質および抗生物質の予防・治療薬が依存症の治療薬と成る可能性を示した。摂食関連ペプチドやストレス関連因子の発現変化から薬物に対する渇望状態の診断薬としての可能性を示した。また、新規薬物依存関連遺伝子shatiおよびpiccoloを発見した。
臨床的観点からの成果
薬物依存における薬物再使用リスク評価法を開発して法務機関などの患者を診断した。再飲酒リスク評価尺度を作成・標準化した。動物実験で依存症治療薬候補として選んだ薬物がアルコール依存および覚せい剤による精神障害の患者に対して有効性を示すことを明かにした。また、覚せい剤精神病患者および動物モデルのサンプルを用いて網羅的な解析を行い、乱用薬物による精神障害の発症脆弱性や遷延化と関連する遺伝子群を見出した。
ガイドライン等の開発
薬物依存における薬物再使用リスク評価法であるAddiction Severity Index(ASI-J:嗜癖重症度指標日本語版)とStimulant Relapse Risk Scale(SRRS:刺激薬物再使用リスク評価尺度)を開発した。また薬物依存に類似するアルコール依存についてもAlcohol Relapse Risk Scale (ARRS:再飲酒リスク評価尺度)を作成・標準化した。これらの評価尺度は23年に香港行政府機関が中国語版を作成し活用が始まった。
その他行政的観点からの成果
1)我々が開発したASI-J(嗜癖重症度指標)を用い、本邦で服役している700名以上の受刑者(薬物依存患者)で乱用薬物の再使用リスクを評価した。その診断結果は、受刑者の薬物再使用リスクの把握に役立てられた。
2)薬物依存関連事犯への警察捜査において専門的見地から参考意見を提言した(鍋島)
その他のインパクト
1)研修会等の講師:コンサータ適正使用指導者研修会、薬剤師セミナー/青少年の薬物乱用防止における薬剤師の役割,厚労省海外麻薬行政研修会,ASI-J及びSRRSのワークショップ
2)公開シンポジウム等:ニコチン薬物依存研究フォーラムの開催H23.10月
3)薬物乱用防止教育講演:中高校生や教員、大学生、薬剤師、市民公開講座H23.10月北九州
4)依存や脳科学研究特集TV番組(NHKきょうの健康)出円、新聞掲載(中日、長崎、富山新聞等)、Newton誌特集等

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
141件
その他論文(和文)
85件
著書、総説を含む
その他論文(英文等)
97件
著書、総説を含む
学会発表(国内学会)
318件
学会発表(国際学会等)
151件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計33件
その他成果(特許の取得)
0件
POMC遺伝子解析による薬物感受性の評価方法、薬物依存症治療薬 エダラボン、精神障害の診断方法及び診断キット
その他成果(施策への反映)
1件
Addiction Severity Index(嗜癖重症度指標日本語版)とStimulant Relapse Risk Scale(刺激薬物再使用リスク評価尺度)を開発し行政上の活用につき提案
その他成果(普及・啓発活動)
135件
薬物乱用防止教育講演(中高生、大学生、一般、薬剤師など)、研修会などスペシャリスト養成講座等

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Wang, D, et al.
Synergistic effect of galantamine with risperidone on impairment of social interaction in phencyclidine-treated mice as a schizophrenic animal model.
Neuropharmacology , 52 , 1179-1187  (2007)
原著論文2
Noda Y, et al.
Galantamine ameliorates the impairment of recognition memory in mice repeatedly treated with methamphetamine (略)
Int J Neuropsycho- pharmacology. in press  (2010)
原著論文3
Hiranita, T, et al.
A tryptamine-derived catecholaminergic enhancer, (-) – 1 - (benzofuran – 2 - yl) – 2 - propylaminopentane [(-)-BPAP], attenuates reinstatement of methamphetamine-seeking behavior in rats.
Neuroscience , 165 , 300-312  (2010)
原著論文4
Nawata, Y, et al.
A cannabinoid CB1 receptor antagonist ameliorates impairment of recognition memory on withdrawal from MDMA (Ecstasy).
Neuropsychopharmacology, , 35 , 515-520  (2010)
原著論文5
Niwa, M, et al.
A novel molecule ‘shati’ is involved in methamphetamine-induced hyperlocomotion, sensitization, and conditioned place preference.
J. Neurosci.  , 27 , 7604-7615  (2007)
原著論文6
Cen X, et al.
Identification of Piccolo as a regulator of behavioral plasticity and dopamine transporter internalization.
Mol Psychiatry. , 13 , 451-463  (2008)
原著論文7
Uhl GR, et al.
Genome-wide association for methamphetamine dependence: convergent results from two samples.
Arch Gen Psychiatry. , 65 (3) , 345-355  (2008)
原著論文8
Sora,I, et al.
Monoamine transporter as a target molecule for psychostimulants.
International Review Of Neurobiology. , 85 , 29-33  (2009)
原著論文9
Kaneko Y, et al
Selective serotonin reuptake inhibitors, fluoxetine and paroxetine, attenuate the expression of the established behavioral sensitization induced by methamphetamine.
Neuropsychopharmacol. , 32 , 658-664  (2007)
原著論文10
Ito T, et al.
Effects of schizophrenomimetics on the expression of CCN1 (CYR 61) gene encoding a matricellular protein in the infant and adult neocortex of the mouse and rat.
Int J Neuropsycho- pharmacol. , 717-725  (2007)
原著論文11
Ogai Y, et al.
Development and validation of the stimulant relapse risk scale for drug abusers in Japan.
Drug Alcohol Depend , 88 , 174-181  (2007)
原著論文12
Ogai Y, et al.
Application of the relapse risk scale to alcohol-dependent individuals in Japan: comparison with stimulant abusers.
Drug Alcohol Depend , 101 , 20-26  (2009)
原著論文13
Ujike H, et al.
Genetic variants of D2 but not D3 or D4 dopamine receptor gene are associated with rapid onset and poor prognosis of methamphetamine psychosis.
Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry , 33 (4) , 625-629  (2009)
原著論文14
Kishimoto M, et al.
The dysbindin gene (DTNBP1) is associated with methamphetamine psychosis.
Biol Psychiatry , 63 (2) , 191-196  (2008)
原著論文15
Hashimoto K, et al.
Protective effects of minocycline on the reduction of dopamine transporters in the striatum after administration of methamphetamine: A PET study in conscious monkeys.
Biol Psychiatry. , 61 (5) , 577-581  (2007)
原著論文16
Matsuzawa D,et al.
Identification of functional polymorphisms in the promoter region of the human PICK1 gene and their association with methamphetamine psychosis.
Am J Psychiatry. , 164 (7) , 1105-1114  (2007)
原著論文17
Sibasaki M, et al.
Role of a(alpha)2/d(delta) subunit in the development of morphine-induced rewarding effect and behavioral sensitization.
Neuroscience, , 163 , 731-734  (2009)
原著論文18
Sibasaki M, et al.
Up-regulation of L-type Cav1 channels in the development of psychological dependence.
Synapse , 64 , 440-444  (2010)
原著論文19
Niikura K,et al.
Neuropathic and chronic pain stimuli downregulate central mu -opioid and dopaminergic transmission.
Trends Pharmacol Sci. in press  (2010)
原著論文20
Ikegami D, et al.
Epigenetic modulation at the CCR2 gene correlates with the maintenance of behavioral sensitization to methamphetamine.
Addict Biol. in press  (2010)

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
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