文献情報
文献番号
202401017A
報告書区分
総括
研究課題名
生活保護受給者における効果的な健康支援方法の立案に向けた実証研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24AA2004
研究年度
令和6(2024)年度
研究代表者(所属機関)
西岡 大輔(大阪医科薬科大学 総合医学研究センター医療統計室)
研究分担者(所属機関)
- 近藤 尚己(京都大学 大学院医学研究科 社会疫学分野)
- 上野 恵子(京都大学大学院 医学研究科 社会疫学分野)
- 木野 志保(東京医科歯科大学 健康推進歯学分野)
- 越智 真奈美(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 政策科学研究部)
- 林 明子(大妻女子大学 家政学部)
- 田中 琴音(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部栄養学科)
- 小出 直(新潟医療福祉大学 心理・福祉学部 社会福祉学科)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
研究代表者の所属・肩書が2025年1月より、変更となった。
2025年1月より、京都大学大学院医学研究科社会的インパクト評価学講座 特定准教授に就任した。
研究報告書(概要版)
研究目的
2021年より被保護者健康管理支援事業(健康管理支援事業)が全国の福祉事務所で必須事業となり、主に40歳以上の被保護者(生活保護受給者)に対する健康づくりが推進されるようになった。被保護者健康管理支援事業の手引きによれば、被保護者(生活保護受給者)に対する健康支援に際してデータを活用することが推奨され、福祉事務所が所有する生活保護の医療扶助レセプトデータや医療扶助実態調査のデータを活用した研究が実施されてきた。その結果、被保護者では糖尿病の有病率が公的医療保険加入者よりも高く、有病率の分布が10歳若いことや、多くの疾病分類における入院率が高いことなどが報告され、不利な健康状態におかれやすいことが示されてきた。被保護世帯の子どもや若年成人の状況は部分的に把握されるようになってきたものの、まだ理解や解釈に資する情報・資源は十分とはいえない。特に、全国の福祉事務所で被保護世帯の子どもの状況をどのように捉え、支援を進めるべきに関しては十分な資料がなく、またその仕組みも確立していない。
本研究ではまず、これまで主な健康支援の対象となっていなかったため、実態が不明であった若年被保護者および被保護世帯の子どもの健康実態および生活実態をより詳細なデータを参照しながら改めて明らかにするとともに、被保護者健康管理支援事業の実施における留意点等を整理することを目的とした。そして、被保護世帯の子どもの支援方法を立案・開発すべく、子どもの生活実態を福祉事務所でどのように把握し、支援可能かの方法を検討することを目的とした。
本研究ではまず、これまで主な健康支援の対象となっていなかったため、実態が不明であった若年被保護者および被保護世帯の子どもの健康実態および生活実態をより詳細なデータを参照しながら改めて明らかにするとともに、被保護者健康管理支援事業の実施における留意点等を整理することを目的とした。そして、被保護世帯の子どもの支援方法を立案・開発すべく、子どもの生活実態を福祉事務所でどのように把握し、支援可能かの方法を検討することを目的とした。
研究方法
福祉事務所が所有する生活保護台帳や医療扶助レセプトデータ、自治体が所有する他部署の被保護者等のデータを活用して、既存の被保護者健康管理支援事業がカバーしない集団の健康・生活実態を記述した。
子どもの生活実態を把握するツールの開発については、修正デルファイ法の第一段階である文献レビューを行い、研究者の専門的知見をもとにした項目案を作成した。
子どもの生活実態を把握するツールの開発については、修正デルファイ法の第一段階である文献レビューを行い、研究者の専門的知見をもとにした項目案を作成した。
結果と考察
子ども期から若年成人期にかけてすでに、被保護世帯では健康上の不利を経験していることが示された。特にこれまで既存の研究が指摘してこなかったことに関して、被保護世帯に出生した子どもでは入院や歯科への未受診が生じやすいこと、被保護世帯の子どもでは予防接種や学校健診における健康指標でも不利な傾向があることがわかった。加えて、30歳代の被保護者では、BMIや血糖値、血圧、脂質異常など多くの健康指標で一般市民よりも好ましくない傾向が観察され、事業の対象年齢が主に40歳以上に設定されている現行の被保護者健康管理支援事業は介入時期の検討が示唆された。また、地域の社会環境(ソーシャルキャピタル)が被保護者の受療行動に与える影響について、市民参加が活発な地域では頻回受診などの受療行動が抑制されることも示された。
フェイスシートの試作・開発を通じて、これまで把握が困難であった子どもの生活状況を福祉事務所が継続的に記録・把握できる基盤が存在している潜在的な可能性も示唆された。フェイスシートの情報を既存の行政データと組み合わせることにより、可視化されづらい被保護世帯の子どもの健康・生活実態を把握できる可能性があった。
フェイスシートの試作・開発を通じて、これまで把握が困難であった子どもの生活状況を福祉事務所が継続的に記録・把握できる基盤が存在している潜在的な可能性も示唆された。フェイスシートの情報を既存の行政データと組み合わせることにより、可視化されづらい被保護世帯の子どもの健康・生活実態を把握できる可能性があった。
結論
本研究は、これまで十分に把握されてこなかった被保護世帯の子どもおよび若年成人の健康・生活実態を明らかにし、被保護者健康管理支援事業において健康に関して 支援が必要とされる領域を浮き彫りにした。特に、出生時から生活保護世帯にある子どもの健康リスクや、30歳代の若年被保護者における生活習慣病リスクの高さが明らかとなった。また、地域の社会環境が一部の被保護者の受療行動に影響を与えていることも確認された。さらに、被保護世帯の子どもの実態を福祉事務所で可視化するフェイスシートを開発し、より包括的な健康支援の必要性を示した。今後、40歳以上に限定せず、若年層や子ども世代も含めた健康支援の枠組みの再設計と、多機関連携による重層的支援体制の構築、被保護者を特別にターゲットとして限定していない市民全体を対象とした保健事業における被保護者への傾斜をかけたアプローチの検討が求められる。
公開日・更新日
公開日
2025-06-27
更新日
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