タンパク質及び核酸含有製剤の高感度安定性評価法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
200940007A
報告書区分
総括
研究課題名
タンパク質及び核酸含有製剤の高感度安定性評価法の確立に関する研究
課題番号
H19-医薬・一般-009
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
阿曽 幸男(国立医薬品食品衛生研究所 薬品部 第二室)
研究分担者(所属機関)
  • 米谷芳枝(星薬科大学 医薬品化学研究所 教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医薬品の分解にともなうナノワットレベルの極微小な熱を検出することや、固体高分解能NMRや誘電緩和スペクトル法などを適用して分解に必要な分子の運動を検出することによって、保存安定性と関連する医薬品の物理化学的な特性を明らかにし、熱力学的に不安定なタンパク質や核酸などの高分子医薬品に対し、高度な製剤学的工夫を施すことにより安定化した製剤に対しても適用可能な安定性予測法を開発することを目的とする。
研究方法
糖類を添加剤として用いて調製したβ-ガラクトシダーゼ凍結乾燥製剤について、製剤中のガラクトシダーゼの13C-NMR緩和時間を40℃および50℃において測定し、これらの温度における保存安定性との関連を検討した。非ウイルス性遺伝子導入製剤に関しては、前年度の検討によって遺伝子導入効率と細胞内取り込みに対して影響を及ぼすことが明らかになったバイオ界面活性剤であるmannosylerythritol (MEL-A)やTween 80について、蛍光標識による測定と水の誘電緩和測定の2つの方法を用い、リポソームとそのDNAとの複合体(リポプレックス)の表面水和状態を検討した。
結果と考察
モデルタンパク質としてβガラクトシダーゼを用い、スクロースなどの6種類の糖類を添加剤として用いた凍結乾燥製剤について酵素活性の変化をもとに40℃および50℃における保存安定性を明らかにした。失活速度とタンパク質カルボニル炭素のNMR緩和時間との間に相関がみられ、NMR緩和時間はタンパク質凍結乾燥製剤の保存安定性の予測に有用であることが示唆された。また、非イオン性界面活性剤としてmannosylerythritol (MEL-A)とTween 80を用いて表面改質したリポソームとDNAとの複合体(リポプレックス)の水和状態は、誘電緩和測定の結果、Tween 80はMEL-Aより水和させることが明らかになった。誘電緩和測定によるリポプレックスの表面物性の評価は、遺伝子導入用リポソームベクターの細胞内取り込みの予測に有用となることが示唆された。
結論
13C-NMR緩和時間測定は不安定な高分子医薬品製剤の保存安定性を評価できる有用な手法であることが明らかになった。また、遺伝子導入用リポソーム製剤には、リポソーム/DNA複合体の高いカチオン性の表面電位と水和状態が、細胞内取り込みに関係すると推察された。リポソームベクターの遺伝子導入効率を予見するうえでの1つのマーカーとして、誘電緩和測定によるリポソームの表面水和状態を使用できる可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2010-05-27
更新日
-

文献情報

文献番号
200940007B
報告書区分
総合
研究課題名
タンパク質及び核酸含有製剤の高感度安定性評価法の確立に関する研究
課題番号
H19-医薬・一般-009
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
阿曽 幸男(国立医薬品食品衛生研究所 薬品部 第二室)
研究分担者(所属機関)
  • 米谷芳枝(星薬科大学 医薬品化学研究所 教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医薬品の分解に伴うナノワットレベルの極微小な熱を検出することや、固体高分解能NMRや誘電緩和スペクトル法などを適用して分解に必要な分子の運動を検出することによって、保存安定性と関連する医薬品の物理化学的な特性を明らかにし、熱力学的に不安定なタンパク質や核酸などの高分子医薬品に対し、高度な製剤学的工夫を施すことにより安定化した製剤に対しても適用可能な安定性予測法を開発することを目的とする。
研究方法
糖類を添加剤として用いて調製したβ-ガラクトシダーゼ凍結乾燥製剤について、13C-NMR緩和時間に基づきガラクトシダーゼのスケールの小さな分子運動性および等温ミクロ熱量測定により製剤の分解に伴う発熱を測定し、安定性の指標としての有用性を検討した。非ウイルス性遺伝子導入製剤に関しては新規の塩基性コレステロール誘導体(CCDs)の化学構造と遺伝子導入効率の関連について検討し、また、バイオ界面活性剤などの表面修飾剤による遺伝子導入効率および細胞内取り込みの向上をリポソームの表面物性の観点から検討した。
結果と考察
タンパク質凍結乾燥製剤の凝集速度は構造緩和時間で表されるスケールの大きな分子運動性よりも、タンパク質のカルボニル炭素のNMR緩和時間に反映されるスケールの小さな運動性と密接に関連していることが明らかになった。また、等温ミクロ熱量測定は高分子医薬品製剤の保存安定性を高感度に評価できる有用な手法であることが明らかになった。これらの2つの安定性の指標を組み合わせることにより、信頼性の高い安定性予測が可能であると考えられた。水酸基と三級アミンを有するCCDsは高い効率で遺伝子導入が可能であるが明らかになった。また、リポソーム/DNA複合体の高いカチオン性の表面電位と水和状態が、細胞内取り込みに関係し、リポソームベクターの遺伝子導入効率の指標として、リポソームの表面水和状態の有用性が示唆された。。
結論
タンパク質カルボニル炭素やDNAのデオキシリボース炭素のNMR緩和時間や、ミクロ熱量計を用いて検出されるタンパク質の分解に伴う極微小な熱を指標として、タンパク質凍結乾燥製剤や遺伝子導入リポソーム製剤などの保存安定性を評価できた。リポソームの水和状態など、遺伝子導入効率や細胞内取り込みに大きな影響を及ぼす因子を明らかにした。本研究で得られた成果を広範な高分子医薬品製剤に適用し、安定性評価法としての有用性を確認する必要があると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2010-05-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200940007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
タンパク質カルボニル炭素やDNAのデオキシリボース炭素のNMR緩和時間や、ミクロ熱量計を用いタンパク質の分解に伴う極微弱な熱を検出することによって、タンパク質凍結乾燥製剤や遺伝子導入リポソーム製剤などの保存安定性を評価できることを明らかにした。カチオン性脂質の化学構造や、リポソームの水和状態などが遺伝子導入効率や細胞内取り込みに大きな影響を与えることを明らかにし、遺伝子導入効率が高く、保存安定性に優れた非ウィルス性遺伝子導入製剤の設計において重要な知見を得ることができた。
臨床的観点からの成果
遺伝子導入用リポソーム製剤はウィルス性ベクターに比べ安全性が高いことで注目されているが、遺伝子導入効率が低いことが問題となっている。本研究において、mannosylerythritol (MEL-A)などの界面活性剤によってリポソームの表面改質を行うことにより遺伝子導入効率が改善されることが明らかになった。このような知見は臨床への応用が期待される。
ガイドライン等の開発
本研究で得られたNMR緩和時間などの分子運動性パラメータや等温ミクロ熱量に基づく安定性予測法を広範な高分子医薬品製剤に適用し、安定性評価法としての有用性を確認し、試験法の信頼性をさらに高める研究を継続し、タンパク質製剤等の安定性試験のガイドライン作成へつなげていく必要があると考えられる。
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
よこはまNMR構造生物学研究会第36回ワークショップ「生体系固体NMRの基礎から応用への展開」において、本研究成果をまとめた「高分子医薬品製剤の保存安定性とNMR緩和」に関する講演を行った。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
61件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
60件
学会発表(国際学会等)
17件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Bingquan Wang, Marcus T. Cicerone, Yukio Aso et al.
The impact of thermal treatment on the stability of freeze-dried amorphous pharmaceuticals: II. aggregation in an IgG1 fusion protein
J. Pharm. Sci. , 99 , 683-700  (2010)
原著論文2
W. Ding, Y. Hattori, Y. Maitani et al.
Surface properties of lipoplexes modified with MEL-A and Tween 80
Chem. Pharm. Bull. , 52 (2) , 138-143  (2009)
原著論文3
W. Ding, Y. Hattori, Y. Maitani et al.
Non-ionic surfactant modified cationic liposomes mediated gene transfection in vitro and in the mouse lung
Chem. Pharm. Bull. , 52 (2) , 311-315  (2009)
原著論文4
Y. Maitani , Y. Aso , S. Yoshioka et al.
Effect of sugars on storage stability of lyophilized liposome /DNA complexes with high transfection efficiency
Int. J. Pharm. , 356 , 69-75  (2008)
原著論文5
W. Ding, Y. Hattori, Y. Maitani et al.
Hydroxyethylated cationic cholesterol derivatives in liposome vectors promote gene expression in the lung
Int. J. Pharm. , 354 , 196-203  (2008)
原著論文6
Yoshioka, S., Miyazaki, T., Aso, Y. et al.
Significance of Local Mobility in Aggregation of -Galactosidase Lyophilized with Trehalose, Sucrose or Stachyose
Pharm. Res. , 24 , 1660-1667  (2007)
原著論文7
Yoshioka S., Aso Y.
Correlations between Molecular Mobility and Chemical Stability During Storage of Amorphous Pharmaceuticals
J. Pharm. Sci. , 96 , 960-981  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-