ウェルシュ菌芽胞形成調節ネットワークの解析と、調節遺伝子をターゲットとした食中毒予防法の開発

文献情報

文献番号
200939051A
報告書区分
総括
研究課題名
ウェルシュ菌芽胞形成調節ネットワークの解析と、調節遺伝子をターゲットとした食中毒予防法の開発
課題番号
H20-食品・若手-020
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
大谷 郁(金沢大学 医薬保健研究域医学系)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安心・安全確保推進研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ウェルシュ菌は、日本において食中毒の主要原因菌の1つとしてあげられる。この食中毒は、本菌が加熱不十分な食べ物とともに人体に入り、胃酸の刺激により芽胞を形成し、芽胞形成中に下痢を引き起こす腸管毒素(エンテロトキシン)を産生することが原因であると報告されている。しかし、その詳細なメカニズム、特に芽胞形成と腸管毒素産生の制御機構については未知のままである。本菌の食中毒予防法としては食物をよく加熱することしかないのが現状であり、大量に食べ物を調理する学校給食や仕出し弁当等での食中毒は未だに回避することが難しい状態である。そこで、昨年度同定した新規芽胞形成調節遺伝子による芽胞形成ネットワークの詳細を明らかとし、遺伝子レベルで芽胞をコントロールし、食中毒予防につなげることを本研究の目的とした。

研究方法
昨年度同定した調節遺伝子の変異株をガス壊疽株、食中毒由来株の両株を用いて作製し、その遺伝子発現をノザン解析、リアルタイムPCRを用いて、芽胞形成効率をコロニーカウント法または顕微鏡により確認した。二成分制御系全変異株を用いたノザン解析によるスクリーニングにて芽胞形成関連の二成分制御系同定を試みた。
結果と考察
新規芽胞形成調節遺伝子の変異株複数作製し、その遺伝子相補株も作製した。これらの株の解析により、この調節遺伝子は芽胞形成を負に調節していることが明らかとなった。この新規調節遺伝子は芽胞形成に関与するシグマ因子の転写やその他の芽胞形成関連遺伝子の転写も負に調節していることが明らかとなり、新規調節遺伝子が、芽胞形成を包括的に調節する調節遺伝子であることが示唆された。全二成分制御系遺伝子破壊株のスクリーニングにより、新規調節遺伝子の制御に関与する少なくとも3つの二成分制御系遺伝子が存在することが明らかとなった。今回明らかとなった二成分制御系の感知するシグナルを同定できれば、このシグナルをターゲットとした対策も可能になってくると考えられる。
結論
新規調節遺伝子は芽胞形成を転写レベルで包括的に調節していることが強く示唆されたこと、また、その転写制御に関与する二成分制御系の存在が明らかになったことは、本菌の食中毒は食品に混入した菌が体内に入る時に芽胞になり、腸管毒素を産生することで食中毒が発生することを考えると、この新規調節ネットワークをさらに解析することは、食中毒予防法開発に新たな側面を与える可能性が考えられる。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

文献情報

文献番号
200939051B
報告書区分
総合
研究課題名
ウェルシュ菌芽胞形成調節ネットワークの解析と、調節遺伝子をターゲットとした食中毒予防法の開発
課題番号
H20-食品・若手-020
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
大谷 郁(金沢大学 医薬保健研究域医学系)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安心・安全確保推進研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ウェルシュ菌は、日本において食中毒の主要原因菌の1つとしてあげられる。この食中毒は、本菌が加熱不十分な食べ物とともに人体に入り、胃酸の刺激により芽胞を形成し、芽胞形成中に下痢を引き起こす腸管毒素を産生することが原因であると報告されている。しかし、その詳細なメカニズム、特に芽胞形成と腸管毒素産生の制御機構については未知のままである。本菌の食中毒予防法としては食物をよく加熱することしかないのが現状であり、大量に食べ物を調理する学校給食や仕出し弁当等での食中毒は未だに回避することが難しい状態である。そこで、マイクロアレイを用いて芽胞形成に関与する調節遺伝子を抽出し、新規芽胞形成調節遺伝子による芽胞形成ネットワークの詳細を明らかとし、遺伝子レベルで芽胞をコントロールし、食中毒予防につなげることを本研究の目的とした。
研究方法
マイクロアレイデータを網羅的に解析し、様々な調節ネットワークを抽出後、そのデータをノザン解析ならびにリアルタイムPCRを用いて検証した。この解析により抽出された芽胞形成に関与する新規調節遺伝子の変異株をガス壊疽株、食中毒由来株の両株を用いて作製し、その遺伝子発現をノザン解析、リアルタイムPCRを用いて、芽胞形成効率をコロニーカウント法または顕微鏡により確認した。二成分制御系全変異株を用いたスクリーニングにより芽胞形成に関与する二成分制御系の同定を試みた。
結果と考察
マイクロアレイデータの解析により、芽胞調節に関与すると考えられる遺伝子が明らかとなった。新規芽胞形成調節遺伝子の変異株を複数作製し、またその遺伝子相補株も作製した。これらの株の解析によりこの調節遺伝子は芽胞形成を負に調節していることが明らかとなった。また、芽胞形成に関与する多くの遺伝子群の転写を包括的に制御していることが明らかとなった。さらに、全二成分制御系遺伝子破壊株のスクリーニングにより、新規調節遺伝子の制御に関与する少なくとも3つの二成分制御系遺伝子が存在することが明らかとなった。
結論
新規調節遺伝子は芽胞形成を転写レベルで包括的に調節していることが強く示唆されたこと、また、その転写制御に関与する二成分制御系の存在が明らかになったことは、本菌の食中毒の発生様式を考えると、この新規調節ネットワークをさらに解析することは、食中毒予防法開発に新たな側面を与える可能性が考えられる。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200939051C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究によって、これまでに他の菌でまったく報告がない新規の芽胞調節遺伝子が同定され、本遺伝子が芽胞形成における段階的な調節遺伝子群の発現を包括的に制御することにより、ウェルシュ菌の芽胞形成を負に調節することが明らかになった。この遺伝子のさらなる機能解析を通じて、将来的にウェルシュ菌食中毒発症機構の詳細なメカニズムの基礎的・学術的解明へとつながるものと思われる
臨床的観点からの成果
本研究の基礎的・学術的成果を食中毒予防などの臨床的応用まで持って行くためにはまだまだ基礎的研究が必要と思われるが、ウェルシュ菌食中毒による学校給食や仕出し弁当などでの大量の患者発生を防ぐための分子標的を明瞭に提示している研究である。基礎的研究データに基づく将来的予防法の開発という目的にとっては、従来にない新しく大きな成果と言える。
ガイドライン等の開発
本研究は基礎的段階にあるため、ガイドラインの作成などについては、まだその段階にない。
その他行政的観点からの成果
本研究はウェルシュ菌食中毒に関する細菌側の基礎的データの解析を行っている段階であり、まだ行政的な指針を与えるまでの研究には進展していない。しかしながら、今後本研究の成果を臨床的応用につなげ、食中毒予防への方策が見いだされた場合には、行政的にも大きな成果を上げられる可能性があると思われる。
その他のインパクト
該当なし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ohtani et al.
Identification of a two-component VirR/VirS regulon in Clostridium perfringens
Anaerobe  (2010)
原著論文2
Sufi Hassan, Kaori Ohtani et al.
Transcriptional Regulation of hemO Encoding Heme Oxygenase in Clostridiumperfringens
The Journal of Microbiology , 48 (1) , 96-101  (2010)

公開日・更新日

公開日
2013-05-27
更新日
-