睡眠覚醒の生化学および遺伝子工学とその臨床応用に関する研究

文献情報

文献番号
199700712A
報告書区分
総括
研究課題名
睡眠覚醒の生化学および遺伝子工学とその臨床応用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
早石 修(財団法人大阪バイオサイエンス研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 裏出良博(財団法人大阪バイオサイエンス研究所)
  • 佐藤伸介(財団法人大阪バイオサイエンス研究所)
  • 渡部紀久子(財団法人大阪バイオサイエンス研究所)
  • 江口直美(京都大学大学院医学研究科高次脳形態学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生化学的および分子生物学的手法を用いて、睡眠および覚醒の内在性調節物質であるPGD2およびPGD2の作用機構に関する基礎知識を深め、合理的な睡眠異常や睡眠覚醒障害の治療法の開発を目指す。
研究方法
1)通常の睡眠覚醒リズムを示すラット、および断眠後のラットの脳脊髄液を採取し、PGD2濃度をELISA法により定量する。
2)ラットPGD2受容体cDNAをRT-PCR法によりクローニングし、そのアンチセンスRNAをProbeとしてラット脳切片でのin situ hybridizationを行い、PGD2受容体mRNAの局在を調べる。
3)PGD2投与後のラット脳切片を作製し、c-Fos蛋白質の免疫組織化学を行い、活性化された神経細胞の分布を調べる。
4)各種アデノシン受容体作動薬をラットの脳内に投与し睡眠誘発効果を測定する。
5)マウスの皮下埋め込み型2ch(脳波、筋電)無線発信器を作製する。
6)PGD合成酵素遺伝子を欠損したES細胞をマウス胚盤胞に注入してキメラマウスを作製し、その後、交配によりノックアウトマウスを作製する。
7)ヒトPGD合成酵素cDNAを含むベクターをマウス受精卵に注入し、トランスジェニックマウスを作製する。
8)遺伝子組換え型PGD合成酵素の大量発現系を確立し、精製酵素を用いた結晶化条件のスクリーニングを行う。
9)ラット各種臓器の粗抽出液を用いてPGE合成酵素の精製を行う。
結果と考察
1)ラット脳脊髄液内PGD2濃度は動物の睡眠量および断眠に伴う睡眠要求に依存して上昇する。
2)ラットPGD2受容体は脳を包むクモ膜に局在する。
3)PGD2投与に特異的なc-Fos蛋白質の発現が、クモ膜細胞と視束前野の腹側外側部の神経細胞に観察された。又、視束前野の腹側外側部のc-Fos陽性神経細胞数は屠殺前一時間の動物の睡眠量と正の相関を示した。
4)各種アデノシン受容体作動薬の中で、A2a受容体作動薬がPGD2と同程度の強力な睡眠誘発作用を示し、A1受容体作動薬にはその作用がないことを証明した。
5)マウスの皮下埋め込み型2ch(脳波、筋電)無線発信器の試作器を完成させた。これを用いることにより、PGD合成酵素の遺伝子操作がもたらす睡眠異常を解析するためのマウス用睡眠バイオアッセイシステムが完成した。
6)PGD合成酵素の遺伝子を欠損させた独立2系統の純系ノックアウトマウス(129系)を作製した。現在、その繁殖と系統維持を行っている。
7)ヒトPGD合成酵素のトランスジェニックマウスを作製した。現在、独立4系統のコロニーの繁殖と系統維持を行っている。
8)マウスPGD合成酵素の遺伝子組換え型酵素を大腸菌を用いて大量発現させ、その結晶化に成功した。
9)ラット各種臓器の粗抽出液を用いて、グルタチオン要求性の異なる二種類のPGE合成酵素が存在することを見出し、それらの部分精製を行った。
研究結果(1ー4)により、PGD2による睡眠誘発情報は以下のような伝達機構であると予想される。まず、動物の睡眠要求に依存して脳脊髄液のPGD2濃度が上昇し、前脳基底部脳表面のクモ膜のPGD2受容体を刺激する。その情報はアデノシンA2a受容体を介して視束前野腹側外側部の神経に伝わり、その神経を活性化させ睡眠を誘発する。
研究結果(5ー7)により、遺伝子変異マウスの睡眠覚醒リズムを非拘束条件下に測定するバイオアッセイシステムが完成し、PGD合成酵素の遺伝子欠損や大量発現がもたらす睡眠異常を解析する方法が確立された。
研究結果(8、9)により、内在性の睡眠および覚醒の調節物質であるPGD2およびPGE2の生産を調整することにより睡眠覚醒を調整できるPGD合成酵素およびPGE合成酵素の阻害剤の開発方法が確立された。
結論
内在性の睡眠調節物質であるPGD2は、脳脊髄液を介した液性の調節因子としてクモ膜に分布する受容体を刺激し、アデノシンA2a受容体を介して視束前野腹側外側部の神経を活性化させ睡眠を誘発すると考えられる。又、PGD合成酵素の遺伝子欠損や大量発現がもたらす睡眠異常を解析するシステムを完成した。さらに、PGD2およびPGE2の生産を調整することにより睡眠覚醒を調整するPGD合成酵素およびPGE合成酵素の阻害剤の開発方法を確立した。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)