プレセニリン1,2異常によるアルツハイマー病の発症機序の解明

文献情報

文献番号
199700706A
報告書区分
総括
研究課題名
プレセニリン1,2異常によるアルツハイマー病の発症機序の解明
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
田平 武(国立精神・神経センター神経研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本保(京都府立医科大学脳血管系老化研究センター)
  • 巻淵隆夫(国立療養所犀潟病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プレセニリン(PS)1、2突然変異により何故アルツハイマー病 ( AD )が早期に発症するかを明らかにする。
研究方法
1. PS1、及びPS2を特異的に認識するポリクローナル抗体を用いて脳のウエスタンブロット解析を行う。
2. PS1、PS2のN端フラグメントおよびC端フラグメントを認識する抗体を用いてアフィニティーカラム精製を行い、ペプチドシークエンサーにより分解部位を決定する。
3. 野性株および変異株PS1,PS2遺伝子を強制発現させたヒト神経芽細胞腫株(SH-SY5Y)及び、トランスジェニックマウスを作製し、遺伝子変異がPS1、2の分解およびAβ分泌に与える影響をしらべる。
4. PS1抗体を用いて孤発性AD脳およびコントロール脳の免疫組織染色を行う。また、免疫電顕によりその細胞内局在を明らかにする。
5. PS1、PS2と結合する物質の遺伝子をyeast two hybrid systemによりクローニングする。
6. カエルの卵母細胞抽出液中のカスパーゼに対し、バキュロウイルスで発現させたPS1,PS2,KF-1がどのように作用するかをBCL2を対照としてしらべる。
結果と考察
1.ヒト脳ではPS1、PS2ともにN端フラグメント、C端フラグメントに分解されて存在し、AD脳とコントロール脳でその分解パターン、分解産物の量比は変わらなかった。
2. PS1、PS2遺伝子を強制発現させた場合、SH-SY5Y細胞およびトランスジェニクマウス脳ではPS1,2は全長蛋白もみられた。遺伝子変異の捜入はその発現・分解パターンに影響を与えなかった。
3. PS1は198位のメチオニンと199位のアラニンの間で、PS2は306位のリジンと307位のロイシンの間で限定分画されることが分かった。
4. AD脳の免疫組織染色では老人斑の神経原線維変化を有する変性突起と神経原線維変化を有する細胞体の一部にN端、C端フラグメントの沈着が見られた。免疫電顕によりその染色はpaired helical filamentに一致が見られた。
5. yeast two hybrid systemを用いてPS1、PS2の親水性ループ部分と結合する蛋白のスクリーニングを行ない、PS1と結合するδーカテニン、PS2と結合する新規物質を見い出した。
6. PS1, PS2ともに変異遺伝子を導入したSH-SY5Y細胞はAβx-42 / Aβx-40の比が有意に増加した。
7. BCL2はカエル卵母細胞のカスパーゼ活性(アポトーシス)を抑制したが、カエルPS1,2は影響を与えなかった。KF-1はBCL-2の作用を増強した。
PS1は限定分解を受けN端フラグメントとC端フラグメントに分かれて存在することを確認するとともに、その限定分解部位をはじめて明らかにし、AD脳とコントロール脳で分解パターンに差がないこと、遺伝子変異の導入でも分解パターンに変化を生じないことを示した。すなわち、プレセニリンは全長蛋白が作られると比較的すみやかに分解されて機能を発揮すると考えられる。
免疫組織染色ではプレセニリンのN端フラグメント、C端フラグメントが神経原線維変化とcolocalizeしてみられた。免疫電顕でPHFと一致して見られたが、PHF-タウ陽性のneuropil threadsには見られず、少なくともプレセニリンが神経原線維変化の成分であるとは思わない。恐らくAD脳における異常蛋白質処理機構の中で共通の処理を受ける結果であろうと考えている。
今回、δーカテニンがPS1と結合することを確認した。δーカテニンはarmadillo repeatを有し、Cadherinと結合する。PS1のノックアウトは体節の分離不全を生ずるので、PS1-δ-カテニンの結合は発生過程に重要な機能であると思われる。発達後の脳での機能は不明である。PS2と結合する新規物質は脳に発現が見られるが、その機能は不明である。
PS1,PS2はアポトーシスと関連があるといわれる。すなわち変異を有するその全長遺伝子産物はアポトーシスを促進するという。しかし、バキュロウイルスで発現させたカエルのPS1,2は卵母細胞のカスパーゼ活性に影響を与えなかった。PSは疎水性の高い蛋白質であり、可溶化に問題が残る。結論を導くにはさらに異なる実験系の構築が必要である。
結論
1. PS1,2は限定分解を受ける。
2. PS1,2の変異はAβ42の分泌を増加させる。
3. PS1のフラグメントは神経原線維変化の部位に沈着する。
4. PS1はδ-カテニンと結合する。
5. PS2と結合する新規物質を見出した。
6. PS1,2はカスパーゼ活性に影響を与えないようである。

公開日・更新日

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