文献情報
文献番号
199700701A
報告書区分
総括
研究課題名
発達期脳障害の神経伝達機構の解析とその治療研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
桜川 宣男(国立精神・神経センター神経研究所)
研究分担者(所属機関)
- 御子柴克彦(東京大学医科学研究所)
- 中村俊(国立精神・神経センター神経研究所)
- 三澤日出巳(東京都神経科学総合研究所)
- 岡戸信男(筑波大学基礎医学系)
- 武谷雄二(東京大学医学部)
- 高嶋幸男(国立精神・神経センター神経研究所)
- 難波栄二(鳥取大学遺伝子実験施設)
- 新井一(順天堂大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
発達期の脳障害は脳性麻痺、精神遅滞、学習障害やてんかんの原因となるが、高次脳機能を司る神経伝達機構はほとんど解析されていない。発達期脳障害の中枢神経症状に対する治療法も確立していない。そこで発達期脳障害の神経伝達機構について、その発生機序を分子細胞学的、分子病理学的に解明する。そして神経幹細胞の研究を進め、細胞の脳内移植法の研究開発することを目的とする。本年度の実施目標は胎児環境(羊水、羊水細胞)における神経伝達物質の解析、臭いレセプターの認識する臭い分子の同定、乳幼児突然死症候群の発生機序の解明などである。
研究方法
[神経伝達機構の基礎的研究] 御子柴は細胞特異的に遺伝子を導入する方法としてアデノウイルスベクターの中に細胞特異的プロモーターを導入する系を確立した。そして臭い分子を感知するレセプターがどの臭い分子を認識するかを調べ、臭い分子を同定することに世界で最初に成功した。三澤はコリン作動性神経に特異的に働くプロモーターを同定した。そして下位ニューロンの損傷と修復過程で上位ニューロン終末のリモデリングが起きることを発見した。桜川は羊膜細胞における神経伝達物質(アセチルコリン;ACh及びカテコールアミン;CA)代謝を解析した。そしてACh,CA両者の代謝を活発に行っていることを見い出した。また羊水,羊水細胞中においてもACh, CAが存在することを確認した。
[発達期脳障害の神経伝達機構の解析] 高嶋は乳幼児突然死症候群 (SIDS) の発生機序の解明のために、剖検例について呼吸循環調節に関与している脳幹部の神経核を検索した。そしてカテコールアミン作動性ニューロンのチロシン水酸化酵素の免疫組織化学的反応性の低下を認め、SIDS 発症の素因になっている可能性を示唆している。難波は日本人自閉症、精神遅滞ではセロトニントランスポーター遺伝子の調節領域のポリモルフィズムを検討した。米国人とは異なり sアレルが多いことを突き止めた。病気発症機構との関連している可能性があり、追及している。岡戸はフェニールケトン尿症モデルマウスを用いて, モノアミン欠乏性細胞死には生後1週令に多く生ずる臨界例のあることを証明した。これはシナプス形成が高頻度に生ずる時期であり、精神遅滞発症メカニズムとの関連を追及中である。武谷は羊胎仔において、臍帯圧迫の胎児循環系および活性酸素発生に及ぼす影響を検討し、臍帯圧迫による脳障害発生には循環系変化とこれにより増加した活性酸素が深く関与していることを明らかにした。
[発達期脳障害の治療法の開発研究] 細胞の脳移植術による治療法の研究として、移植に適した細胞(神経幹細胞)の開発、その細胞への遺伝子導入法の研究、動物実験などを行っている。桜川は羊膜細胞が同種移植によっても急性拒絶反応が起きない細胞であり、神経幹細胞の遺伝子を発現していることを報告した。さらに本細胞が神経伝達物質(AChおよびCA)代謝を活発に行っている細胞であることを発見した。そこで正常ラット、猿を用いて本細胞の脳内移植実験を行っている。また発達期の脳虚血障害における神経細胞修復を助長する目的で、虚血モデルマウスへの羊膜細胞移植療法の実験を行っている。新井は、ラット羊膜細胞の培養に成功し,10% DMEMとneurobasal medium (NBM) で比較した。NBMで培養すると長い突起を有する細胞に形態変化し,細胞周期の解析結果はG1, G0期のピークのみを示した。組織化学的には MAP2、TH,ChAT, Sp, GFAPに陽性であった。この結果ラット羊膜細胞は多能性神経幹細胞になりうる可能性を示唆し、脳内移植への応用研究を進めている。中村は、ラットの胎生 11.5 日の前脳・中脳領域の神経上皮組織に由来する不死化細胞株を樹立し、多能性神経幹細胞であることを証明した。この細胞株はニューロン、グリアの発生・分化に関するよいモデルと考えられており、この細胞株の増殖と分化の過程を制御する因子の解析に成功した。
[発達期脳障害の神経伝達機構の解析] 高嶋は乳幼児突然死症候群 (SIDS) の発生機序の解明のために、剖検例について呼吸循環調節に関与している脳幹部の神経核を検索した。そしてカテコールアミン作動性ニューロンのチロシン水酸化酵素の免疫組織化学的反応性の低下を認め、SIDS 発症の素因になっている可能性を示唆している。難波は日本人自閉症、精神遅滞ではセロトニントランスポーター遺伝子の調節領域のポリモルフィズムを検討した。米国人とは異なり sアレルが多いことを突き止めた。病気発症機構との関連している可能性があり、追及している。岡戸はフェニールケトン尿症モデルマウスを用いて, モノアミン欠乏性細胞死には生後1週令に多く生ずる臨界例のあることを証明した。これはシナプス形成が高頻度に生ずる時期であり、精神遅滞発症メカニズムとの関連を追及中である。武谷は羊胎仔において、臍帯圧迫の胎児循環系および活性酸素発生に及ぼす影響を検討し、臍帯圧迫による脳障害発生には循環系変化とこれにより増加した活性酸素が深く関与していることを明らかにした。
[発達期脳障害の治療法の開発研究] 細胞の脳移植術による治療法の研究として、移植に適した細胞(神経幹細胞)の開発、その細胞への遺伝子導入法の研究、動物実験などを行っている。桜川は羊膜細胞が同種移植によっても急性拒絶反応が起きない細胞であり、神経幹細胞の遺伝子を発現していることを報告した。さらに本細胞が神経伝達物質(AChおよびCA)代謝を活発に行っている細胞であることを発見した。そこで正常ラット、猿を用いて本細胞の脳内移植実験を行っている。また発達期の脳虚血障害における神経細胞修復を助長する目的で、虚血モデルマウスへの羊膜細胞移植療法の実験を行っている。新井は、ラット羊膜細胞の培養に成功し,10% DMEMとneurobasal medium (NBM) で比較した。NBMで培養すると長い突起を有する細胞に形態変化し,細胞周期の解析結果はG1, G0期のピークのみを示した。組織化学的には MAP2、TH,ChAT, Sp, GFAPに陽性であった。この結果ラット羊膜細胞は多能性神経幹細胞になりうる可能性を示唆し、脳内移植への応用研究を進めている。中村は、ラットの胎生 11.5 日の前脳・中脳領域の神経上皮組織に由来する不死化細胞株を樹立し、多能性神経幹細胞であることを証明した。この細胞株はニューロン、グリアの発生・分化に関するよいモデルと考えられており、この細胞株の増殖と分化の過程を制御する因子の解析に成功した。
結果と考察
[神経伝達機構の解析] 御子柴はアデノウイルスベクターによる細胞特異的な遺伝子発現させる技術を応用して臭い分子を認識するレセプターがどの臭い分子を認識するかを同定することに成功した。これは乳幼児の情緒発達には母子関係が不可欠であるが、そこに介在している可能性のあるフェロモンレセプターの解析へと研究を進めている。そして情緒障害などにおけるフェロモンの役割の解明に大いに貢献するであろう。桜川は羊膜細胞、羊水と羊水細胞中における神経伝達物質(アセチルコリン及びカテコールアミン)の代謝を同定した。これは胎児をめぐる環境において神経伝達物質がダイナミックに代謝している可能性を示唆している。したがって胎児の発達障害との関連が重要であり、今後検討していく予定である。
[発達期脳障害の神経伝達機構の解析] 高嶋は剖検例を用いて、乳幼児突然死症候群 (SIDS)の発生機序の検討を行った。難波は日本人自閉症、精神遅滞例のDNAサンプルを用いて, セロトニントランスポーター遺伝子の調節領域の検討を行った。いずれも発達期脳障害の重要な疾患を扱っており、今後の研究の発展が期待される。発達期脳障害のモデル動物による研究として、岡戸はフェニールケトン尿症モデルマウスを用いてモノアミン欠乏性細胞死の検討を行った。精神遅滞発症のメカニズムとの関連性を追及する動物実験として示唆的データと考えられる。武谷は羊胎仔を用いて、臍帯圧迫の胎児循環系および活性酸素発生に及ぼす影響を検討した。周産期異常の実験モデルとして有用であることが実証された。
[発達期脳障害の治療法の開発研究] 桜川、新井は羊膜細胞が多能性神経幹細胞としての性質の検討を詳細に行っている。ヒト羊膜細胞は神経伝達物質の機能を保持し、同種移植による急性拒絶を惹起しない細胞であることより、細胞または必要な遺伝子を導入した細胞の脳内移植療法には最も適した細胞である。もとより胎盤使用にあたりインフォームドコンセントを受理しており、倫理的にも問題は少ないと考える。中村はラット由来の多能性神経幹細胞を樹立した。ニューロン、グリアの発生、分化に関するよいモデルであり、多能性神経幹細胞の基礎研究の発展が期待される。
[発達期脳障害の神経伝達機構の解析] 高嶋は剖検例を用いて、乳幼児突然死症候群 (SIDS)の発生機序の検討を行った。難波は日本人自閉症、精神遅滞例のDNAサンプルを用いて, セロトニントランスポーター遺伝子の調節領域の検討を行った。いずれも発達期脳障害の重要な疾患を扱っており、今後の研究の発展が期待される。発達期脳障害のモデル動物による研究として、岡戸はフェニールケトン尿症モデルマウスを用いてモノアミン欠乏性細胞死の検討を行った。精神遅滞発症のメカニズムとの関連性を追及する動物実験として示唆的データと考えられる。武谷は羊胎仔を用いて、臍帯圧迫の胎児循環系および活性酸素発生に及ぼす影響を検討した。周産期異常の実験モデルとして有用であることが実証された。
[発達期脳障害の治療法の開発研究] 桜川、新井は羊膜細胞が多能性神経幹細胞としての性質の検討を詳細に行っている。ヒト羊膜細胞は神経伝達物質の機能を保持し、同種移植による急性拒絶を惹起しない細胞であることより、細胞または必要な遺伝子を導入した細胞の脳内移植療法には最も適した細胞である。もとより胎盤使用にあたりインフォームドコンセントを受理しており、倫理的にも問題は少ないと考える。中村はラット由来の多能性神経幹細胞を樹立した。ニューロン、グリアの発生、分化に関するよいモデルであり、多能性神経幹細胞の基礎研究の発展が期待される。
結論
発達期脳障害の神経伝達機構の解析にあたり、基礎的研究、患者材料を用いた研究およびモデル動物を用いた研究を行った。治療法の開発研究として神経幹細胞及び類似の細胞集団(羊膜細胞)の研究を行った。特に細胞特異的に遺伝子を導入できるアデノウイルスベクター系の開発は脳機能の基礎研究に有力な技術となるであろう。そして臭い分子の同定の成功は、母子関係樹立に関係すると言われるフェロモンの研究と情緒障害などの研究に発展するであろう。また胎児をめぐる環境(羊膜、羊水、羊水細胞)において、神経伝達物質代謝が存在することを証明できたことは、胎児発達期脳障害の解明にとって示唆的な情報である。以上より基礎研究を中心とした研究の伸展がみられ、治療法の開発にむけて研究を進めている。
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