ストレスマネージメントに関する研究

文献情報

文献番号
199700700A
報告書区分
総括
研究課題名
ストレスマネージメントに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
久保木 富房(東京大学医学部付属病院分院)
研究分担者(所属機関)
  • 石川俊男(国立精神神経センター)
  • 久保千春(九州大学医学部付属病院)
  • 津田彰(久留米大学)
  • 中井吉英(関西医科大学付属病院)
  • 下光輝一(東京医科大学付属病院)
  • 樋口輝彦(昭和大学藤が丘病院)
  • 坪井康次(東邦大学医学部付属大森病院)
  • 村上正人(日本大学医学部付属板橋病院)
  • 太田寿城(国立健康栄養研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現代はストレスの時代ともいわれるほど、ストレスフルな生活を体験している人が多い。ストレスと関係する病態としては、心身症をはじめ、急性ストレス病、慢性ストレス病、成人病(最近、厚生省は成人病という用語にかわって「生活習慣病」という用語を使用することを提唱しているが)、somatization(身体化)などの用語が使用されている。これらの病態や疾患が増加していること、さらにプライマリ・ケア医や家庭医といわれる医師を受診する患者の中にそれらの人々が30~40%程度存在していることが指摘されている。また、昭和63年の保健福祉動向調査によると、「健康教育やストレスに対する正しい情報をもっと知らせてほしい」と「病院・保健所などで、もっとストレスを気軽に相談できるようにしてほしい」と回答した者が28.5%おり、身近な施設でストレスマネージメントが行われることを希望する意見が多く出されている。
これらの要望に答えるためにストレスの評価と対処(ストレスマネージメント)に関して科学的に研究し、具体的な方策を開発していく必要性がある。
さらに保険医療政策上、プライマリ・ケア医や家庭医を受診する患者の30%前後が適切な対処を受け、健康の増進をはかることは、国民の福祉向上はもちろんのこと医療費の削減に貢献できるものである。
研究方法
本研究ではストレス評価と対処(ストレスマネージメント)について検討し、科学的に分析された具体的ツールや体系化された方法を開発することにある。そのために基礎的研究として分担研究者である久保千春氏はストレスの免疫学的研究を、石川俊男氏はストレスと脳機能を、津田彰氏は行動科学的ストレスモデルに関して研究を進める。
また、下光輝一氏はストレス評価、とくに外国における研究に関する検討を、樋口輝彦氏はストレスとうつに関する脳内アミン動態研究を、中井吉英氏は行動科学を応用したリラクセーション法について、坪井康次氏はバイオフィードバック療法を利用したリラクセーション法を、村上正人氏は自律訓練法を、太田寿城氏はスポーツ医学からの運動処方に関して研究を進める。主任研究者は研究総括と自らはストレス評価法の開発とその簡便化を追求する。方法としてはすべて科学的に計量可能なものを指標としていく。
基礎的研究についてはストレスに関連するfactorとして血圧、心拍、呼吸、脳波、各種ストレスホルモン、脳内アミンを測定していく。ストレスチェックリスト作成用の多変量的モデルに基づく研究では因子分析、多変量解析を実施していく。
また、ストレス対処法の研究においてはバイオフィードバック、自律訓練法、運動その他のリラクセーションに伴う各種のストレスファクターを測定しその効果について多変量解析によって検討する。
結果と考察
平成9年度までに実施できた班研究の中から基礎医学的研究を3点、臨床的研究を1点、その他心理社会的研究を4~5点取り上げてまとめを述べる。まず、
?ラットの胃粘膜損傷の発症や血漿コルチゾールの放出、脳内ノルアドレナリン系神経活動の代謝回転の亢進を指標としたストレスの動物モデルの実験より、ストレッサーに対して示す動物のコーピング方略の選択と実行は、ストレッサーへのコントロール可能性の有無や予測可能性の有無、不快な先行体験の有無など、さまざまな心理的、行動的要因が関与していることを明らかにした。
?マウスに拘束ストレスを負荷することにより血中のコルチコステロンの上昇とともに臓器内のリンパ球の分布が変化することが明らかとなった(Sudo et al,1997)。
?我々はストレスの種類やストレスが関与する疾患の違いによるHPA系の反応性の相違を検討することを目的として、新しい神経内分泌負荷テストであるデキサメタゾンーCRH負荷試験(Combined DEX-CRH test)を用いた検討を行っている。
?PET装置を用いて、摂食障害の初発時、増悪時、そしてstress managementを含めた心身医学的治療過程時における脳内での反応の変化を調べることを目的として研究を行うための準備をした。
?ストレスマネージメントにおける身体活動の意義を検討するために健診センターを1年間に受診した約25000人を対象に、身体活動と・ストレスの有無、・朝の目覚め等の関係を検討した。
?多変量的モデルに基ずくストレスチェックリスト(L.H.Q)を試作し1560名に実施し、データ処理し、有用なことを明らかにした。
?ストレスーコーピング過程では、ストレッサーを軽減するための絶対的コーピングは存在しないこと;2)ストレッサーの軽減に直接結びつかない行動的反応であっても、成功的なコーピングは存在することなどを示した。人間のストレス・マネージメント研究に対して、これらの知見は、1)ある1つのコーピングの側面がつねに適応的であるとする考え方は誤りであること;2)すべてのコーピングには、心理生物学的ストレス反応がどのような経路を介して、病気への罹患性を高めたり、特定の心身疾患を発症させるかなど、そのメカニズムについて検討する必要があろう。
?研究成果をふまえ、拘束ストレスの他の免疫機能(細胞性免疫、GVH反応など)へ及ぼす影響について検討する。本研究により拘束ストレスの免疫機能全般に及ぼす影響、ストレスの時期、期間及び年齢、性差などについてさらに明らかにしていく。ストレス時に上昇するIL-6は生体に有害な炎症反応を予防する効果を有している可能性が示唆された。今後ストレス時のIL-6の上昇するメカニズムについて明らかにする。
?次年度は健常者に心理的ストレスを負荷してCombined DEXーCRH testを行い、その反応パターンを比較検討する予定である。
?神経性食欲不振症例を対象に、各々、経時的過程、治療過程に応じて、最低2回、PET検査(15O-H2O(γCBF)法、18F-FDG(γCMRGIc)法及びMRI(Volume Acq.)検査を施行する。その際には、経時的変化、治療過程における変化を捉えることを目的とするので、相対的評価に耐え得るべく、対象症例の臨床的評価を、各検査時ごとに厳密に行う。データ解析に関してはSPM法によりPET機能画像統計解析を行う。
?ストレスマネージメントにおける運動の有用性および各種生活習慣について調査研究を展開していく。また、運動、生活習慣、コーピング、タイプA行動パターンなどの関連についても検討していく。
?ストレスチェックリストとしてL.H.Qを作成したが、海外でいくつかのストレスチェックリストが利用されているので、それらとの関係およびversionづくりのための検討に入る。また、TEG,POMSなどの他の心理テストとのバッテリーについての研究も展開する予定である。
?すでに述べたごとくストレスマネージメント研究においおて、観測データの個別性や主観性が高く、評価や対処の方法を困難なものとしている。
今後はファジー推論、ニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリズムなどのsoft computingなども応用していくつもりである。
結論
ストレスの評価と対処に関しては、ヒトにおける実際的なストレスチェックリストの作成と基礎的研究およびリラクセーション法の開発、普及が求められている。今後も本班を研究のテーマとして以上のことをさらに発展させていくことが必要である。
H9年度は研究の最初の年度でもあり、ストレスチェックリストの試案を作成し、H10年度に実用化へ向けて準備が出来ること、基礎的研究およびリラクセーション法うつの研究、ストレスと運動に関して十分な成果をあげると考えている。

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