文献情報
文献番号
199700699A
報告書区分
総括
研究課題名
セプチンフィラメントによるアルツハイマー病動物モデルの作成に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
木下 専(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
来たるべき高齢化社会においては痴呆患者数の増加が深刻化することが予想されている。しかし現時点において、代表的な非血管性痴呆性疾患であるアルツハイマー病の予防および治療研究に必要不可欠な、完全なモデル動物が存在しないことが問題となっている。主任研究者らは、現在ヒトで知られているセプチンファミリー蛋白5種類のうち、3つがアルツハイマー病の主要な病理変化の一つである神経原線維変化にタウ蛋白とともに存在することを発見した。本研究課題においては神経原線維変化の構成成分セプチンを過剰発現することにより、本疾患に類似した病理像を呈するモデルマウスの作成を試みた。
研究方法
カルモデュリンキナーゼIIプロモーター下流にNedd5遺伝子を融合した組み換え遺伝子をゲノム内に挿入したマウス系統を樹立する。このプロモーターの時間的・空間的発現特性を利用して、アルツハイマー病の主要な変性の場である大脳皮質および海馬ニューロンにおいて、本来成体脳では発現量の少ないセプチンの1つNedd5を生涯にわたって過剰発現させる。このマウス脳の病理組織学的解析を行う。
結果と考察
既にセプチンNedd5発現マウスの系統樹立に成功し、若いホモ接合体が得られている。現在6か月齢に達しているへテロ接合体の免疫組織化学的解析を行った結果、複数の系統においてNedd5が細胞質や神経突起内に顆粒状に蓄積した神経細胞が海馬CA1-CA3領域に散在していた。そして驚くべきことに、これらの異常構造物はリン酸化タウ蛋白を認識するモノクローナル抗体AT8によっても認識された。したがって、これはセプチンのみならずリン酸化タウ蛋白をも巻き込んだものと考えられ、まさに神経原線維変化形成の初期段階であるpretangleの性状を有する複合体であることが判明した。現在、さらに高いNedd5発現量を有するマウス系統を選択・樹立し、12-18か月齢程度に老化させることにより、神経原線維変化のさらなる進行を試みている。
結論
セプチンNedd5を過剰発現する海馬CA1-CA3ニューロンの細胞質内に、Nedd5-リン酸化タウ蛋白二重陽性の顆粒が形成された。これはヒトの神経原線維変化の初期段階であるpretangleに酷似した、セプチン-リン酸化タウ蛋白複合体と考えられる。タウ蛋白過剰発現マウスにおいてはこのような複合体が形成されないことから、セプチンNedd5の細胞質内蓄積が、セプチン-リン酸化タウ蛋白複合体形成の律速段階であると推察された。したがって、セプチンの発現・分解や重合・脱重合の制御、あるいはタウ蛋白との結合部位の修飾などによって複合体形成を抑制できれば、アルツハイマー病における神経原線維変化を軽減することができると期待される。細胞質内の異常線維の蓄積によるニューロンの恒常性の破綻はアルツハイマー病における細胞死の誘因の1つであることからも、セプチンを薬物治療のターゲットとすることは有効な治療戦略であろう。したがって、さらに進行した神経原線維変化を呈するモデルマウスの作成と同時に、各セプチン分子の基本的物性、相互作用、動態の解明、およびこれらを修飾しうる化合物のスクリーニングなど、アルツハイマー病の治療を視野に入れた研究を展開することを今後の目標とする。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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