優性遺伝形式をとる遺伝性難聴に関する調査研究

文献情報

文献番号
200936269A
報告書区分
総括
研究課題名
優性遺伝形式をとる遺伝性難聴に関する調査研究
課題番号
H21-難治・一般-214
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
宇佐美 真一(国立大学法人信州大学医学部耳鼻咽喉科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 工 穣(国立大学法人信州大学 医学部耳鼻咽喉科学講座)
  • 熊川 孝三(虎の門病院 耳鼻咽喉科・聴覚センター)
  • 東野 哲也(宮崎大学 医学部耳鼻咽喉科学講座)
  • 佐藤 宏昭(岩手医科大学 耳鼻咽喉科学講座)
  • 古屋 信彦(群馬大学大学院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性難聴は新出生児1000人に1人に認められる頻度の高い先天性障害のひとつである。特に優性遺伝形式をとる遺伝性難聴の場合、1)罹患者数が少なく希少であり、2)家系ごとに原因遺伝子や臨床経過が大きく異なるため、効果的な診断法および治療法は未だ確立されておらず、多くの場合発症メカニズムは不明である。また、進行性の難聴である場合が多く、長期に渡って生活面に支障を来たす。さらに、優性遺伝形式で遺伝するため、再発率(次の世代に難聴が遺伝する確率)が50%であることより、患者の心理的負担が非常に大きいため、診断法・治療法の開発が期待されている。
本研究では、優性遺伝形式をとる遺伝性難聴患者を対象に、難聴の経過や随伴症状などの臨床情報および治療実態の調査を行いデータベース化することで、優性遺伝形式をとる遺伝性難聴患者の実態把握と治療法確立のための基盤整備を目的とした。
研究方法
本研究では、信州大学、虎の門病院、群馬大学、岩手医科大学、宮崎大学と連携し、優性遺伝形式をとる遺伝性難聴患者を対象に、難聴の経過や随伴症状などの臨床情報および治療実態の調査を実施し、実態把握と治療法確立のための基盤整備を行った。また、250例を対象にKCNQ4遺伝子の解析を実施した。
結果と考察
臨床情報の収集とデータベース化を行い、収集された情報を基に解析を行った結果、先天性難聴患者全体と比較をした場合、優性遺伝形式をとる遺伝性難聴の患者の臨床的な特徴として、軽度?中等度難聴の場合が多く、かつ進行性の難聴が多いため、難聴発見が遅れる傾向にあることが明らかとなった。また、耳鳴を伴う難聴が多いことも明らかとなった。しかしながら、難聴の程度や進行性にはばらつきが大きく、タイプ別に治療指針を示すことが必要であることが明らかとなった。また、250例を対象にKCNQ4遺伝子の解析を実施し新規遺伝子変異を含む7種類の原因遺伝子変異を見出した。今後、症例を増加するとともに解析を継続することで、更なる成果が期待できる。
結論
本研究により、優性遺伝形式をとる遺伝性難聴の実態把握(日本における罹患患者数・難聴の程度・進行性・随伴症状など)および治療実態の把握(補聴器・人工内耳の装用効果、言語成績など)が共同研究機関を含めて400例を超える規模で行われ、優性遺伝形式をとる遺伝性難聴の臨床的な特徴を明確にすることができた。

公開日・更新日

公開日
2010-06-07
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936269C

成果

専門的・学術的観点からの成果
平成21年度は優性遺伝形式をとる遺伝性難聴患者より書面で同意を取得の上、採血を行い遺伝子バンクを構築した。また構築されたバンクより250例を対象にKCNQ4遺伝子の解析を実施し新規遺伝子変異を含む6種類の原因を見いだした。今後、症例を増加してバンクを充実させるとともに解析を継続することで、更なる成果が期待できる。また、見出された遺伝子変異はその後の難聴発症のメカニズム解析の際に非常に重要な基盤情報となるとともに、研究領域に大きなブレークスルーをもたらすことが期待される。
臨床的観点からの成果
 優性遺伝形式をとる遺伝性難聴は、家系ごとに臨床経過が大きく異なるため、効果的な診断法および治療法は確立されておらず、多くの場合発症メカニズムは不明である。また実態把握もほとんど行われておらず、難聴の程度や治療方針の実態は不明であった。
 本研究により、優性遺伝形式をとる遺伝性難聴の実態把握(日本における罹患患者数・難聴の程度・進行性・随伴症状など)および治療実態の把握(補聴器・人工内耳の装用効果など)を行い、優性遺伝形式をとる遺伝性難聴の臨床的な特徴を明確にすることができた。
ガイドライン等の開発
本年度の研究により、優性遺伝形式をとる遺伝性難聴の患者は、軽度~中等度難聴の場合が多く、かつ進行性の難聴が多いため、難聴発見が遅れる傾向にあることが明らかになった。しかしながら、難聴の程度や進行性にはばらつきが大きく、タイプ別に治療指針を示すことが必要であることが明らかとなったため、調査研究班により原因遺伝子に応じた診断基準および治療指針(試案)を作成した。今後症例を増加させるとともに、各タイプに応じた詳細なガイドラインの策定を計画している。
その他行政的観点からの成果
本研究の発展により、原因遺伝子が同定され、遺伝子によるタイプ分類に応じたオーダーメイド医療が進展し疾患の克服および適切な医療の選択が行なわれることが期待される。平成21年度は、高音急墜型の聴力像を呈する難聴患者に対する新しい治療法として、EAS人工内耳を高度医療に申請し承認を受けて臨床での利用を開始した。今後、遺伝子型に応じたタイプ分類と、新しい介入法を取り入れた診療ガイドラインが作成されることで、患者のQOLを大きく向上させることが可能であると期待される。
その他のインパクト
平成21年度の研究成果を公表する成果報告会を公開で開催し、研究分担者以外からも広く参加者を呼びかけ、優性遺伝形式をとる遺伝性難聴に関して興味を持つ研究者が多数参加した。これにより得られた成果を広く公開するとともに、研究分野の活性化を図ることができた。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Usami S, Miyagawa M, Suzuki N et al.
Genetic background of candidates for EAS (electric acoustic stimulation).
Audiological Medicine.  (2010)
原著論文2
Lu SY, Nishio S, Tsukada K et al.
Factors that affect hearing level in individuals with the mitochondrial 1555A>G mutation.
Clin. genet. , 75 , 480-484  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-