慢性動脈周囲炎の予測と実態把握にむけた研究

文献情報

文献番号
200936263A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性動脈周囲炎の予測と実態把握にむけた研究
課題番号
H21-難治・一般-208
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
石坂 信和(東京大学 医学部附属病院 )
研究分担者(所属機関)
  • 小野 稔(東京大学 医学部附属病院)
  • 平田 恭信(東京大学 医学部附属病院)
  • 久米 春喜(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性動脈周囲炎は、動脈周囲に著明な炎症性の線維化を生じる疾患の総称である。今回、東京大学附属病院に入院した慢性動脈周囲炎の症例を過去のデータベース検索から抽出し、症例数や臨床経過、有用なバイオマーカーについて検討した。
研究方法
循環器内科、心臓外科、泌尿器科のデータベースから対象症例を抽出し解析した。
結果と考察
循環器内科症例は男性11例、女性1症例、平均年齢は65.9歳 (31?81歳)であった。後腹膜線維症が8症例、炎症性大動脈瘤が4症例であった。治療は、ステロイド6症例、尿管ステント1症例、腹部大動脈瘤に対するステント1症例、胸部大動脈瘤に対する手術療法1症例であった。合併した冠動脈硬化症に対し冠動脈バイパス術を1症例、経皮的冠動脈拡張術を1症例に施行。免疫学的、炎症関連のバイオマーカー(陽性症例数/測定症例数)はIgG456%(5/9)、hsCRP75%(9/12)、抗核抗体0%(0/10)、可溶性インターロイキン2受容体88%(7/8)で陽性であった。血清IgG4正常の1例を含めて、急性の経過で2症例死亡しており、死因は収縮性心膜炎、心外膜炎が各1例であった。
心臓外科症例は、7例の炎症性動脈瘤症例を抽出した。腹部大動脈瘤が4例、胸部大動脈瘤が1例、腹部と胸部大動脈瘤の合併が1例、胸腹部大動脈瘤が1例であった。全例男性、平均年齢67.3歳であった。腹部大動脈瘤のサイズは32?85mm、胸部大動脈瘤のサイズは50?71mm、胸腹部大動脈瘤は90mmであり、全例で人工血管置換術が行われ、手術死亡はなかった。手術後の炎症性動脈瘤の再発はなかった。
泌尿器科症例は、11症例(男7例、女4例)で平均年齢は67.6歳であった。全例で泌尿器科受診の契機は腎症の精査・治療目的であった。うち6例では慢性動脈周囲炎またはIgG4関連疾患と合併していた。腎瘻または尿管ステント留置を4例に行なったが、2例ではこれらの治療にもかかわらず、腎機能の低下が進行し、腎萎縮に至っている。
結論
慢性動脈周囲炎は、手術療法、腎瘻を必要としたり、心膜炎による致死的な転帰をたどる場合があることから、必ずしも予後良好な疾患ではない。IgG4値は測定された症例の約半数で正常範囲であり、のマーカーとしての役割には限界があると考えられた。また、リンパ球の活性化のマーカーであるsIL-2Rが高率に陽性であることが明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2010-05-25
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936263C

成果

専門的・学術的観点からの成果
炎症性大動脈瘤・後腹膜線維症の症例は様々な診療科にわたり、冠動脈周囲炎や心膜炎、胸膜炎を併発する場合があること、血中のIgG4陽性を認めるものは約半数であることなどを明らかにした。以上から診療科横断的に検討を行う必要性が確認された。また、Clinical spectrumや診断根拠、人種差が存在するかなどについても、現時点では確定したものはない。今回の問題提起を通じて診断基準の策定や病態形成メカニズムの解明の端緒につけたことは意義深いと考えている。
臨床的観点からの成果
本疾患は(1)心膜・胸膜などへの炎症の波及を認めることがある、(2)冠動脈周囲炎により冠動脈壁の肥厚・冠動脈瘤・冠動脈狭窄の可能性がある、(3)IgG4の高値は約半数に認める、(4)病像やステロイド反応性にIgG4正常群と高値群で差がみられない、(5)IgG4正常群でも急性の転帰の場合がある、(6)病変の広がり検索にFDG-PETが有効な可能性があるなどの知見が、今後の診断・治療に有用と考えられる。また、sIL-2Rは約9割が陽性で、リンパ球の活性化が関与する可能性が示唆された。
ガイドライン等の開発
暫定的な診断基準を提出した。この中では、(1) 外膜の線維性の肥厚、mantle sign、動脈の瘤状変化を大動脈に限定せず、冠動脈、末梢血管に認める場合も動脈周囲炎として捉えたこと、(2) 心外膜、胸膜の肥厚と心嚢水、胸水貯留を、心膜、胸膜への炎症の波及ととらえたこと、検査データでは、(4) 血中γグロブリン値、IgG値、IgG4値に加え可溶性インターロイキン2受容体(sIL-2R)値をマーカーとして加えた点などが、本研究班の検討結果を反映したポイントとなっている。
その他行政的観点からの成果
特になし。
その他のインパクト
本研究の結果の一部を、第42回日本動脈硬化学会総会にて発表予定。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-