腎性尿崩症の実態把握と診断・治療指針作成

文献情報

文献番号
200936246A
報告書区分
総括
研究課題名
腎性尿崩症の実態把握と診断・治療指針作成
研究課題名(英字)
-
課題番号
H21-難治・一般-191
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
神崎 晋(鳥取大学)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田 晋一(鳥取大学 医学部)
  • 花木 啓一(鳥取大学 医学部)
  • 難波 栄二(鳥取大学 生命機能研究支援センター)
  • 五十嵐 隆(東京大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腎性尿崩症(NDI)は、抗利尿ホルモン(AVP)V2受容体(V2R)あるいはそれ以降の異常により、多尿をきたす疾患である。本症は、新生児期の不明熱・痙攣(高Na血症)、持続する多尿・夜尿、知的発達障害、多尿による水腎症・水尿管・膀胱尿管逆流および腎不全などによりQOL低下を招く難病である。私達は、わが国のNDIについて、頻度や合併症等について包括的に検討した。
研究方法
わが国の小児内分泌学会、小児腎臓病学会、内分泌学会、腎臓学会会員を対象にアンケート調査した。回収された回答をもとに、わが国のNDIについて、頻度、治療法、遺伝子変異および合併症について解析した。
結果と考察
1)111例のNDIが確認された。リチウム製剤に起因するものが12例報告されていた。111例中43例(38.7%)に腎泌尿器系の合併症を認め、13例(11.7%)が腎不全となった。精神発達遅滞は20/111 (18.0%)に見られた。2)63例が遺伝子解析され、V2R遺伝子異常が43例(68.3%)に、AQP2遺伝子異常が6例(9.5%)に見出された。日本人に特有の遺伝子異常の集積部位は無いように思われる。3)NDIにはサイアザイド系利尿薬が有効と考えられ、一度は試みる必要がある。デスモプレシン(DDAVP)、NSAIDs,インドメタシン,スピロノラクトンも有効な症例があった。4)DDAVP投与が有効であった3例は部分型NDIであった。AVP負荷試験に反応があるNDIではDDAVPを試みるべきである。5)ARBを投与した妊婦の児が、新生児期に腎不全をきたし、回復後のNDIを呈した。妊婦へのACEI/ARB投与の危険性をあらためて強調する必要がある。6)心因性多飲と診断されていた部分型NDIの2例では、完全型NDIとは異なり、AVPは変異V2Rのpartial agonistであることが示された。部分型NDIの原因はV2RとG蛋白との共役異常である可能性を示唆している。
結論
NDIでは高率に腎泌尿器系の合併症を認め、腎不全に至る症例も存在する。精神発達遅滞も約20%に見られ、合併症予防が急務である。治療にはサイアザイド系利尿薬が有効であるが、部分型NDIではデスモプレシンも有効であった。妊婦へのARBを投与は児に腎不全や腎性尿崩症をきたす。心因性多飲のなかに部分型NDIが存在するので、注意すべきである。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936246C

成果

専門的・学術的観点からの成果
腎性尿崩症63例(45.7%)の遺伝子解析で、V2受容体(V2R)の異常が43例(68.3%)に見出された。V2R異常で複数の症例で認められた異常は、D85Nが4例、R106C、R181C、R202C が各2例であった。アクアポリン2の異常が6例(9.5%)に見出されていた。遺伝子検査をおこなうも異常なしと明記されているものが4例(6.3%)あった。10例(15.9%)がその他と記載されており、ネフロン瘻の遺伝子異常やその他の遺伝子に起因すると記載されていた。
臨床的観点からの成果
デスモプレシンは,小児期で4/14例(29%),成人例で6/10例(60%)で有効であった。全ての症例が抗利尿ホルモンに対する感受性は全く消失しているわけではないと考えられ,特に部分型(軽症)腎性尿崩症では、デスモプレシンが有効である症例も存在する。妊婦へのアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)投与は、新生児期の腎不全をきたし、回復後も腎性尿崩症を呈する。妊婦へのARBやアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)投与の危険性をあらためて強調する必要がある。
ガイドライン等の開発
アンケート調査から、腎性尿崩症の患者は、嘔吐・下痢症で、十分な経口水分摂取が困難なときに高張性(高Na性)脱水に陥りやすい。従って嘔吐・下痢症の時の補液療法についてのガイドラインの作成を行う必要がある。
その他行政的観点からの成果
アンケートで確認された腎性尿崩症は111例で、リチウム製剤(リーマスⓇ)に起因するものが12例報告されていた。43例(38.7%)に腎泌尿器系の合併症を認め、水腎症28例で、水尿管12例、膀胱尿管逆流7例であった。腎不全に至ったものは13例であった。腎泌尿器系以外の合併症としては、精神発達遅滞が20例(18.0%)に見られた。そのうち6例は重度遅滞、14例は軽度遅滞であった。中枢神経系では、その他、脳梗塞・脳出血、痙攣が認められた。
その他のインパクト
本研究班の成果を腎性尿崩症患者および治療者に周知するために、ホームページを22年度中に立ち上げる。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-