先天性ビオチン代謝異常症における分子遺伝学的方法による病態解析および迅速診断法の開発

文献情報

文献番号
200936239A
報告書区分
総括
研究課題名
先天性ビオチン代謝異常症における分子遺伝学的方法による病態解析および迅速診断法の開発
課題番号
H21-難治・一般-184
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
坂本 修(東北大学)
研究分担者(所属機関)
  • 大浦 敏博(東北大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性ビオチン代謝異常症の代表はホロカルボキシラーゼ合成酵素(HCS)欠損症、ビオチニダーゼ(BD)欠損症である。著明な代謝性アシドーシス、難治性湿疹などで発症する。本邦での頻度は100万に1人と考えられてきたが、タンデムマス試験研究によると20万に1人とされており、見逃されている可能性がある。この現状に鑑み、本研究においては以下を目的とした。
・本邦でのHCS欠損症、BD欠損症に関しての疫学調査
・日本人HCS欠損症の高頻度変異の迅速遺伝子診断系の構築
・日本人HCS欠損症軽症型・非典型群の頻度把握と変異スペクトラムの解析
・日本人BD欠損症の頻度把握と遺伝子診断系の構築、変異スペクトラムの解析
研究方法
・疫学調査のため、一次調査として小児科学会専門医研修施設(512施設)に、2000年以降の経験の有無についてアンケートを送付した(回収率74.2%)。12施設で HCS欠損症(17症例)、BD欠損症(1症例)が確認された。該当症例に関して、二次調査を実施した。
・日本人HCS欠損症の遺伝子診断系の構築と変異スペクトラムの解析
・日本人HCS欠損症の高頻度変異の迅速遺伝子診断系の構築
・日本人HCS欠損症軽症型・非典型群の頻度把握と変異スペクトラムの解析
結果と考察
 HCS欠損症14例(10家系)では11例が新生児から乳児期に重篤なアシドーシス発作で発症していた。タンデムマスでの未発症発見例が1例あった。遺伝子検査が12例で施行されており、p.L237P変異、c780delG変異の頻度が比較的高頻度であった。BD欠損症は1例のみであった。
 さらにプロピオン酸血症と診断されながらもその責任遺伝子に変異がみられなかった新生児死亡例において、HCS遺伝子の塩基解析にてp.L237Pに加え、新規の変異(p.Y230X)を検出した。この高頻度変異であるp.L237Pに対し、融解温度分析変異解析系を構築し、ゲノムから一時間以内に同変異の有無に関し診断できるようになった。
 タンデムマスにて指摘されたHCS欠損未発症例の変異は他と異なり、軽症表現型に関連していると考えられた。
結論
 本邦では先天性ビオチン代謝異常症の大部分はHCS欠損症が占め、新生児から乳児期に発症し、他の疾患と誤診されている例も認められた。高頻度変異があることから「タンデムマス→尿有機酸分析→高頻度変異の検出」といった一連の診断の流れが有用と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2010-05-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-03-24
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936239C

成果

専門的・学術的観点からの成果
先行した疫学調査として、多田ら(1976-1984年)、高柳ら(1990-1999年)がある。それぞれHCS欠損症として2症例、11症例と報告されている。今回は報告例が17例と、報告例が増えている。今回は報告例が17例と、報告例が増えている。タンデム質量測定器(タンデムマス)によるスクリーニングによる未発症発見例の存在が確認でき、タンデムマスの有用性が認識された。しかし一方で他の疾患と診断されていた例も確認され、診断・治療にわたる啓発の必要性が認識された。
臨床的観点からの成果
本研究で見られるようにHCS欠損症の診断においてはほぼ全例で、尿有機酸分析と遺伝子診断がなされている。HCS遺伝子の単離が1994年であったことから、症例報告の増加の背景として遺伝子診断による確定診断率の上昇が推測される。HCS欠損症をはじめとした先天性ビオチン代謝異常症は診断さえつけば、ビオチン大量療法が大半の例で奏功する。現在その確定診断は遺伝子診断に依存しており、HCS欠損症では特定の変異の迅速な診断系の確立が有用であることが確認され、それに対応すべく高頻度変異の迅速診断系を立ち上げた。
ガイドライン等の開発
HCS欠損症では新生児期から乳児期に発症がみられるため診断と平行して、治療を実施することが重要である。つまりHCS欠損症の存在や他のビタミン反応性疾患の存在も想定して、ビオチンを含む複数のビタミンの投与が必要になる。診断においては尿有機酸分析から遺伝子診断へとスムースに実施することが必要である。それらの流れに関し、フローチャートを作成した。
その他行政的観点からの成果
タンデムマスによるスクリーニング(以下同法)で未発症例の存在が確認され、軽症例・非典型例の診断の契機として同法が有用であることが確認された。また同法試験研究においてはビオチン代謝異常症の頻度は20万に1人と(推定年間発症件数5人)、今回の頻度と乖離しており、診断に至らない症例の存在が推測される。実際今回の研究で他の疾患と診断されていた例が確認できた。予防医学的観点からビオチン代謝異常症の予後改善に、本邦においても先進諸外国のように同法の導入の重要性を提示できた。
その他のインパクト
ビオチンはビタミンとしては認知度が低い。しかしながら本年の小児科学会学術集会でもアレルギーの治療に関連したビオチン欠乏症の報告が二例あり、本研究がビオチンについての知識の啓発に関わっているものと考えている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
ビオチン代謝異常症 小児内科 41(増刊);398-400, 2009
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-