わが国におけるX連鎖αサラセミア・精神遅滞(ATR-X)症候群の診断基準・診療指針の作成および医療・患者間の情報ネットワークの確立

文献情報

文献番号
200936230A
報告書区分
総括
研究課題名
わが国におけるX連鎖αサラセミア・精神遅滞(ATR-X)症候群の診断基準・診療指針の作成および医療・患者間の情報ネットワークの確立
課題番号
H21-難治・一般-175
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
和田 敬仁(神奈川県立こども医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 小坂 仁(神奈川県立こども医療センター)
  • 黒澤 健司(神奈川県立こども医療センター)
  • 齋藤 伸治(北海道大学医学部)
  • 福嶋 義光(信州大学医学部)
  • 田辺 秀之(総合研究大学院大学)
  • 松本 直通(横浜市立大学)
  • 岡本 伸彦(大阪母子保健総合医療センター)
  • 後藤 雄一(国立精神・神経医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
X連鎖性αサラセミア・精神遅滞(ATR-X)症候群は、精神遅滞を中心とする多彩な症状を特徴とし、日本国内では約60名、世界的にも約200症例程度が診断されている「稀少疾患」であるが、そのメカニズムは解明されていない。ATR-X症候群の疫学調査、診断基準の作成、患者・ご家族への情報提供、および病態解明のための基礎研究の推進が本研究の目的である。
研究方法
臨床的研究においては、日本におけるATR-X症候群の頻度の推定、患者データベースの作成および診断基準の作成、患者・ご家族への医療情報提供方法の検討を行った。また、基礎的研究として、ATR-X症候群の分子遺伝学的診断方法の確立、病態解明のための分子細胞学的解析を行い、また、臨床および基礎研究推進のための基盤整備を行った。
結果と考察
臨床的研究においては、ATR-X症候群と診断した65名の臨床情報をもとに、診断基準(案)を作成し、また、ATR-X症候群の発生頻度を男児5.8-7.3万人に1人であり、日本の出生数約100万で、年間10人前後の症例が発症していると推測し、診断されていない症例が多数存在していると考えられた。分子遺伝学的解析においては、45家系56名でATRX遺伝子変異を明らかにした。
患者さんやご家族および関係者に対する情報を発信・交換を目的として、「ATR-X症候群ネットワークジャパン」を設立し、ホームページを作成し、「第1回ATR-X症候群 患者さんに関わる皆さんのための勉強会」を開催した。同じ不安を抱えるご家族同士が情報を交換し、またお互いに共感することにより、孤立感から解放され、疾患に対して不安感が軽減され、疾患に対して前向きに取り組む姿勢がうかがわれた。
基礎研究においては、ATRX遺伝子変異の解析方法として、従来よりも診断精度や経済的な効率を改善した新法を開発した。また、3D-FISH法を用いたATR-X症候群の病態解明の準備、および、エピゲノム異常の検索によるATR-X症候群の病態解明を行った。
結論
ATR-X症候群を代表とする稀少疾患における分子遺伝学的診断および患者の臨床情報は、小児専門病院や大学などに集約・登録し、分子遺伝学的診断精度を高めるとともに、患者情報を集積し、患者・ご家族,医療者に還元していくことは必須であり、神奈川県立こども医療センターを中心とした本研究は、小児専門病院における稀少疾患に対する取り組みを示すものである。

公開日・更新日

公開日
2010-06-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936230C

成果

専門的・学術的観点からの成果
精神遅滞(MR: mental retardation)は、全人口の約1-3%でみとめる、非常に頻度の高い病態であり、科学的な根拠に基づいた治療あるいは療育のためには、その病態解明は他の疾患同様に必須である。本研究は、X連鎖精神遅滞におけるATR-X症候群の重要性を示すとともに、臨床研究および基礎研究を推進するための基盤整備を行った。世界的に約200名が診断されているが、そのうち約60名が日本人症例であり、世界におけるわが国のATR-X研究の重要性が示された。
臨床的観点からの成果
本研究では、ATR-X症候群の日本人症例45家系56名で分子遺伝学的解析が行われ、その臨床情報が集積された。神奈川県立こども医療センターにおけるDown症候群症例との比較から、ATR-X症候群の発症頻度は男児5.8-7.3万人と推定し、日本国内では年間10名前後の症例が発症していると予想された。これにより、診断されていない症例が多数存在することが明らかになり、ATR-X症候群が疾患として認知されていない可能性が明らかにされた。
ガイドライン等の開発
本研究において、臨床的および分子遺伝学的にATR-X症候群と診断された日本人症例45家系56名の臨床情報をもとに、診断基準および診断のためのフローチャートを作成した。診断基準は、必発症状・所見(>90%以上、5つ揃えばATR-X症候群を疑う所見)5項目と、高頻度(50%)、あるいはしばしば(50%以下)認める症状・所見、その他の参考所見、および、除外診断、鑑別診断の項目からなる。本診断基準は試案であり、平成22年度以降、その妥当性を臨床現場で検討していく。
その他行政的観点からの成果
ATR-X症候群の発症頻度は、Down 症候群の約1/145であり、稀少疾患であるが、遺伝子診断能力の向上やATR-X症候群の周知により、今後、発症頻度が上向きに修正されることが予想される。ATR-X症候群は精神遅滞が重度であり、また、その臨床症状は多彩であり、関連臨床科も他領域に及ぶため、患者・及びご家族の負担は小さくない。医療的及び経済的な支援の基盤整備のためには、症例の登録制度は必須であり、本研究は、稀少疾患に対する小児専門医療機関への分子遺伝学的診断および臨床症状の集約の重要性を示した。
その他のインパクト
患者・ご家族に対する情報提供のために、ATR-X症候群ネットワークジャパンを神奈川県立こども医療センター内に設立し、ホームページを開設した。また、「第1回ATR-X症候群 患者さんに関わる皆さんのための勉強会(平成22年2月)」を開催した。患者およびご家族15家族を中心に総勢60名が集まり、ご家族同士の情報の共有は、情報不足も一因となる精神的な孤立を軽減するのに大きな役割を果たしていることが示された。本研究は、稀少疾患の患者及びご家族に対する小児専門医療機関のあり方を示すものである。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
19件
その他論文(和文)
17件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
27件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
「ATR-X症候群ネットワークジャパン」ホームページの公開、「第1回ATR-X症候群 患者さんに関わる皆さんのための勉強会」の開催

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-