先天性赤芽球癆(Diamond Blackfan貧血)の効果的診断法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
200936229A
報告書区分
総括
研究課題名
先天性赤芽球癆(Diamond Blackfan貧血)の効果的診断法の確立に関する研究
課題番号
H21-難治・一般-174
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 悦朗(弘前大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 照井 君典(弘前大学医学部附属病院)
  • 小島 勢二(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 浜口 功(国立感染症研究所)
  • 大賀 正一(九州大学病院総合周産期母子医療センター)
  • 小原 明(東邦大学医療センター大森病院)
  • 森尾 友宏(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Diamond-Blackfan anemia (DBA)は、赤血球造血のみが障害される稀な先天性赤芽球癆である。原因遺伝子としてリボソームタンパク(RP)遺伝子が同定されている。海外では約40%のDBA患者にRP遺伝子の変異が認められているが、本邦では原因遺伝子が同定されている症例はほとんどない。本研究の目的はDBAの診断基準を作成し、それに基づいた疾患登録を行ない、本症の全貌を明らかにすることである。さらに、原因遺伝子の解析と疾患特異的なバイオマーカーの検索を行ない、病態解明とともに精度の高い診断を目指す。
研究方法
1)日本小児血液学会の疾患登録システムの中で中央診断を伴うDBAの登録システムを立ち上げる。2)DBA臨床検体の遺伝子解析を行う。遺伝子解析は本学の倫理委員会の承認を得て、本人あるいは両親の同意の上実施する。3) RPの発現量の低下がバイオマーカーとして有用であるかどうかを検証する。4)上記の解析結果と臨床情報をもとに、診断基準を作成する。5)全国の小児科専門医研修施設を対象に一次疫学調査を行う。
結果と考察
DBA登録システムを立ち上げ、4例のDBAが登録された。新たに中央診断された症例とこれまでに収集した45家系の臨床検体の遺伝子解析を行った。既知のRP遺伝子変異を29%に認め、RPS19、RPL5、RPL11、RPS17遺伝子変異が、それぞれ6例(13%)、4例(9%)、2例(4%)および1例(2%)で検出された。一方、RPS24 、RPL35aおよびRPS14には変異を認めなかった。RPS19あるいはRPL5 の変異をもつ患者は全例とも身体的異常を合併していた。また、DBAの診断にRPの発現量の低下がバイオマーカーとして有用である可能性を見出した。以上の結果と海外からの報告を参考にして、DBAの診断基準案を作成した。全国の小児科専門医研修施設を対象に、一次疫学調査を行った。その結果、132例のDBA症例の報告があった。
結論
本邦のDBA患者におけるRP遺伝子変異の頻度は29%であり、欧米の約50%よりも低いことが明らかとなった。欧米ではDBA登録制度が確立し、検体保存やそれを用いた疾患の研究が行われている。本研究班が中心となり、永続的な制度としての「日本DBA登録制度」の確立を目指したい。これは、患者の支援や基礎・臨床研究を行うための基盤になり国際貢献にも繋がると思われる。

公開日・更新日

公開日
2010-05-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936229C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本邦のDBA45家系の臨床検体の遺伝子解析を行った。既知のRP遺伝子変異を29%に認め、RPS19、 RPL5、 RPL11、RPS17 遺伝子変異が、それぞれ6例(13%)、4例(9%)、2例(4%)および1例(2%)で検出された。一方、RPS24 、RPL35aおよびRPS14には変異を認めなかった。本邦のDBA患者におけるRP遺伝子変異の頻度は29%であり、欧米の約50%よりも低いことが初めて明らかとなった。
臨床的観点からの成果
DBA患者の約半数が何らかの身体的異常を合併しており、全体としては欧米とほぼ同様の頻度であった。しかし、RPS19あるいはRPL5の変異をもつ患者の全例で何らかの身体的異常がみられ、身体的異常を高率に合併する変異であることが示唆された。拇指の異常を認めた6例全例がRPS19あるいはRPL5変異、口蓋裂を認めた3例のうち2例がRPL5変異をもっていたことは、特定の遺伝子変異と臨床像との関連を示唆するものであった。
ガイドライン等の開発
本年度の研究結果に加え、日本小児血液学会がこれまでに収集したDBAの疫学データと海外からの報告を参考にして、軽症例を含むDBAの診断基準案を作成した。この診断基準案を含む診断の手引きを添えて、全国の小児科専門医研修施設(520施設)および小児血液学会評議員(150名)を対象に、2000年1月以降に把握された症例について1次疫学調査を行った。その結果、539施設から回答が得られ、132例のDBA症例の報告があった。来年度以降さらに詳細に2次調査を行う予定である。
その他行政的観点からの成果
DBAは軽症例から最重症例まで広範囲な病像を示すことから、臨床所見のみで診断することは容易ではない。診断は各施設に任されていたが、必ずしも正確な診断が行われていなかった。平成21年度は、中央診断を伴うDBA登録システムを確立し、4例のDBAが登録された。全国レベルでのスクリーニングから確定診断にいたるシステムの整備が進んだことで、発症頻度をはじめ原因遺伝子、病型分布などの疫学事項を高い精度で把握することが可能となり、その社会的意義はきわめて高いと思われる。
その他のインパクト
欧米ではDBAの登録制度が確立し、検体保存やそれを用いた疾患の研究が行われている。特に北米のDBA登録制度は充実しており、米国とカナダの患者登録数は600名以上にのぼる。これに対して、日本ではこのような登録制度はなく、本疾患に対する研究は著しく遅れていた。本研究班が中心となり、永続的な制度としての「日本DBA登録制度」の確立を目指したい。これは、DBAの患者の支援やDBAの臨床および基礎研究を行うための基盤になり、国際貢献にも繋がると思われる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
20件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
26件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
APPLICATION OF SYNOVIUM-DERIVED MESENCHYMAL STEM CELLS (MSCs) REGENERATION(米国国際特許出願中 YCT-1301)
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Konno Y, Terui K, Ito E et al.
Mutations in the ribosomal protein genes in Japanese patients with Diamond-Blackfan Anemia.
Haematologica  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
2016-06-20