自己貧食空胞性ミオパチーの疾患概念確立と診断基準作成のための研究

文献情報

文献番号
200936227A
報告書区分
総括
研究課題名
自己貧食空胞性ミオパチーの疾患概念確立と診断基準作成のための研究
課題番号
H21-難治・一般-172
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
杉江 和馬(奈良県立医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 西野 一三(国立精神・神経センター 神経研究所)
  • 木村 彰方(東京医科歯科大学 難治疾患研究所)
  • 小牧 宏文(国立精神・神経センター病院 小児神経科)
  • 金田 大太(大阪赤十字病院 神経内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
13,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
自己貪食空胞性ミオパチー(AVM)は、筋病理学的に筋鞘膜の性質を有する極めて特異な自己貪食空胞(AVSF)を有する稀少な筋疾患である。AVMには、Danon病やXMEA(過剰自己貪食を伴うX連鎖性ミオパチー)、乳児型、多臓器障害を伴う成人型、X連鎖性先天性AVMが含まれる。いずれも身体障害度は重度だが、臨床病型により発症年齢や生命予後は大きく異なる。オートファジー機構の関与が疑われるが、依然原因は不明で治療も未確立である。今回、AVMの正確な診断と適切な治療遂行には必要不可欠である、本疾患の疾患概念確立と診断基準作成を目指した。
研究方法
研究実施機関:国立精神・神経センターは、世界最多のAVM患者の臨床情報と検体を管理している。この貴重な情報から臨床情報の解析を行う。また、診断基準項目への病理所見の導入に向け、生検筋を病理学的に解析する。さらに、新規患者の臨床的・病理学的精査を行い、必要があれば遺伝子解析を行う。そして、AVMの各臨床病型の分類や診断基準項目の選定を行って、疾患概念確立と診断基準作成を行った。
結果と考察
AVM患者の臨床情報の解析で、Danon病患者全例で予後決定因子である致死性の心筋症を認め、成人型は肥大型心筋症を呈した。一方、XMEAでは心筋障害は認めず、乳児型は心肥大を、先天性では7例中1例で心筋症を有したことから、AVMの臨床病型で特に心筋障害が特徴的差異を示した。また、成人型AVM患者の世界初の病理解剖での全身検索を施行し、中脳黒質ドパミン細胞の障害が示唆された。さらに、遺伝性心筋症の臨床病態解析を行い、心筋症における横紋筋I帯要素異常の発見とその病態形成機構への関与を示した。そして、2009年にXMEAの原因遺伝子として明らかになったVMA21遺伝子変異を先天性AVMの家系で同定し、先天性AVMはXMEAのアレル病であると考えられた。病態機序は依然不明な点が多くさらなる研究が必要である。以上の結果と病理所見を踏まえ、Danon病とXMEAの診断基準を作成した。また、他の臨床病型の原因遺伝子は未確立だが、臨床病理所見を中心に記載して診断基準とした。
結論
今回、AVMの臨床病態について病理学的・遺伝学的解析を行い、世界で初めて診断基準を作成した。今後は、疫学的実態調査や現段階での適切な治療ガイドラインの策定、基礎的な病理学的研究から根本治療法の開発を目指す。

公開日・更新日

公開日
2010-05-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936227C

成果

専門的・学術的観点からの成果
自己貪食空胞性ミオパチー(AVM)は、本研究班の研究代表者のグループがこれまで先駆的研究を行い臨床病型を明らかにしてきた稀少な筋疾患である。日本人の罹患が最も多く、我々の研究施設(国立精神・神経センター)に保管されるAVMの検体数は世界で最も多い。今回、この有利な条件を最大限に活用して、その先駆的研究を行っている本研究班が、AVMの疾患概念を確立して診断基準を作成したことは、今後のAVMの診療および治療法開発に向けての研究において、国際的にも社会的意義があり大きな責務を果たした。

臨床的観点からの成果
AVMは、筋病理学的に筋鞘膜の性質を有する極めて特異な自己貪食空胞を有する稀少な筋疾患である。AVMには、Danon病やXMEA(過剰自己貪食を伴うX連鎖性ミオパチー)など様々な臨床病型がある。いずれも身体障害度は重度だが、臨床病型により発症年齢や生命予後は大きく異なり疾患概念は未確立であった。今回の研究で、AVMの疾患概念確立に向けて診断基準作成を行ったことは、AVMの正確な診断と適切な治療遂行、他疾患の鑑別に必要不可欠であり今後の診療に有意義であった。
ガイドライン等の開発
AVM患者の臨床情報の解析を行って、各臨床病態を明らかにした。本研究班で得られた臨床的・病理学的・遺伝学的な研究成果から、必要な診断基準項目を選定して、AVMの代表疾患であるDanon病とXMEAの診断基準を作成した。また、他の臨床病型の原因遺伝子は未確立だが、臨床的病理学的所見を中心に導入して診断基準を作成した。今後のさらなる臨床情報の蓄積から、感度・特異度ともに高い診断基準を確立させたい。
その他行政的観点からの成果
患者に及ぼす波及効果としては、根本治療が困難な現在において、疾患の病態を把握し対症療法を行い長期予後を予測することが可能となり、患者の生活の質の点で極めて有意義であった。また、医療関係者に広く疾患を周知することで、早期から適切な治療やケアの提供、社会環境の整備が可能となる。さらに、医療経済上も、保健行政上も、長期間の療養生活での種々の合併症対策や定期検査が、周囲からの適切な介入の下で行えることが予想される。
その他のインパクト
稀少疾患であるためこれまで原因や治療法は全く未確立であったが、これまでの研究成果からオートファジー機構の関与が示唆されている。オートファジーは、生体の全細胞が備えている重要なタンパク質分解機構であり、飢餓や感染、悪性腫瘍の他、様々な病態で重要な役割を果たしている。筋組織でのオートファジーの解明がなされれば、本疾患だけでなく、全身の普遍的なオートファジーの解明につながり、様々な病態の治療に結びつく可能性があり、この点では社会的貢献度は絶大であると予想される。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-