高IgD症候群に対する細胞分子生物学的手法を駆使した診療基盤技術の開発

文献情報

文献番号
200936218A
報告書区分
総括
研究課題名
高IgD症候群に対する細胞分子生物学的手法を駆使した診療基盤技術の開発
課題番号
H21-難治・一般-163
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
平家 俊男(京都大学大学院医学研究科 発達小児科学)
研究分担者(所属機関)
  • 中畑 龍俊(京都大学iPS細胞研究所)
  • 西小森 隆太(京都大学大学院医学研究科)
  • 小原 收(かずさDNA研究所)
  • 重松 陽介(福井大学医学部)
  • 横田 俊平(横浜市立大学医学研究科)
  • 荒川 浩一(群馬大学大学院医学研究科)
  • 原 寿郎(九州大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高IgD症候群は遷延する炎症性疾患で、発熱、関節炎に留まるものから、発育不全、精神発達遅延等の重度の障害に至るものまで、多様性を持つ疾患である。加えてメバロン酸キナーゼ(MK)機能喪失という代謝性疾患の性格も併せ持つ。我々は自己炎症症候群の診療において中心的な役割を果たし、日本における周期熱症例を全国より集積、遺伝子解析を中心に疾患研究を行ってきた。その結果本邦で発見された5例すべての高IgD症候群の診断に関わり、診断・治療レベルを向上させ、ひいては世界標準診療基準としての確立を目指す。
研究方法
本研究では、A)高IgD症候群の迅速診断技術の確立、B)同技術を用いた本邦における同疾患の実態調査、C)患者末梢血、線維芽細胞、患者由来iPS細胞作成による病態の解析、D)免疫不全マウスNOGマウスを用いた疾患モデルの作成、E)高IgD症候群の治療の標準プロトコール策定、新規治療法の開発、を有機的に統合することにより、診断治療技術の開発を行う。

結果と考察
自己炎症性症候群は新しい疾患概念であり、特に高IgD症候群は多くの臨床医に行き届いていない疾患である。原因であるメバロン酸キナーゼ機能喪失の程度により臨床症状が多様性であるため疾患把握が困難である、確定診断としての酵素活性測定を海外に依存している等、日本における高IgD症候群の診療基盤は、貧弱である。そのため、十分な医療の恩恵に授かれない患者さんが数多く存在する。本研究の遂行により、1)今まで見過ごされてきた患者さんに確固とした診療基盤が提示できることにより、早期診断、早期治療が可能となること、2)早期介入が可能となることにより、発育不全、精神発達遅延などの重度の障害が予防できること、3)iPS細胞研究を組み込むことにより、分子基盤に基づく診療体系の確立を目指すことができることにより、国民の保健・医療・福祉の向上が強く期待できる。
結論
疾患特異性の高い迅速診断法としての尿中メバロン酸測定法、および確定診断法としてのMK酵素活性測定法確立を確立した。また、本邦のほとんどの症例の血清IgD値が、欧米人と異なり、正常範囲内に留まること、欧米人では高率に認められる消化器症状、関節炎、皮疹の発症頻度も低いことが明らかとなった。これらの結果を踏まえ、本邦において正しく高IgD症候群の患者さんの診断を行い、医療の恩恵を行き渡らせるためには、本邦における高IgD症候群の疾患概念の改編、およびその周知・徹底が必要である。

公開日・更新日

公開日
2010-05-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936218C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本邦における高IgD症候群の実態を調査する、2)尿中メバロン酸測定・MK活性測定の系を確立することにより確実且つ迅速な診断体制を整える、3)日本での臨床的な特徴、プロフィールを提供する、の3点について進展を得た。その結果、確定診断例9例、疑診例7例と集計された。これらの診断例について、2)尿中メバロン酸測定・MK活性測定をもって未確認の症例もあり、確定診断例、疑診例について、再評価をおこなっている。
臨床的観点からの成果
高IgD症候群は、世界で100例以上が報告されているのに対し、日本では平成20年度末で疑い2症例が報告されているのみであった。今回、本研究助成による調査により、検索途中ではあるが確定診断例9例、疑診例7例の集計結果を得た。この症例数は、従来の調査からは到達しえない数であり、日本にも高IgD症候群が存在することが証明されたという面で、学術的にも社会的にも意義深いものである
ガイドライン等の開発
確定診断例7症例のうち5症例については、我々の研究室にて尿中メバロン酸測定・MK活性測定を行い、確認済みである。その結果、1)ほとんどの症例の血清IgD値が、欧米人と異なり正常範囲内に留まる、2)欧米人では高率に認められる消化器症状、関節炎、皮疹の発症頻度が低い、など、日本の高IgD症候群に特有な所見が存在することが上げられ、日本人に適した診断に至るガイドラインを作成中である。
その他行政的観点からの成果
京都大学医学部小児科学教室において、原因不明の周期性発熱疾患の遺伝子検査を、網羅的に施行していることが全国に知られるようになってきており、検体集積が積極的に行える状況にある。平成21年度は200余症例の、周期性発熱症例の検査依頼を受けるまでになってきている。今後、容易にヒットするホームページの作成、学会・研究会での発表等を通して、更なる疾患の集積に努め、本疾患の認知を徹底する。
その他のインパクト
日本小児科学会学術集会、日本小児感染症学会、日本小児リウマチ学会、日本リウマチ学会をはじめ、多くの研究会において、本疾患について、啓蒙に努めた

発表件数

原著論文(和文)
24件
原著論文(英文等)
93件
その他論文(和文)
42件
その他論文(英文等)
11件
学会発表(国内学会)
194件
学会発表(国際学会等)
57件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nagato M, Heike T, Kato T, et al
Prospective characterization of neural stem cells by flow cytometry analysis using a combination of surface markers
J Neurosci Res , 80 (4) , 456-466  (2005)
原著論文2
Yoshimoto M, Chang H, Heike T, et al
Two different roles of purified CD45+c-Kit+Sca-1+Lin- cells after transplantation in muscles
Stem Cells , 23 (5) , 610-618  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
2016-06-20