アルツハイマー型痴呆の病態に関する研究:βアミロイドとプレセニリンの病因的意義の解明

文献情報

文献番号
199700693A
報告書区分
総括
研究課題名
アルツハイマー型痴呆の病態に関する研究:βアミロイドとプレセニリンの病因的意義の解明
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
岩坪 威(東京大学大学院薬学系研究科臨床薬学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 丸山敬(国立生理学研究所)
  • 西道隆臣(理化学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルツハイマー病(AD)の大多数は弧発例であるが、bアミロイドペプチド(Ab)、ことに第42残基で終わるA*42優位のアミロイド蓄積は、弧発例を含む全てのADに共通する病理学的特徴である。このためAb42分子種の産生をブロックすることは、ADの進行抑制・根本的治療法として、最も有望な方法の一つと考えられる。本研究においてはADの病態を、(1) Abの産生機構、ことにその蓄積に大きな影響を与えるカルボキシ(C)末端の形成に関与するg-secretaseの同定と作用機序の解明、(2)家族性AD (FAD)原因遺伝子presenilin (PS)のAD発症における役割、特にAb産生機構に対する影響の解明、の2点に絞って明らかにし、その治療法開発に指針を与えることを目的とする。
研究方法
(1) 断片型変異PS2がAb42産生に及ぼす影響:生体内に存在するPS蛋白のほとんどはプロセッシングを受けた断片型蛋白であり、PS2の変異はN末端断片上に位置する。断片型変異PS2がAb42産生亢進能を持つかどうかを知るため、断片型PS2をコードするcDNAを培養細胞に発現させ、A*分泌を調べた。(2) PS2蛋白のプロセッシングに関する検討: アポトーシス刺激によるPS2プロセッシングの変化をスタウロスポリン処理等の方法で検討した。(3) g-secretase候補分子に関する検討:SREBP切断酵素とg-secretasの関係を知るため、 SREBP切断酵素欠損細胞株のAb分泌を検討した。(4) PS変異を有するFAD剖検脳の免疫組織化学的検討:50例以上のPS変異症例剖検脳をAbC末端特異抗体で染色し、Ab40,42蓄積を免疫組織化学的に検討した。(5)トランスジェニック動物脳の免疫組織学的検討:変異PS1と変異APP遺伝子を共発現したダブルトランスジェニック動物脳におけるAb蓄積ならびに神経細胞脱落を検討した。
結果と考察
(1) 断片型変異PS2がAb42産生に及ぼす影響:全長変異PS2を発現させた場合と異なり、Ab42の分泌は全く増加しなかった。(2) PS2蛋白のプロセッシングに関する検討: PS2はcaspase-3により通常の分解と異なる位置で切断を受けることを見出した。(3) g-secretase候補分子に関する検討:SREBP切断酵素欠損細胞のβペプチド分泌は全く正常であることを見出し、本酵素はg-secretaseと異なる酵素であることを示した。(4) PS変異を有するFAD剖検脳の免疫組織化学的検討:PS変異FAD脳では、Ab40,42蓄積量はともに増加していた。(5)トランスジェニック動物脳の免疫組織学的検討:変異PS1と変異APP遺伝子を共発現したダブルトランスジェニック動物脳のAb蓄積は顕著に増加していたが、神経細胞脱落は生じていないことを示した。
変異PSがAb代謝に影響を及ぼす際、その全長が、断片に切断された後にも安定化された状態で存在することが必要であることが示唆され、PSの機能発現に必要なサブドメイン、及びこの部位に結合する蛋白質の同定が重要と考えられた。またFADの発症要因として、A*のC末端におけるプロセッシング異常を介したAb 42産生・蓄積の増加が示唆されたが、Ab蓄積のみでは細胞死に至らないものと考えられた。
結論
PSの変異がAb42の産生を亢進させるメカニズムの追究は、AD全般の病因解明に重要な示唆を与えるものと考えられる。今後PSの正常・病的機能を保証する細胞内機構の解明が急務である。

公開日・更新日

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