乳幼児破局てんかんの実態と診療指針に関する研究

文献情報

文献番号
200936211A
報告書区分
総括
研究課題名
乳幼児破局てんかんの実態と診療指針に関する研究
課題番号
H21-難治・一般-156
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
大槻 泰介(国立精神・神経センター病院 脳神経外科)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 勝弘(岡山大学医学部小児科)
  • 井上 有史(静岡てんかん神経医療センター)
  • 渡辺 英寿(自治医科大学脳神経外科)
  • 須貝 研司(国立精神・神経センター病院 小児神経科)
  • 高橋 章夫(国立精神・神経センター病院 脳神経外科)
  • 小国 弘量(東京女子医科大学小児科)
  • 廣瀬 伸一(福岡大学医学部小児科)
  • 亀山 茂樹(国立病院機構西新潟中央病院 脳神経外科)
  • 山本 仁(聖マリアンナ医科大学 小児科)
  • 馬場 好一(静岡てんかん神経医療センター 脳神経外科)
  • 馬場 啓至(国立病院機構長崎医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
乳幼児破局てんかん(catastrophic epilepsy)は、乳幼児期に頻発するてんかん発作により重篤なてんかん性脳機能障害を生じ、その結果発達の停止・退行など破局的な発達予後を呈する乳幼児難治てんかんをさす。原因は皮質形成異常、腫瘍性病変、周産期障害、遺伝子異常等であるが、早期のてんかん外科治療により良好な予後が得られる場合もあり、最新の画像診断や遺伝子診断に基づく診療指針の見直しと外科治療対象症例の早期診断・早期治療の達成が求められる。
 本研究は、乳幼児破局てんかんの患者数、診療実態及び治療予後を明らかにし、乳幼児破局てんかんの診断と内科的・外科的治療に関する診療指針を作成することを目的とする。
研究方法
1)本邦の乳幼児破局てんかんの有病率を推定するため、岡山県の小児てんかん疫学調査(1999年)の資料を基に、乳幼児破局てんかんに該当する症例の再集計を行った。2)日本小児神経学会認定医を対象にアンケート調査を行ない、乳幼児破局てんかんの診療実態調査を行った。3)2007年1年間の本邦の乳幼児破局てんかんの手術例数を調査し、4)分担研究者施設における後方視的予後調査と、それを基にした多施設共同前方視的研究のプロトコル作成を行ない、更に5)診断と治療ガイドラインに関する先行研究の調査を行った。
結果と考察
我が国の6歳未満の乳幼児のうち約4800人が乳幼児破局てんかんと推定され(有病率 0.74/1,000)、病因は、皮質形成異常、腫瘍性病変、Sturge-Weber 症候群など外科治療対象例が半分以上を占め、単一施設の後方視的研究で外科治療例の予後が内科治療群に比べ良好である可能性が示された。本邦の年間の外科治療例は、乳幼児破局てんかん症例の1.0~1.9%と推定されたが、乳幼児破局てんかんの治療予後に関する先行研究は乏しく更に調査を行う必要がある。
結論
乳幼児破局てんかんは全国で5000例に満たない稀少疾患であるが、重篤な予後を呈するにも係わらず、その診療実態と治療予後に関する調査は不十分である。今後この重篤な稀少疾患に対する診療指針を作成する為に、多施設共同研究により症例を集積し、外科治療を含む診療の実態と治療予後を明らかにし、予後に影響する因子を解析する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2010-05-25
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936211C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、乳幼児破局てんかんの患者数・治療実態・予後の調査及び世界的な研究状況の調査を通じ、診断と内科・外科治療に関する指針を作成するものである。初年度は我が国における乳幼児破局てんかんの患者数と診療実態調査を中心に研究を行ない、その結果我が国における乳幼児破局てんかんの有病率は最重症例が0.38/1000、予備群を含めると0.74/1,000と推定され、我が国の6 歳未満の人口 における乳幼児破局てんかんの症例数は、最重症例が 2500 人、予備群を含めると4800 人と推定された。
臨床的観点からの成果
初年度の研究より、乳幼児破局てんかんの病因は、脳形成異常など外科治療対象例が多くを占めることが分かったが、一方我が国のてんかんの外科治療に関する全国調査では、疫学研究により推定される乳幼児破局てんかん患者の 1.0?1.9%のみが外科治療を受けているにすぎない実態が明らかとなった。本邦のてんかん外科手術件数は人口あたりでは英国・韓国の半分にすぎず、外科治療適応症例の多くが適切な診断と治療を受けられない状況が指摘されているが、乳幼児てんかんでも同様の傾向である可能性が示された。
ガイドライン等の開発
初年度は、診断および治療指針に関連した文献調査を行ない、エビデンスレベルを検討することで推奨度を検証した。しかし乳幼児破局てんかんにおいては、画像診断、遺伝子診断、薬物治療及び外科治療などに関し、未だ十分な調査が行われていないのが実態であり、本研究班で今後診療の実態と治療予後に関する調査を行ない、その結果を基に、乳幼児破局てんかんの診療指針を作成することが必要と考えられた。平成22?23年度において多施設予後調査を行い、その結果を踏まえ外科治療を含む診断・治療ガイドラインを完成する予定である。
その他行政的観点からの成果
乳幼児破局てんかんは、全国で5000例程の稀少疾患であり、重篤な予後を呈するにも係わらずその診療実態と治療予後に関する十分な調査が行われていないことが明らかとなった。今後この重篤な稀少疾患に対する診療指針を確立する為に、これまでの実績をもとに東アジア地区を含む国際多施設共同研究を開始する。本研究の成果により、重篤な発達障害に至る小児難治性てんかん患者が減少し患者・家族の負担が軽減するとともに、外科治療による発作の完治と患児の将来的な生活の自立による社会経済学的効果が期待できる。
その他のインパクト
平成24年度に、乳幼児破局てんかんに関する国際シンポジウムを国際てんかん学会の支援の基に主任研究者が開催することが予定されている。

発表件数

原著論文(和文)
9件
原著論文(英文等)
30件
その他論文(和文)
49件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
51件
学会発表(国際学会等)
25件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
ガイドライン作成:3件
その他成果(普及・啓発活動)
11件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ishii A, Zhang B, Kaneko S, Hirose S
Positive association between benign familial infantile convulsions and LGI4
Brain Dev  (2009)
原著論文2
Kurahashi H, Wang JW, Ishii A, et al.
Deletions involving both KCNQ2 and CHRNA4 present with benign familial neonatal convulsions
Neurology , 73 (15) , 1214-1217  (2009)
原著論文3
Shi X, Yasumoto S, Nakagawa E, et al.
Missense mutation of the sodium channel gene SCN2A causes Dravet syndrome
Brain Dev , 31 (10) , 758-762  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-