高グリシン血症の患者数把握と治療法開発に関する研究

文献情報

文献番号
200936203A
報告書区分
総括
研究課題名
高グリシン血症の患者数把握と治療法開発に関する研究
課題番号
H21-難治・一般-148
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
呉 繁夫(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 大浦敏博(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 山口清次(島根大学 小児科)
  • 遠藤文夫(熊本大学 小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高グリシン血症は、筋緊張低下、無呼吸、けいれん、などの重篤な中枢神経症状を特徴とする小児の神経難病で、「グリシン脳症」とも呼ばれる。本症はグリシン開裂酵素(GCS)の遺伝的欠損により生じ、グリシンが体液中に蓄積する先天性アミノ酸代謝異常症のひとつである。本症は主に新生児期に発症し、水頭症、脳梁欠損、小脳低形成などの脳形成異常を高率に合併する。有効な治療法は未確立で、生命予後は悪い。申請者らは、本症の原因遺伝子の同定・発現・構造・高頻度変異を明らかにしてきた。現在、未解決の問題は、1) 発症率、治療内容、予後などの実態が不明。2) 有効な治療法が未確立、であり、今回の研究ではこの2問題にアプローチした。
研究方法
1)独自に開発した非侵襲的な検査法である、13Cグリシン呼気試験や遺伝子検査を取り入れた新しい診断基準を作成した。2)タンデムマス試験による新生児スクリーニングの際に得られる血中グリシン濃度を多数分析し、その分布を解析した。3)治療法開発の目的でGCS活性を全く欠くノックアウト・マウスを作製し、その表現型を解析する。その表現型の改善を指標に、薬剤投与による治療実験を行い、本症治療に有効な薬剤を同定する。
結果と考察
タンデムマス試験時に、新生児約6万4千人分の血中グリシン濃度を解析し、血中グリシン濃度が非常に高い1症例(+11SD)を見出した。新しく作成した診断基準は、血中グリシン濃度の高い症例の診断確定に有用と考えられる。また、GCS活性を欠くノックアウト・マウスの解析の結果、脳梁欠損、水頭症、脱脳症のような神経管欠損症(NTD)など、種々の脳形成異常がマウスの系統に依存性に発生した。GCSは葉酸代謝に関与するため、妊娠マウスに葉酸やその代謝物の投与実験を行った。その結果、メチオニンを投与すると脳形成異常の発生が有意に低下していた。
結論
高グリシン血症は、新生児期や乳児期早期において急速に昏睡に至るため、新生児・乳児の突然死の原因となっている可能性がある今後の追跡調査により、新生児・乳児の突然死の原因として本症がどの程度の関与があるかを明らかにする意義は大きい。GCSは、正常な脳形成に重要な役割を果たしている事が明らかになった。メチオニンよる新治療の有用性が臨床試験で確認され、将来の新しい治療の可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2010-05-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936203C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1)タンデムマス試験による新生児スクリーニングにおける血中グリシン濃度の多数取得し、その濃度分布を明らかにした。2)遺伝子ノックアウト法により疾患モデルマウスの作成を行い、その表現型の解析を行った。その結果、ヒト高グリシン血症患児に似た脳形成異常を持つことが明らかになり、本症のモデル動物としての有用性が示された。3)薬剤投与実験から本症に伴う脳形成以上の背景には、葉酸代謝障害が存在する事が示唆された。
臨床的観点からの成果
最近、私どもは、非侵襲的な検査法である、13Cグリシン呼気試験を開発し、遺伝子検査の基盤となる変異スペクトラムを明らかにした。今回、13Cグリシン呼気試験と遺伝子検査を取り入れた診断指針を作成し、高グリシン血症の診断を容易にした。また、新生児の血中グリシン濃度を多数取得し、その濃度分布を解析することで、患者スクリーニングの基礎データを収集した。更に、疾患モデルマウスを作成し、有効な治療薬を検索するするシステムを確立した。
ガイドライン等の開発
本症の確定診断には、従来肝生検による酵素診断などの侵襲的な検査を必要としていた。今回新たに作成した診断基準では、非侵襲的な検査法である、13Cグリシン呼気試験や遺伝子検査を取り入れた。13Cグリシン呼気試験は、安定同位体13Cを含むグリシンを基質として生体内でグリシン開裂反応を実施するもので、簡便かつ迅速な本症の酵素診断が可能になる。また、遺伝子検査において、通常のエクソン・シークエンス法では見出せない大きな欠失変異が高頻度に存在することを明らかにし、効率的な診断確定を可能にした。
その他行政的観点からの成果
高グリシン血症は、新生児期に突然死する可能性があり、従来の受診歴を基にした調査では、患者実数の把握は困難である。今回の研究は、タンデムマス試験による新生児スクリーニング時に血中グリシン濃度を検索することで、本症患児の実数把握を試みている。新生児突然死における本症の関与の有無を明らかに出来る可能性がある。また、現在有効な治療法が確立していないが、モデルマウスを用いた有効な治療の評価システムの確立は、有効な治療法の開発に向けての第一歩となる。
その他のインパクト
本症の生命予後、発達予後はともに非常に悪い。現在、治療として脳内のグルタミン酸受容体のひとつである、NMDA受容体に対するアンタゴニストが治療に用いられている。その一つとしてデキストロメトロファンがよく用いられている。デキストロメトロファンは、短期予後を改善する事が多いが、長期予後の改善は不明のままである。今回の研究で、モデルマウスの作成に成功し、治療法の評価システムが確立した。この評価系の確立は、有効な治療法の確立への第一歩と期待される。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
2件
高グリシン血症の発症機序に関する総説と研究代表者らが開発した効率的な遺伝子検査に関する総説各1編
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
1件
「代謝性神経病におけるけいれん」に関する国際シンポジウム(2010年3月26-28日、台北)にて招待講演
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kobayashi T, Aoki Y, Niihori T, et al.
Molecular and clinical analysis of RAF1 in Noonan syndrome and related disorders: Dephosphorylation of srine 259as the essential mechanism for mutant activation
Hum Mutat , 31 (3) , 284-294  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
2016-06-20