中條ー西村症候群の疾患概念の確立と病態解明へのアプローチ

文献情報

文献番号
200936179A
報告書区分
総括
研究課題名
中條ー西村症候群の疾患概念の確立と病態解明へのアプローチ
課題番号
H21-難治・一般-124
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
古川 福実(和歌山県立医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 金澤 伸雄(和歌山県立医科大学 医学部 )
  • 井田 弘明(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科)
  • 吉浦 孝一郎(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 中條-西村症候群(ORPHA 2615, MIM 256040)は、乳幼児期に凍瘡様皮疹で発症し,弛張熱や結節性紅斑様皮疹を伴い、次第に顔面・上肢を中心とした上半身のやせと拘縮を伴う長く節くれ立った指趾が明らかになる、非常に稀で特異な遺伝性炎症・消耗性疾患である。常染色体劣性遺伝形式と考えられ、また本邦特有とされ東北・関東と泉南から和歌山を中心とする関西地方に偏在するが、疫学調査が行われたことはなく、実際の発症頻度や発症地域特異性などは明らかではない。
 本研究班は、症例の蓄積があり臨床疫学的アプローチを担当する和歌山県立医科大学皮膚科学教室を中心に、細胞生物学的アプローチを担当する長崎大学病態解析学教室、分子遺伝子学的アプローチを担当する同大学人類遺伝学教室により組織され、本疾患の病態解明と特異的治療法の開発を目標とする。
研究方法
 (1)患者と家族の末梢血でのmRNA発現の差についてアレイを用いて網羅的に検討し、カテゴリー解析、バイオインフォマティクス解析を加えた。また患者の凍瘡様皮疹の生検組織について免疫組織学的検討を行った。(2)患者3名の全ゲノムSNP(一塩基多型)タイピング、さらにホモ接合マッピングを行い、原因候補遺伝子領域を同定し、各候補遺伝子について全エキソンをPCRにて増幅し直接シークエンスすることにより変異検索を行った。(3)初代西村教授以来、和歌山県立医科大学皮膚科で診察した11患者の臨床的特徴のまとめをもとに作成した診断基準案を用いて、全国の大学病院と一般大病院の関係各科を対象に過去5年間の有病率調査を行った。既報告例についても追跡調査を行った。
結果と考察
 本年度の研究の結果、(1)ジーンチップアレイ解析により患者末梢血において慢性炎症に関わる自然免疫系遺伝子群の発現増強を認め、免疫組織染色により病変部皮膚に浸潤するCD68陽性細胞内にユビキチンの蓄積を認めた、(2)患者ゲノムのホモ接合部マッピングにより、患者特異的な遺伝子Xのホモ変異が同定された、 (3)全国の大学病院と大病院を対象に行った疫学調査では新規患者を見出さなかったが、対象外の和歌山市中病院において遺伝子Xのホモ変異を伴う新規幼児例が見つかった、などいくつかの重要な発見があった。
結論
 断片的ではあるが、中條-西村症候群の遺伝子変異から分子・細胞機能の異常を経て症状・疾患の発現に至る経路の一部が明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2010-05-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936179C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 患者末梢血由来mRNAのジーンチップアレイ解析において、自然免疫による慢性炎症に関係する遺伝子群の発現増強が認められ、中條―西村症候群の本態が慢性炎症であることが裏付けられた。さらに患者病変部皮膚組織においてCD68陽性浸潤細胞内にユビキチンの蓄積を認めたことから、蛋白浄化作用を持つユビキチン・プロテアソーム系の異常が本疾患と関連する可能性が示唆された。一方、患者ゲノムのホモ接合部マッピングにより、患者特異的に遺伝子Xのホモ変異が同定され、変異分子の生化学的・機能的解析が進行中である。
臨床的観点からの成果
 全国疫学調査の結果、予想以上に限られた症例しか存在しないことが判明したが、本疾患の存在を全国に周知するという意味で大変有意義であった。一方、調査に含まれなかった和歌山の施設から遺伝子X変異を持ち診断基準を満たす新たな幼児例が見出され、特に患者集積地域においては今後も新規症例の出現がありうることが証明された。同時に、症状が出そろわず診断基準を満たさない乳幼児期の診断は非常に困難であり、むしろ遺伝子診断が決め手になる可能性が示唆された。
ガイドライン等の開発
 和歌山県立医科大学皮膚科にて診察した中條―西村症候群患者11例のまとめをもとに患者に共通する8症状(血族婚・家族内発症、手足の凍瘡様紫紅色斑、繰り返す弛張熱、出没する浸潤性・硬結性紅斑、進行する限局性脂肪筋肉萎縮・やせ、手足の長く節くれ立った指・関節拘縮、肝脾腫、大脳基底核石灰化)を選び、そのうち5つ以上を呈し他疾患を除外できるものを確定例、2つ以上を呈するものを疑い例とする診断基準案を作成した。
その他行政的観点からの成果
 特記事項無し
その他のインパクト
 新たな自己炎症疾患としての中條ー西村症候群の紹介、症例のまとめを、2009年4月の第106回日本内科学会、第53回日本リウマチ学会、7月の第9回国際炎症学会、第33回日本小児皮膚科学会(副会頭賞)、第2回自己炎症疾患研究会、9月の第73回日本皮膚科学会東部支部総会(会長賞)、12月の第34回日本研究皮膚科学会、2010年2月の第15回京都免疫ワークショップ(奨励賞)などで発表し、各賞を受けるとともに、自己炎症疾患研究会の内容は9月発行のMedical Tribune誌に特集された。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
37件
その他論文(和文)
9件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
84件
学会発表(国際学会等)
20件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
金澤伸雄、古川福実、松中成浩、他
凍瘡様皮疹と限局性脂肪萎縮を伴う自己炎症疾患である家族性日本熱(中條―西村症候群)
日本小児皮膚科学会雑誌 , 29 (1) , 1-6  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-