AAA症候群の実態把握のための奨励研究

文献情報

文献番号
200936176A
報告書区分
総括
研究課題名
AAA症候群の実態把握のための奨励研究
課題番号
H21-難治・一般-121
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
上野 聡(公立大学法人奈良県立医科大学 神経内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 福井 博(公立大学法人奈良県立医科大学 消化器・内分泌内科学)
  • 中島 祥介(公立大学法人奈良県立医科大学 消化器・総合外科学)
  • 嶋 緑倫(公立大学法人奈良県立医科大学 小児科学)
  • 原 嘉昭(公立大学法人奈良県立医科大学 眼科学)
  • 平野 牧人(公立大学法人奈良県立医科大学 神経内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
14,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
AAA(トリプルA)症候群は食道アカラシア、無涙症、副腎皮質機能不全の3徴候に筋萎縮・筋力低下が合併する常染色体劣性の神経内分泌疾患である。原因遺伝子ALADINが同定されているが、原因不明例も多い。本疾患の発症年齢分布は広く、症状が多数の専門領域にわたるため、正確な診断はしばしば困難である。本研究では、疾患を全国的に啓発し、正確な診断に基づく適切な治療・ケアを提供する目的や、基礎研究用のデータ収集のために、関連各科と協力し、全国実態調査を施行した。
研究方法
日本神経学会(735施設)、小児神経学会(230施設)、小児外科学会(92施設)、内分泌学会(303施設)、角膜学会(232施設)の合計1,592の専門医施設に啓発用文書と調査票を送付した。AAA症候群が疑われる例では遺伝子解析を実施した。また、各臨床症状の発症年齢について、これまで世界で報告された症例と合わせて合計40例の統計学的解析を行った。変異ALADINの細胞内局在を、培養HeLa細胞を用いて検討した。また、AAA症候群患者細胞を用いて、ALADIN遺伝子変異に伴う遺伝子発現についても解析した。
結果と考察
新たに2例の遺伝子異常例が同定され、本邦には合計7例の遺伝子異常例が存在することが明らかになった。症例の統計解析により、無涙症、副腎皮質機能不全、運動ニューロン障害について、1アミノ酸置換であるミスセンス変異例では、C端蛋白を欠失するトランケーション変異例よりも発症が有意に遅いことが判明した。培養細胞を用いた研究では、変異ALADIN蛋白の核膜孔への移行度は、臨床症状に一部相関していることが示唆された。患者細胞で遺伝子発現変化を検討した結果、核膜移行蛋白の遺伝子に有意な変化が同定され、病態への関与が示唆された。
結論
本研究成果によって、これまで日本にAAA症候群の報告が少なかったのは、有病率の低いことが主因と考えられた。このように本疾患はまれではあるが、今後も、致死的低血糖回避のために継続した啓発活動と、症状の進行抑制を目指した病態解明研究や治療法開発が必要である。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936176C

成果

専門的・学術的観点からの成果
新たに2例の遺伝子異常例が同定され、本邦では合計7例となった。長期予後に関して、副腎皮質機能不全はステロイド補充療法により生命予後は悪くないが、神経徴候は進行性であった。今回の結果から、本邦において、少数の報告しかなった理由としては、AAA症候群の頻度が少なかったと考えられた。細胞培養研究の結果から、ALADINの遺伝子異常により、蛋白の局在や遺伝子発現プロファイルの変化がみられ、これらは病態解明の端緒になると考えられる。
臨床的観点からの成果
本邦例の臨床症状の特徴は、欧米よりも軽症となる傾向にあり、正確な診断は非常に困難であると考えられる。すなわち、疑わなければ診断は困難であるから、本研究の啓発活動は重要な意味を持つ。また、副腎皮質機能不全に対する治療が行われれば、長期予後はそれほど悪くないことが判明した。こういった情報は、実際に本疾患の診療に携わっている医療者のみならず、未経験の医療者が診断を下すのにも役立つと考えられる。また、本疾患の頻度や予後については、遺伝カウンセリングに必須の情報である。
ガイドライン等の開発
該当せず。
その他行政的観点からの成果
疾患の頻度、長期予後の解明は、介護資源の投入などの点において、その量や質の必要度を予測する上で、重要な情報となった。すなわち、生命予後は悪くなく、神経徴候は進行性であることから、長期にわたり行政的支援環境整備を整える必要がある。しかし、頻度がそれほど多くないので、個々の患者へ十分な資源を投入することが可能であると推定される。
その他のインパクト
患者の中には、当該地域で初めての介助犬使用者となり、全国規模の障害者スポーツ大会において、最優秀の成績を挙げるなど、他の多くの難治性疾患患者を勇気づけ積極的な社会参加への意欲を高めた方が含まれる。本例は積極的な講演活動を介して介助犬の普及に努めている。また、疾患普及に関して、本研究にご協力下さった。本疾患に対する研究支援は、こういった社会活動に対して、側方からの支援となった。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
1件
総説
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Asai H, Hirano M, Kiriyama T, et al.
Naturally- and experimentally-designed restorations of the Parkin gene deficit in autosomal recessive juvenile parkinsonism.
Biochem Biophys Res Commun , 391 , 800-805  (2010)
原著論文2
Asai H, Hirano M, Shimada K, et al.
Protein kinase C gamma, a protein causative for dominant ataxia, negatively regulates nuclear import of recessive-ataxia-related aprataxin.
Hum Mol Genet , 18 , 3533-3543  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-