発作性運動誘発性舞踏アテトーゼ(PKC)の有効治療薬開発のための分子メカニズムの解明

文献情報

文献番号
200936172A
報告書区分
総括
研究課題名
発作性運動誘発性舞踏アテトーゼ(PKC)の有効治療薬開発のための分子メカニズムの解明
課題番号
H21-難治・一般-117
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
黒滝 直弘(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 吉浦 孝一郎(長崎大学大学院人類遺伝学(長崎大学))
  • 要 匡(琉球大学医学部医科遺伝学(琉球大学))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
発作性運動誘発性舞踏アテトーゼ(PKC)とは運動開始時に突然起こり、アテトーゼ不随意運動症状を起こす稀な神経系疾患である。そして、30歳を超えてくると自然治癒されるという本体不明の疾患である。 発作性運動誘発性舞踏アテトーゼ(PKC)の原因となっている遺伝子を特定し、ストレス負荷や運動開始時の一時的な小発作のメカニズムを探ることによって、神経伝達の異常部分が明らかとなり現在の抗てんかん薬(カルマバゼピン)治療よりも、その遺伝子情報に基づくより効果的な薬物の選択治療の確立を目指す。
研究方法
1)一般臨床医における認知度、診断既往、あるいは診断経験を調べ、新たな孤発症例の発掘につながるような全国一斉アンケート調査、2)これまで特定された16番染色体の遺伝子座において原因遺伝子を特定し機能解析を行い新規治療薬の選択もしくは製造にかかわる治験をえるための遺伝学方法、3)遺伝子の変異解析を効率よく行うための方法論の開発(染色体ソーティングと次世代超高速シーケンサー)及び機能解析に直結するiPS細胞系の樹立、以上3面からの研究を行った。
結果と考察
全国の神経内科医(4650名)および小児神経医(1002名)から回答を得られたのは2484名(2484/5652)で、全体の43.9%であった。その中で認知度は高いが実際の診断及び治療経験は多くないことが示唆された。原因遺伝子については既知遺伝子座16p11.2-q12.2にある72個の遺伝子やゲノム変化の検索をPCR-直接シーケンス法、DNAマイクロアレイによって行ったが疾患と直接関係のある変異は見つかっていない。一方、効率の良い変異検索の方法として 第16番染色体の候補領域抽出について、染色体ソーティングによる分離抽出、long-PCR法による増幅抽出を行い、実験系が良好に作動することを確認した。患者リンパ芽球からのiPS細胞系の樹立はまだ成功していない。



結論
よりよい医療を推進し患者の不安を適切に取り除くために、全国レベルでの診療ネットワークの構築が急務であると考えた。根本的治療の可能性となろう原因遺伝子の検索では、遺伝子のエキソンにしぼったPCR-直接シーケンス法では限界があることが示唆された。
方法論としての染色体ソーティングやLong-PCR法と次世代シーケンサー(SOLiD3)
の組み合わせは効率よく稼働することが判明した。
今後はこれらの技術を使い新たに集積した検体の解析を行うとともに、病態解析へ向け患児の細胞よりiPS細胞の樹立に向けた条件の見当が必要である。

公開日・更新日

公開日
2010-05-25
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936172C

成果

専門的・学術的観点からの成果
PKCの直接の原因を突き止め根本治療を可能にする薬物療法につながるような原因遺伝子の同定には至らなかった。しかしながら単一遺伝子病として変異の可能性を考えた場合、単にエキソン領域のアミノ酸置換ではなく、ゲノム異常、イントロン部位あるいはスペーサー部位に存在するmiRNAの変化や,限られた範囲の欠失・重複,あるいは遺伝子変換などの特殊変異とを含んだ新規の遺伝子変異が原因である可能性が示唆された。
臨床的観点からの成果
調査の結果、PKCは神経内科専門医、小児神経科医両者で診断されていた。各々の臨床医が診察する患者数が異なるため、単純な比較はできないが、対象とした5652人の臨床医において全体の43.9%に相当する2484人から回答を得た。その中で2172人(87.4%)がPKCについて認知しており、実際に診断の経験者は893人であった。解離性障害と一旦は診断されたものの後にPKCと確定された経験を43名の臨床医が有していた。今後は各々の症例の詳細を把握し転帰を含めた治療予後を詳しく追跡することが必要であろう。
ガイドライン等の開発
本研究では既知のガイドラインに優るガイドラインの作成は目的としていないため、特記事項はない。
その他行政的観点からの成果
アンケート調査を行うことでPKCを診断する機会の多い臨床医の先生方に今一度、PKCの周知が図られたと考える。また、長崎大学大学院精神神経科のホームページにPKCのホームページをリンクしたことで、数名の当事者から直接問い合わせがあり、うち2名は実際に研究代表者が診察を行うなど、国民の一部ではあろうが、周知されたと考える。

その他のインパクト
研究期間が短く、臨床医とのネットワーク形成の必要性を重々認識しながらも実施できなかったことは反省点である。今後、各都道府県において本疾患を診察できる医療機関を抽出し、広く国民に周知することが重要である。一方、分子遺伝学的には従来の単一遺伝子病とは異なる遺伝子変異の可能性が示唆されていて今後の研究の進展が期待できる。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
25件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nishihara K, Kinoshita H, Kurotaki N, et al
Could subclinical hypothyroidism cause periodic catatonia with delusional misidentification syndrome? Psychiatry Clin. Neurosci.,
In Press  (2010)
原著論文2
Wu L,Liang D,Niikawa N, et al
A ZRS duplication causes syndactyly type IV with tibial hypoplasia.
Am J Med Genet A. , 149 , 816-818  (2009)
原著論文3
Kuniba H, Pooh RK, Sasaki K, et al
Prenatal diagnosis of Costello syndrome using 3D ultrasonography amniocentesis confirmation of the rare HRAS mutation G12D.
Am J Med Genet A. , 149 , 785-  (2009)
原著論文4
Miyazaki K, Mapendano CK, Fuchigami T,et al
methylation in the mouse Snurf/Snrpn gene.
Gene , 432 , 97-101  (2009)
原著論文5
K Hamanoue H, Megarbane A, Tohma T,et al
A locus for ophthalmo-acromelic syndrome mapped to 10p11.23.
Am J Med Genet A , 149 , 336-342  (2009)
原著論文6
Kuniba H, Yoshiura K, Kondoh T, et al
Molecular karyotyping in 17 patients and mutation screening in 41 patients with Kabuki syndrome.
J Hum Genet. , 54 , 304-309  (2009)
原著論文7
Toyoda Y, Sakurai A, Mitani Y, et al
Earwax, osmidrosis, and breast cancer: why does one SNP (538G>A) in the human ABC transporter ABCC11 gene determine earwax type?
FASEB J. , 23 , 2001-2013  (2009)
原著論文8
Nakano M, Miwa N, Hirano A, et al
A strong association of axillary osmidrosis with the wet earwax type determined by genotyping of the ABCC11 gene.
BMC Genet. , 10 , 42-43  (2009)
原著論文9
Machida J, Félix TM, Murray JC, et al
Searching for genes for cleft lip and/or palate based on breakpoint analysis of a balanced translocation t(9;17)(q32;q12)
Cleft Palate Craniofac J. , 46 , 532-540  (2009)
原著論文10
The Super Science High School Consortium.
Japanese map of the earwax gene frequency: a nationwide collaborative study by Super Science High
J Hum Genet. , 54 , 499-503  (2009)
原著論文11
Kimani JW, Yoshiura K, Shi M, et al
Search for Genomic Alterations in Monozygotic Twins Discordant for Cleft Lip and/or Palate.
Twin Res Hum Genet. , 12 , 462-468  (2009)
原著論文12
Saitsu H,Kurosawa K, Kawara H,et al
Characterization of the complex 7q21.3 rearrangement in a patient with bilateral split Foot malformation and hearing loss
Am J Med Genet. , 149 , 1224-1230  (2009)
原著論文13
Pierron,S Richelme C, Triolo V,et al
Evolution of a patient with Bohring-Opitz Syndrome
Am J Med Genet. , 149 , 1754-1757  (2009)
原著論文14
要 匡
ゆるやかなゲノムの話 知の津梁 やわらかい南の学 と思想
沖縄タイムス出版 , 3 , 340-351  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-