ゲノム刷り込み疾患Beckwith-Wiedemann症候群の全国調査と遺伝子解析に基づく診断基準の作成

文献情報

文献番号
200936170A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム刷り込み疾患Beckwith-Wiedemann症候群の全国調査と遺伝子解析に基づく診断基準の作成
課題番号
H21-難治・一般-115
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
副島 英伸(佐賀大学 医学部 分子生命科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 秦 健一郎(国立成育医療センタ ー研究所)
  • 吉浦 孝一郎(長崎大学大学院医歯 薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
過成長、巨舌、臍ヘルニアを三主徴とするゲノム刷り込み関連疾患Beckwith-Wiedemann症候群(BWS)の患者の実態把握と診断基準作成のため、全国調査と遺伝子解析を行った。
研究方法
本研究は、佐賀大学医学部倫理委員会および遺伝子・ゲノム解析倫理委員会の承認を受けて実施した。
全国調査の一次調査として、小児関連診療科を持つ全国の大学病院、国公立病院、主要民間病院621機関にBWS患者の診療の有無について書面で問い合わせた。二次調査では、一次調査で「BWS患者有り」と回答のあった76機関に対して、臨床情報に関する調査を行った。計76例に対して既知のエピゲノム・ゲノム変異を解析した。加えて、ヒトゲノム中23ヶ所の「メチル化可変領域(DMR)」のメチル化をBio-COBRA法で、全ゲノムのメチル化をIllumina社Human Methylation 27 BeadChipで解析した。Affymetrix社SNP Arrayを用いてゲノム構造解析も行った。
結果と考察
主要医療機関において218例が診療中であることがわかった。143例の臨床像から、代表的な腫瘍といわれているウィルムス腫瘍は少なく、肝原発腫瘍が多いことが明らかとなった。生殖補助医療で出生したBWSの頻度は4.2%と高かった。既知のエピゲノム・ゲノム変異の各タイプの頻度と腫瘍合併頻度を明らかにした。Bio-COBRA法は、他の刷り込み異常疾患を除外するために有用であることがわかった。以上の結果から、診断基準(案)を作成した。全ゲノムメチル化解析から、BWS患児では正常コントロールに比べ数百カ所でメチル化が異なることがわかった。SNPアレイ解析ではBWSの原因となるような共通する構造異常は認められなかったが、UPD領域を同定することが可能であること、多検体の解析によりUPD領域の同定と臨床症状との関連を解析できることが示唆された。
結論
BWSに関する全国調査を行い、主要医療機関で診療中の患者概数とその臨床情報を得た。既知のエピゲノム・ゲノム変異の解析結果とあわせて診断基準(案)を作成した。また、ゲノムワイドな解析から、本症の発病機構解明の手がかりとなると思われる知見が得られた。

公開日・更新日

公開日
2010-06-07
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936170C

成果

専門的・学術的観点からの成果
我が国は刷り込み機構の基礎的研究をリードしてきたが、患者解析を行う臨床的研究は欧米が中心であった。BWSの発症に関わるゲノム刷り込み異常(エピゲノム・ゲノム変異)は複数知られているが、比較的多数の本邦症例を解析して各異常の頻度を明らかにすることができた。また、全ゲノムを対象としたメチル化解析およびゲノム構造解析、発病機構解明の手がかりとなると思われるいくつかの知見を得ることができた。
臨床的観点からの成果
全国的調査により患者概数および臨床情報を得ることができた。腫瘍の合併頻度が従来よりやや高いこと、肝原発腫瘍が6割を占めることが判った。特に、upd(11)pat症例での腫瘍合併率が高かった。三主徴(巨舌、腹壁欠損、過成長)に加え、主要随伴症状(耳の奇形、腹腔内臓器腫大、新生児期低血糖、片側肥大、火焔状母斑)とその頻度が判明した。さらに、既知のエピゲノム・ゲノム変異について解析した結果から、臨床症状と遺伝子解析に基づく診断基準を考慮する上で重要な知見が得られた。
ガイドライン等の開発
患者の臨床情報とエピゲノム・ゲノム解析から、遺伝子解析に基づく診断基準(案)を作製した。スペースの関係上、概略を以下に示す。代表的な8つの臨床症状のうち3つ以上を認め、かつ遺伝子解析で4タイプある遺伝子異常のうちいずれか1つを認める場合に確定診断とする。遺伝子解析で以上を認めない場合は、3つ以上の臨床症状を認めれば臨床診断とする。
その他行政的観点からの成果
ゲノム・エピゲノム解析(遺伝子解析)に基づく診断法と診断基準が確定すれば、腫瘍発生のリスク判定ができるようになる。その他の症状についても適切な時期に適切な医療を提供するための基盤となる。また、BWSを含む刷り込み関連疾患は、生殖補助医療(ART)を受けた妊娠で高頻度にみられることから、ゲノム刷り込み機構の解明はARTにおける疾患発症予防法を確立するための基盤となる。これは少子高齢化社会における医療政策に貢献できると考える。
その他のインパクト
BWSはゲノム刷り込みの異常により発症する。我が国は刷り込み機構の基礎的研究をリードしてきたが、患者解析を行う臨床的研究は欧米が中心であった。本研究はBWSに関する初めての全国的調査であり、主要医療機関で診療中の患者概数および臨床情報を得られたこと、さらに既知のエピゲノム・ゲノム変異について多症例の解析結果を得られたことの意義は非常に大きい。これらの情報から、本邦BWSの特徴が浮かび上がった。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
2016-06-20