Wolfram症候群の実態把握および診断法確立のための調査研究

文献情報

文献番号
200936163A
報告書区分
総括
研究課題名
Wolfram症候群の実態把握および診断法確立のための調査研究
課題番号
H21-難治・一般-108
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
谷澤 幸生(山口大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 岡 芳知(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 山田 祐一郎(秋田大学 大学院医学系研究科)
  • 和田 安彦(高知女子大学 健康栄養学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Wolfram症候群(WFS)は糖尿病(DM)、視神経萎縮(OA)、尿崩症(DI)、難聴(D)、尿路異常、多彩な神経・精神症状を合併する進行性の遺伝性難病で、治療法は確立されていない。原因遺伝子WFS1の同定により遺伝子診断が可能となったが、WFS1遺伝子変異によらないWFSも存在し、多様性をもつ。英国では770,000人に1人と推計されているが日本での実態は全く不明である。
今回の研究では、日本での発症率・有病率、発症年齢、症候と治療の実態、経過、予後を明らかにする。これをもとに診療指針を作製し、適切な診断と治療の方法を提案する。
研究方法
糖尿病・内分泌専門医5,632名に対して1次アンケート調査によりWFS診断のminimal criteriaとされるDM + OAの合併例経験の有無、その患者の随伴症候について質問した。OA以外のWFSを特徴付ける他の症候とDMの合併例は「疑い例」とした。並行して、WFSの患者、家族に対して直接訪問による聞き取り調査を行った。また、WFS1遺伝子の解析により遺伝子診断を行い、WFSの疾患多様性について検討した。
結果と考察
 1,578名から回答を得、92人のDMとOA合併例が報告された。うち、46症例が他の主要徴候を合併し、その頻度は、DI 76%、D 85%、尿路異常57%、神経・精神症状65%であった。4徴候すべて揃っている症例が41%、2つ以上有する症例が82%であった。DMとOAの合併6症例が集計された。
 WFS1遺伝子検査は17例(家系)に行なっている。10例(59%)に変異が同定された。WFS1遺伝子変異の有無と臨床像の関係は今後詳細に検討して行く。
 本邦でもWFSは希少である。人口比で英国とほぼ同程度と推定した。各症候の頻度は、欧米に比べDの発現頻度が高い傾向にあった以外は同等であった。
 若年(15歳未満)発症DMとOAの合併を最低の診断基準とする英国の報告では、患者の90%にWFS1遺伝子の変異が同定されている。日本ではWFの成因はより多様であると推測される。
 患者からの聞き取り調査ではWFSがまれな疾患であるため、認知度が低く、診断の遅れやその後のケアに問題があることが明らかとなった。疾患についての啓発も必要である。
結論
日本でもWFSはまれである。疾患の原因も多様である。さらに詳細な調査が必要であるとともに、診断・診療指針を提案して疾患の認知を高める必要がある。

公開日・更新日

公開日
2010-05-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936163C

成果

専門的・学術的観点からの成果
Wolfram症候群(WFS)は糖尿病、視神経萎縮、尿崩症、難聴、神経・精神症状などを合併する遺伝性難病で、治療法は確立されていない。原因遺伝子WFS1の同定により遺伝子診断が可能となった。しかしながら発症メカニズムは十分解明されておらず、治療法もない。WFS1蛋白は膵β細胞の小胞体に存在し、小胞体ストレス応答に関与することを明らかにしてきた。さらに、インスリン分泌顆粒にも存在することを発見し、その役割について解析中である。
臨床的観点からの成果
Wolfram症候群の頻度は英国では770,000人に1人と推計されているが日本での実態は全く不明であった。今回の調査により、始めて日本での実態が明らかになりつつある。1次調査の結果では、視神経萎縮と糖尿病をminimumの診断基準とすると、日本での頻度は英国とほぼ同じであり、尿崩症、難聴、尿路異常など他の症候の出現頻度も英国と類似している。ただし、病因としてはWFS1遺伝子の変異が9割を占める英国より多様である。
ガイドライン等の開発
若年発症糖尿病と視神経萎縮の合併をminimal criteriaとする診断基準が一般である。15歳年齢未満を加えると診断精度が上がると英国から報告されている。この集団では90%がWFS1遺伝子変異による。日本のWFSはよりheterogeneousであると推測されるので、遺伝子診断と症候を組み合わせて妥当性をさらに確認する。また、WFSはまれな疾患であるだけに認知度が低く、診断が遅れる実態が明らかになった。徴候出現の実態や重症度などをより詳細に調査し、適切なケアのための診療指針を策定してゆく。
その他行政的観点からの成果
患者・家族からの聞き取り調査ではWFSがまれな疾患であるため、認知度が低く、診断の遅れやその後のケアに問題があることが明らかとなった。患者は失明や神経徴候により自立した生活が困難になることも多い。診療指針を整備して疾患についての啓発が必要である。また、患者の生活実態をより詳細に調査し、患者支援のために必要な行政制度の整備を提案したい。
その他のインパクト
まれな難治性疾患の克服には国際協力もまた重要である。我がグループは、WFSの成因解明のための基礎研究で世界をリードしてきたが、さらにこの疾患の克服のために日、米、欧で共同研究を実施するコンソーシアムが形成された。2009年10月にパリで第1回の国際ワークショップを開催した。本研究班は、このコンソーシアムの中核メンバーとなっている。

発表件数

原著論文(和文)
18件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
43件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
新聞等への掲載

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
2016-07-19