文献情報
文献番号
202326026A
報告書区分
総括
研究課題名
健康危機管理センターと多分野連携体制の推進のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22LA2004
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
久保 達彦(広島大学大学院医系科学研究科 公衆衛生学)
研究分担者(所属機関)
- 小井土 雄一(独立行政法人国立病院機構本部 DMAT事務局)
- 齋藤 智也(国立感染症研究所 感染症危機管理研究センター)
- 冨尾 淳(国立保健医療科学院 健康危機管理研究部)
- 立石 清一郎(産業医科大学 産業生態科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
9,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
2018年に実施された世界保健機関による国際保健規則(IHR)合同外部評価では、公衆衛生緊急オペレーションセンター(HEOC: Health Emergency Operations Center)の欠如が指摘された。本研究では、国内外の特に医療・公衆衛生領域における先行事例を検討し、IHR等の国際的動向を分析しつつ、我が国の既存の健康危機管理体制に適合するHEOCの体制の検討することを目的として関係調査を推進した。
研究方法
本邦の既存の災害・健康危機管理体制に適応しやすいHEOCモデルの研究開発のために、我が国の既存の健康危機管理体制に基づくHEOCモデルの検討、DMATが国内外で蓄積してきた知見を我が国におけるHEOC の制度設計に組み込む研究、HEOC構築に求められる要素の検討、感染症対応におけるEOC運用に関する研究、災害対応者の健康管理に係る知見をHEOCの制度設計に組み込む研究を行った。
結果と考察
日本型HEOCモデル検討の前提となる現状分析において課題としては下記がある。
・総括的枠組みとして「厚生労働省健康危機管理基本指針」が策定され、分野別/組織別の実施要領、また厚生労働省防災業務計画が策定されている。
・分野ハザード別計画の弱点は、頻度が少ない分野での経験不足、実動部隊の確保維持困難、実効性担保困難等にある。一方で、関係指針や計画は法令にも紐づき各担当部局で管理されており、それらの統合は現実的ではない。
・国レベルでの体制として健康危機管理調整会議が存在するが、WHOフレームワークで設置が推奨されている運営委員会Staring Committee(具体的運営や計画を遂行)に当たる組織体が存在しない。
・関係指針/計画等文書には、実動時に重要となり、また諸外国においても重視されているIncident Command Systemに準じたオペレーション体制/指揮系統図が掲載されていない。
・関係計画は緊急対応にフォーカスした事後対応型となっており、リスクアセスメント等の事前対応との接合が限定的である。
・一方、地方自治体では、地域保健法基本指針によりオールハザードの健康危機対応が行われている。また平時からの支援関係者のネットワーク構築と、同ネットワークを活用した有事本部体制構築が進んでいる。
これらの課題を克服するための日本型HEOCモデルの要点は、以下のとおりである。
健康危機管理オールハザード対応は、関係計画の統合ではなく、運営体制の強化により実現する。具体的には、厚生労働省 健康危機管理調整会議の傘下に、健康危機に関係する計画で規定された関係機関等(例:DMAT事務局、DPAT事務局、DHEAT事務局、国立感染症研究所感染症危機管理センター)の危機対応実務を取り仕切る代表者らが参画する運営委員会(仮称)を設置することは現実策となる。同委員会では、平時からの関係組織間での“顔の見える関係”と “共通言語”の構築を行う。“共通言語”は、健康危機管理に係る教育研修資料の基礎的部分(例:CSCA)の共有、標準化により実現する。これにより健康危機管理に関係する関係組織間の情報共有と円滑な調整を実現していく。
健康危機発生時に国本部が果たすべき役割は、都道府県による対応の支援(都道府県ができないことを支援)と、政治的リーダーシップへの報告機能の強化にある。上記運営委員会メンバー組織は、有事には必要に応じて厚生労働省が設置する対策本部に参加し、地域で活動している自組織チームからの情報を共有するとともに(国本部の情報収集機能強化に貢献)、国レベルでの支援調整に参加し(円滑な調整に貢献)、本部業務のサージに対応する人員としても活動する(本部機能の向上及び過重労働対策)。運営委員会を中核とした組織体を機能的に拡大し、厚生労働省災害等危機管理対策室等のガバナンスのもとに運営される体制を構築することが、日本版HEOCの姿として妥当である。日本版HEOCの有事機能イメージは、都道府県保健医療福祉調整本部の国版となる。今後充足すべき技術的課題として、分野ハザード別に策定されている計画等で規定された関係本部において、広く参照可能な、ジェネリックな本部運用指針、及びその訓練手法の開発が必要となる。
・総括的枠組みとして「厚生労働省健康危機管理基本指針」が策定され、分野別/組織別の実施要領、また厚生労働省防災業務計画が策定されている。
・分野ハザード別計画の弱点は、頻度が少ない分野での経験不足、実動部隊の確保維持困難、実効性担保困難等にある。一方で、関係指針や計画は法令にも紐づき各担当部局で管理されており、それらの統合は現実的ではない。
・国レベルでの体制として健康危機管理調整会議が存在するが、WHOフレームワークで設置が推奨されている運営委員会Staring Committee(具体的運営や計画を遂行)に当たる組織体が存在しない。
・関係指針/計画等文書には、実動時に重要となり、また諸外国においても重視されているIncident Command Systemに準じたオペレーション体制/指揮系統図が掲載されていない。
・関係計画は緊急対応にフォーカスした事後対応型となっており、リスクアセスメント等の事前対応との接合が限定的である。
・一方、地方自治体では、地域保健法基本指針によりオールハザードの健康危機対応が行われている。また平時からの支援関係者のネットワーク構築と、同ネットワークを活用した有事本部体制構築が進んでいる。
これらの課題を克服するための日本型HEOCモデルの要点は、以下のとおりである。
健康危機管理オールハザード対応は、関係計画の統合ではなく、運営体制の強化により実現する。具体的には、厚生労働省 健康危機管理調整会議の傘下に、健康危機に関係する計画で規定された関係機関等(例:DMAT事務局、DPAT事務局、DHEAT事務局、国立感染症研究所感染症危機管理センター)の危機対応実務を取り仕切る代表者らが参画する運営委員会(仮称)を設置することは現実策となる。同委員会では、平時からの関係組織間での“顔の見える関係”と “共通言語”の構築を行う。“共通言語”は、健康危機管理に係る教育研修資料の基礎的部分(例:CSCA)の共有、標準化により実現する。これにより健康危機管理に関係する関係組織間の情報共有と円滑な調整を実現していく。
健康危機発生時に国本部が果たすべき役割は、都道府県による対応の支援(都道府県ができないことを支援)と、政治的リーダーシップへの報告機能の強化にある。上記運営委員会メンバー組織は、有事には必要に応じて厚生労働省が設置する対策本部に参加し、地域で活動している自組織チームからの情報を共有するとともに(国本部の情報収集機能強化に貢献)、国レベルでの支援調整に参加し(円滑な調整に貢献)、本部業務のサージに対応する人員としても活動する(本部機能の向上及び過重労働対策)。運営委員会を中核とした組織体を機能的に拡大し、厚生労働省災害等危機管理対策室等のガバナンスのもとに運営される体制を構築することが、日本版HEOCの姿として妥当である。日本版HEOCの有事機能イメージは、都道府県保健医療福祉調整本部の国版となる。今後充足すべき技術的課題として、分野ハザード別に策定されている計画等で規定された関係本部において、広く参照可能な、ジェネリックな本部運用指針、及びその訓練手法の開発が必要となる。
結論
HEOC機能の実装に向けて、①健康危機管理調整会議傘下への運営委員会(仮称)の設置、②HEOCが有するコア機能の検討(都道府県本部支援、政治的リーダーシップへの情報集約、オールハザード運用の実現)、③健康危機管理調整本部(仮称)のレベル設定、リスク評価方法、施設要件、④健康危機管理に関する専門的な知識を有する人材育成(標準教育資料開発)、⑤支援機関の連携を円滑に行うための実働機関も含めた教育/訓練の実施のあり方について重点的に検討を進める必要がある。
公開日・更新日
公開日
2024-08-29
更新日
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