鰓弓耳腎(BOR)症候群の発症頻度調査と遺伝子診断法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
200936158A
報告書区分
総括
研究課題名
鰓弓耳腎(BOR)症候群の発症頻度調査と遺伝子診断法の確立に関する研究
課題番号
H21-難治・一般-103
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
飯島 一誠(神戸大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 奥山 虎之(国立成育医療センター 臨床検査部)
  • 伊藤 秀一(国立成育医療センター 腎臓科)
  • 松永 達雄((独)国立病院機構東京医療センター臨床研究センター耳鼻咽喉科)
  • 野津 寛大(神戸大学医学部附属病院小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
鰓弓耳腎(Branchio-oto-renal (BOR))症候群は、頸瘻・耳瘻孔・外耳奇形などの鰓原性奇形、難聴、腎尿路奇形を3主徴とする症候群である。BOR症候群の欧米での頻度は4万人に1人とされ、小児高度難聴の2%を占めるとされているが、わが国における頻度は不明である。BOR症候群は常染色体優性遺伝形式をとり、EYA1遺伝子変異が約40%の頻度で認められるが、直接シークエンス法で検出できる
EYA1変異は60-70%にとどまる。また、半数以上の症例では原因遺伝子は依然として不明である。
本研究では、①わが国におけるBOR症候群の患者数を把握、②簡便で変異検出頻度の高いEYA1遺伝子診断法の開発、③BOR症候群新規原因遺伝子の同定、④BOR症候群診療体制モデルの構築を目的とする。
研究方法
本研究では、我が国におけるBOR症候群の患者数推定のために、全国レベルでのアンケート調査を行った。また、エクソン単位の欠失や重複を簡便に検出できるMultiplex ligation-dependent probe amplification (MLPA)法や末梢血単核球等を用いたmRNAレベルの解析法ををEYA1遺伝子診断に導入した。
結果と考察
全国の1,715施設にアンケート用紙を送付し、820施設 (47.8%)から回答を得た。集計患者の全報告数は102例であったが、診断基準を満たさない症例や調査期間外の最終受診例を除外した85例を対象とし、我が国における患者数(受領者数)を推計したところ、250人(95%信頼区間170-320人)という結果を得た。我々は、これまで21家系26例のBOR症候群及びBOR症候群類似病態のEYA1遺伝子解析を行い、9家系14例の変異を同定した。このうち1例では、Multiplex ligation-dependent probe amplification (MLPA)法を導入することによって直接シークエンス法では検出できないエクソンレベルの欠失を検出することに成功しており、簡便で変異検出頻度の高いEYA1遺伝子診断法の開発に成功した。
結論
我が国における患者数(受領者数)を推計したところ、250人(95%信頼区間170-320人)という結果を得た。(MLPA)法やmRNAレベルの解析法を導入することによって、簡便で変異検出頻度の高いEYA1遺伝子診断法の開発に成功した。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936158C

成果

専門的・学術的観点からの成果
BOR症候群は先天性の難聴や小児期腎不全の重要な原因であるが、わが国では、その患者数すら明らかではなかった。本研究において、我が国における患者数が初めて把握できたことの意義は大きい。本症候群は遺伝性疾患であり確定診断には遺伝子診断が必要であるが、これまでの遺伝子診断法では変異検出率は必ずしも高いものではなかった。本研究において、直接シークエンス法に加えてMLPA法を導入し簡便で変異検出頻度の高いEYA1遺伝子診断法が開発された意義は大きい。
臨床的観点からの成果
BOR症候群患者のQOLの改善のためには、早期発見・早期治療が非常に重要である。しかし、我が国の小児科医や耳鼻咽喉科医の大半は、本症候群の存在すら知らない状況であったために、本症候群患者の早期発見・早期治療は困難であった。今回、本研究で、全国の小児科医、耳鼻咽喉科医にアンケート調査を行ったことにより、一般の小児科医や耳鼻咽喉科医の本症候群に対する認識を高め、本症候群の治療上重要な早期発見・早期治療の促進につながったと考えられる。
ガイドライン等の開発
我々は、すでにゲノムワイドCNV解析技術による新規原因遺伝子同定の方法論は確立しており、今後、アンケート調査で把握した患者からDNAを得て、上記のEYA1遺伝子診断法で異常を検出できなかった症例を対象にBOR症候群新規原因遺伝子の同定を進めていく予定である。
その他行政的観点からの成果
今回のアンケート調査で把握できた本症候群患者やその主治医に対する二次調査を行い、心理的な問題も含む診療上の問題点や患者のニーズを明らかにする予定である。その上で、それらの問題点を解決すべく、国立成育医療センターと東京医療センターを中心として、小児科、耳鼻咽喉科、遺伝診療科だけでなく、小児精神科、臨床心理士やケースワーカーなども参加し、家族ともども早期から心理面のサポートも行える診療体制モデルを作る予定である。
その他のインパクト
平成22年3月27日(土)に大阪市立総合医療センターさくらホールで行われた第41回近畿小児腎臓病研究会の教育講演で、本研究班の活動を報告した。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
11件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
26件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Morisada N, Nozu K, Iijima K, et al
Branchio-oto-renal syndrome caused by partial EYA1 deletion due to LINE-1 insertion
Pediatric Nephrology , 25 (7) , 1343-1348  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
2016-06-20