急性大動脈症候群に対する予防治療の指針作成に向けた基礎研究

文献情報

文献番号
200936155A
報告書区分
総括
研究課題名
急性大動脈症候群に対する予防治療の指針作成に向けた基礎研究
課題番号
H21-難治・一般-100
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
宮田 哲郎(東京大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 森田 啓行(東京大学大学院医学系研究科健康医科学創造講座)
  • 重松 宏(東京医科大学外科学第2講座)
  • 師田 哲郎(東京大学大学院医学系研究科・臓器病態)
  • 高本 眞一(三井記念病院)
  • 平田 恭信(東京大学大学院医学系研究科先端臨床医学開発講座)
  • 石坂 信和(東京大学大学院医学系研究科循環器内科学)
  • 今井 靖(東京大学大学院医学系研究科橋渡し研究支援プログラムトランスレーショナルリサーチセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本人の「急性大動脈症候群」発症の臨床像を詳細に記載し、またゲノム解析など基礎研究を併用しカギとなるリスク素因を同定すること、すなわちリスクコントロール・最適治療選択・予防治療開発のための基礎デ―タを得ることを目的に本研究を進めた。
研究方法
【胸部大動脈手術例のリスク分析】
日本成人心臓血管外科手術データベース(JCVSD)に登録された胸部大動脈手術(2004-2008年施行)データ11617例を対象に破裂/解離に関与する術前因子を抽出した。
【腹部大動脈破裂のリスク分析】
腹部大動脈瘤手術症例から、瘤径が65mm以下の破裂群と瘤径が65mm以上の非破裂群を対象にリスク因子を抽出した。
【大動脈瘤のゲノム解析】
大動脈瘤患者20例のゲノムDNAを対象に平滑筋ミオシン、平滑筋アクチンのタンパク翻訳領域のゲノムDNA塩基配列全長をダイレクトシークエンス法で解析した。
【腹部大動脈瘤症例の冠状動脈病変】
腹部大動脈瘤に対する待機的手術前に心臓カテーテル検査を施行した170症例を対象に解析をおこなった。
【大動脈解離の急性期死亡と相関する因子解析】
大動脈解離急性期に入院した93症例を対象に急性期死亡関連因子を解析した。
結果と考察
【胸部大動脈手術例のリスク分析】
破裂/解離と相関する術前因子は、60歳以下と81歳以上、女性、神経学的障害、BMI>30、NYHA≧Ⅲ、CCSⅣ、LVEF<30%であった。男女別の瘤径基準を設ける必要性への問題提起としてきわめて重要な知見といえる。
【腹部大動脈破裂のリスク分析】
破裂群では動脈瘤の家族歴を持つ者が有意に多く、遺伝要因の関与が強く示唆された。
【大動脈瘤のゲノム解析】
瘤破裂の家族歴を有する腹部大動脈瘤症例で平滑筋ミオシン遺伝子変異Gln1658Hisを発見した。
【腹部大動脈瘤症例の冠状動脈病変】
特に瘤径5cm以上の群では有意に冠動脈有意狭窄が多かった。手術を安全におこなうための留意点として診療現場に即フィードバック可能なエビデンスである。
【大動脈解離の急性期死亡と相関する因子解析】
急性期死亡には、Stanford A型解離以外に、血小板数、凝固系データが関与する。
結論
ハイリスク群の絞込みに向けてデータ収集を効率的に展開し、臨床的提言をおこなう上で有用な、日本人における「急性発症」「重症化」「死亡」のリスクマーカーに関して基礎データを得ることができた。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200936155C

成果

専門的・学術的観点からの成果
腹部大動脈瘤症例の解析により、動脈瘤の家族歴が瘤破裂のリスクであることを見出しさらに平滑筋ミオシンの遺伝子変異を一症例に見出している。海外の報告では大動脈瘤多発家系に平滑筋ミオシンの遺伝子変異が報告されている。一般の大動脈瘤症例にも変異例が存在することはcommon diseaseと考えられている急性大動脈症候群の病因論にもインパクトを与える。その他にもリスク因子を同定した。機序解明へのヒントとして期待される。
臨床的観点からの成果
日本心臓血管外科手術データベース(JCVSD)を用いて1万人規模で本邦胸部急性大動脈症候群のリスク解析をおこない、年齢、女性、心機能など有用なリスクマーカーを同定した。また、腹部大動脈瘤症例の解析により、動脈瘤の家族歴が瘤破裂のリスクであることを見出した。遺伝子解析結果とあわせて急性大動脈症候群発症のハイリスク群を事前に知るために有用な臨床指標を同定した。また腹部大動脈瘤患者には冠状動脈病変が多くみられることを見出し、術前の心臓冠状動脈スクリーニングの必要性を結論付けた。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
特記事項なし
その他のインパクト
日本心臓血管外科手術データベース(JCVSD)は心臓血管外科手術症例を全例登録する本邦でも有数の臨床情報データベースである。本データベースを用いた解析で女性が急性大動脈症候群発症のリスクという結果を得た。男女とも同一の瘤径基準で手術適応を決定している現状がこの結果を生んでいる可能性を推察した。本研究の成果を受けて、本データベースの今後の入力項目に「瘤径」を加えることをデータベース運営委員会に提案し実行するよう働きかけている。このようなフィードバックも本研究の重要な成果といえる。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-