文献情報
文献番号
202326016A
報告書区分
総括
研究課題名
自治体保健師の計画的・継続的な確保に関する研究
課題番号
23LA1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
村嶋 幸代(大分県立看護科学大学 看護学部)
研究分担者(所属機関)
- 佐伯 和子(富山県立大学看護学部)
- 臺 有桂(横浜市立大学医学部看護学科 地域看護学領域)
- 岸 恵美子(東邦大学 看護学部)
- 加藤 典子(大分県立看護科学大学 看護学部)
- 小野 治子(大分県立看護科学大学 看護学部)
- 岡田 悠希(大分県立看護科学大学 看護学部 健康情報科学研究室)
- 川崎 涼子(長崎大学 生命医科学域保健学系)
- 田村 秀(長野県立大学 グローバルマネジメント学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
3,420,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
健康危機管理等に自治体保健師が適切に対応するために、自治体が十分な準備の下で計画的に保健師を確保(採用、定着、離職防止)する必要がある。本研究の目的は、確保の状況を自治体単位で示すとともに、確保の方策を採用側・供給側の両面から明らかにし 、採用、確保、離職防止についてガイドラインを作成することである。
研究方法
研究は、以下の3つの側面から実施した。
研究A.保健師活動領域調査を用いて、全国の自治体(全都道府県および1629市町村)の2020‐22年の保健師確保状況を把握すると共に、市町村を人口規模で層化し、統括保健師の有無を含めて解析した。
研究B.研究Aを参考に、全国から選定した15都道府県の統括保健師に対し、保健師確保に関し、①県の確保状況、②市町村の確保状況、③国や関係機関への要望事項について8-9月にヒアリングした。
研究C.保健師教育課程の教員を対象に(C-1)学生の保健師就業意向と保健師確保に向けた支援の状況を、また、保健師学生を対象に(C-2)自治体保健師への就業意向を10-11月にオンラインで調査した。
研究A.保健師活動領域調査を用いて、全国の自治体(全都道府県および1629市町村)の2020‐22年の保健師確保状況を把握すると共に、市町村を人口規模で層化し、統括保健師の有無を含めて解析した。
研究B.研究Aを参考に、全国から選定した15都道府県の統括保健師に対し、保健師確保に関し、①県の確保状況、②市町村の確保状況、③国や関係機関への要望事項について8-9月にヒアリングした。
研究C.保健師教育課程の教員を対象に(C-1)学生の保健師就業意向と保健師確保に向けた支援の状況を、また、保健師学生を対象に(C-2)自治体保健師への就業意向を10-11月にオンラインで調査した。
結果と考察
研究A.保健所設置市では特に採用数が多かった。それ以外の市町村の保健師確保に関しては、人口規模によって、明確な差が見られた、即ち、保健所設置市以外の市町村では、10万人以上の自治体では採用ができているものの、人口が5万人未満、1万人未満と小さい市町村では3年間の増加人数が、各々0.32人、0.09人と小さく、保健師確保に苦戦していることがわかった。地図に落とすと、県庁所在地から遠い遠隔地の規模の小さい市町村で保健師確保ができにくいことが明らかとなった。一方で、統括保健師に関しては、配置されている方が、いない市町村に比して保健師の採用ができている。これを規模別に見ると、人口5万人以上の自治体では、統括保健師がいる方がいない市町村に比して採用ができているものの、人口規模が1万人未満になると、この差は明確では無かった。いずれにしろ、保健師確保の難しさは、人口規模が小さい、遠隔地の市町村で顕著であることが明らかとなった。
研究B.自県の保健師確保に関して、人事部門との交渉ができている県では、中期的な将来予測のもとに確保計画が想定され、産育休を見越して確保できていた。一方で、交渉はしても、結果は発表された採用予定数を見るまでは分からない県もあった。人事部門との交渉には、統括保健師の職位が管理的地位にあることも重要であった。県内の市町村の保健師の確保については、毎年全自治体に実態調査をして把握している県から、全く把握していない県まで多様であった。ホームページには、市町村の保健師募集を掲載している県もあったが、全てでは無かった。また、既に特定の市町村に対して「県保健師の派遣」を実施している県や、県の保健師を広域連合に派遣し、必要な事業支援をしている県もあった。
研究C.看護師教育に保健師教育を上乗せする課程(大学院修士課程や専攻科)では、自治体保健師への就業実績が6割以上であるのに対し、看護師と一緒に教育する学部(保健師選択制、もしくは、全員必修)では、保健師としての就業実績が、各々23%、10.4%に過ぎなかった。保健師教育課程履修の学生も看護師志望が多く、入学当初からの志向性、奨学金による縛り等が理由であった。
研究B.自県の保健師確保に関して、人事部門との交渉ができている県では、中期的な将来予測のもとに確保計画が想定され、産育休を見越して確保できていた。一方で、交渉はしても、結果は発表された採用予定数を見るまでは分からない県もあった。人事部門との交渉には、統括保健師の職位が管理的地位にあることも重要であった。県内の市町村の保健師の確保については、毎年全自治体に実態調査をして把握している県から、全く把握していない県まで多様であった。ホームページには、市町村の保健師募集を掲載している県もあったが、全てでは無かった。また、既に特定の市町村に対して「県保健師の派遣」を実施している県や、県の保健師を広域連合に派遣し、必要な事業支援をしている県もあった。
研究C.看護師教育に保健師教育を上乗せする課程(大学院修士課程や専攻科)では、自治体保健師への就業実績が6割以上であるのに対し、看護師と一緒に教育する学部(保健師選択制、もしくは、全員必修)では、保健師としての就業実績が、各々23%、10.4%に過ぎなかった。保健師教育課程履修の学生も看護師志望が多く、入学当初からの志向性、奨学金による縛り等が理由であった。
結論
研究A,B,Cの結果、以下が重要であると考えられた。
(1)都道府県単位で計画的な保健師の人材確保・育成計画を立てることが必要である。その際に、県の保健師だけでなく、県内の全市町村を含めた対策を立てること、市町村の保健師が、本来の目的を十分に発揮できるような業務計画に即した採用計画を立てることが必要である。
(2)都道府県単位で保健師の人材確保計画を立てる際に、実質的な供給状況も勘案し、不足する場合には、県が責任を持って供給体制を整えることが肝要である。保健師免許の取得と、保健師としての就職との間には乖離があり、免許の取得者数が、実質的な保健師の供給数にならない点に留意が必要である。
(3)遠隔地の市町村の保健師確保に関しては、特別な配慮が必要である。
県庁所在地から遠い、人口規模の小さい市町村では、応募者が少ないことが悩みである。今後、保健師教育課程(供給側)に関しては、①入学生にそのような地域の出身者を加える(地域枠)、②実習等でその地域の魅力を十分に伝えることが提案できる。また、都道府県および市町村(採用側)では、③広域的に採用しローテーション体制を整備する、④現任教育を行う、⑤保健師を配置する部署の労働環境、処遇改善等、総合的に体制を整備する必要があると考えられた。
令和6年度には、ヒアリング対象から3県を選び、市町村保健師の確保に関わるモデル事業を伴走型で実施する予定で、令和5年度の知見はその際の助言内容等に活用できる。
(1)都道府県単位で計画的な保健師の人材確保・育成計画を立てることが必要である。その際に、県の保健師だけでなく、県内の全市町村を含めた対策を立てること、市町村の保健師が、本来の目的を十分に発揮できるような業務計画に即した採用計画を立てることが必要である。
(2)都道府県単位で保健師の人材確保計画を立てる際に、実質的な供給状況も勘案し、不足する場合には、県が責任を持って供給体制を整えることが肝要である。保健師免許の取得と、保健師としての就職との間には乖離があり、免許の取得者数が、実質的な保健師の供給数にならない点に留意が必要である。
(3)遠隔地の市町村の保健師確保に関しては、特別な配慮が必要である。
県庁所在地から遠い、人口規模の小さい市町村では、応募者が少ないことが悩みである。今後、保健師教育課程(供給側)に関しては、①入学生にそのような地域の出身者を加える(地域枠)、②実習等でその地域の魅力を十分に伝えることが提案できる。また、都道府県および市町村(採用側)では、③広域的に採用しローテーション体制を整備する、④現任教育を行う、⑤保健師を配置する部署の労働環境、処遇改善等、総合的に体制を整備する必要があると考えられた。
令和6年度には、ヒアリング対象から3県を選び、市町村保健師の確保に関わるモデル事業を伴走型で実施する予定で、令和5年度の知見はその際の助言内容等に活用できる。
公開日・更新日
公開日
2024-10-02
更新日
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