文献情報
文献番号
202326012A
報告書区分
総括
研究課題名
中規模建築物所有者等による自主的な維持管理手法の検証のための研究
課題番号
22LA1011
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
本間 義規(国立保健医療科学院 )
研究分担者(所属機関)
- 東 賢一(近畿大学 医学部 予防医学・行動科学教室)
- 小林 健一(国立保健医療科学院 医療・福祉サービス研究部)
- 島崎 大(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
- 阪東 美智子(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
- 下ノ薗 慧(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
- 西原 直枝(日本女子大学 家政学部被服学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
執務者の快適性や健康性、知的生産性向上を含め、建築物衛生管理の重要性は益々高まっている状況にある。本研究では、中規模建築物所有者等が自ら管理可能かつIoTとも親和性の高い簡易評価システムを開発すること、及び建築物衛生法第4条第3項に資する、自ら測定評価・維持改善対策が可能なガイドラインを作成することを目的とし、以下の研究項目について研究を実施した。
研究方法
令和5年度は、既存建築物オフィス内(全国6件)の温湿度、照度の長期実測を継続実施、分析するとともに夏期調査(温湿度、上下温度差、浮遊微粒子、浮遊微生物、水質調査、及び着衣量を含む主観者評価)を行い、結果について詳細に分析を行った。また、TAILシステム(EU)を用いて既存建築物オフィスの暫定評価を行うとともに、以下に各々の研究結果の概要を示す。
結果と考察
①長期測定に基づく温湿度環境形成要因の分析と空気管理基準不適率割合
6件の事務所(特定建築物3件:A、B、C、中小規模建築物3件:D、E、F、なお特定建築物3件の内、2件が中央管理方式の空調)における温湿度及びCO2濃度の連続測定結果から、執務室内の温湿度環境形成にどのように影響を及ぼすのかを検討し、特定建築物と非特定建築物の違いを明確にした。また、相対湿度ではなく絶対湿度による基準範囲の示し方が地域に拠らず加湿行為の確認が可能になることを示した。
②室内熱環境・空気質・光環境・音環境に関する夏期詳細測定と主観評価調査結果
夏期の室内温熱環境、空気環境、光環境及び音環境の実態とそこで業務を行う執務者の主観評価について検討した。全国6か所の測定の結果、平均放射温度・PMV・SET*ではやや暖かいゾーンの存在がC・D・Eビルにおいて確認された。浮遊微粒子個数濃度については、特定建築物であるA・B・CビルのI/O比は中小規模建築物と比較して低い結果であった。室内音環境は10~15時の中央値はいずれの建物においても50dB[A]であり、問題となる音環境ではないと考えられる。
③夏季のオフィスワーカーの着衣量と主観評価に関する調査研究
ISO 9920 に示される着衣単品の着衣量を基にして、各執務者の基礎着衣熱抵抗値を加算し算出したところ、男性で0.58clo、女性で0.64cloであった。女性は「3:やや涼しい」が40%、「4:暑くも寒くもない」が44%であり、その着衣量は、前者で0.43-0.88clo、後者で0.51-0.75cloの範囲に分布した。男性は、「4:暑くも寒くもない」が57%であり、その着衣量は0.49-0.83cloに分布した。
④ 給水環境の実態ならびに利用者の主観に関する調査
全国の6事業所を対象に、2024年8月から9月にかけて水質調査及び主観評価調査を実施したところ、一部の建築物から採取した試料の遊離残留塩素は、水道法の下限値0.1mg/Lを満たしておらず、また従属栄養細菌数は、一部の特定建築物とすべての中規模建築物について1.0×102CFU/mL以上で存在し、微生物学的な衛生状況が芳しくないことが示唆された。執務者に対する主観評価調査では、水質に関しては、「塩素臭・カルキ臭」による異臭味が指摘されており、塩素消毒による臭味と考えられた。一方、「金気臭」の指摘は給水装置等の腐食に由来する可能性が考えられた。
⑤ 室内環境・知的生産性の評価システムの検討
欧州連合(EU)ALDREN・TAILスキームを用いて評価試行を行った。TAILスキームは建物の室内環境を評価するうえでとても明快な評価スキームであるが、前提とする建物性能が異なるため厳しい結果となることが明らかになった。また6件の実測建物の主観評価とは別途、オフィス労働者に対するアンケート調査を実施した。その結果、温熱や湿度に関する不満の割合が高く、次いで音環境に対する不満の割合が高かった。音環境の満足度では、建物の規模が小さくなるほど満足度が有意に低下することが示唆された。
⑥ 建築物利用者の建築環境と健康評価の再分析
中規模建築物と特定建築物の衛生管理の実態について、既往研究データの二次分析を行った。従業員の環境に対する苦情は、全体では「温度」「湿度」「水漏れ、結露、雨漏り」について、15-25%の物件で確認できた。一方、「騒音」「衛生害虫など」「清掃」「廃棄物処理」は、非特定建築物でのみ少数ではあるが苦情があり、「衛生害虫など」に対する苦情割合は非特定建築物で有意に高いことがわかった。
6件の事務所(特定建築物3件:A、B、C、中小規模建築物3件:D、E、F、なお特定建築物3件の内、2件が中央管理方式の空調)における温湿度及びCO2濃度の連続測定結果から、執務室内の温湿度環境形成にどのように影響を及ぼすのかを検討し、特定建築物と非特定建築物の違いを明確にした。また、相対湿度ではなく絶対湿度による基準範囲の示し方が地域に拠らず加湿行為の確認が可能になることを示した。
②室内熱環境・空気質・光環境・音環境に関する夏期詳細測定と主観評価調査結果
夏期の室内温熱環境、空気環境、光環境及び音環境の実態とそこで業務を行う執務者の主観評価について検討した。全国6か所の測定の結果、平均放射温度・PMV・SET*ではやや暖かいゾーンの存在がC・D・Eビルにおいて確認された。浮遊微粒子個数濃度については、特定建築物であるA・B・CビルのI/O比は中小規模建築物と比較して低い結果であった。室内音環境は10~15時の中央値はいずれの建物においても50dB[A]であり、問題となる音環境ではないと考えられる。
③夏季のオフィスワーカーの着衣量と主観評価に関する調査研究
ISO 9920 に示される着衣単品の着衣量を基にして、各執務者の基礎着衣熱抵抗値を加算し算出したところ、男性で0.58clo、女性で0.64cloであった。女性は「3:やや涼しい」が40%、「4:暑くも寒くもない」が44%であり、その着衣量は、前者で0.43-0.88clo、後者で0.51-0.75cloの範囲に分布した。男性は、「4:暑くも寒くもない」が57%であり、その着衣量は0.49-0.83cloに分布した。
④ 給水環境の実態ならびに利用者の主観に関する調査
全国の6事業所を対象に、2024年8月から9月にかけて水質調査及び主観評価調査を実施したところ、一部の建築物から採取した試料の遊離残留塩素は、水道法の下限値0.1mg/Lを満たしておらず、また従属栄養細菌数は、一部の特定建築物とすべての中規模建築物について1.0×102CFU/mL以上で存在し、微生物学的な衛生状況が芳しくないことが示唆された。執務者に対する主観評価調査では、水質に関しては、「塩素臭・カルキ臭」による異臭味が指摘されており、塩素消毒による臭味と考えられた。一方、「金気臭」の指摘は給水装置等の腐食に由来する可能性が考えられた。
⑤ 室内環境・知的生産性の評価システムの検討
欧州連合(EU)ALDREN・TAILスキームを用いて評価試行を行った。TAILスキームは建物の室内環境を評価するうえでとても明快な評価スキームであるが、前提とする建物性能が異なるため厳しい結果となることが明らかになった。また6件の実測建物の主観評価とは別途、オフィス労働者に対するアンケート調査を実施した。その結果、温熱や湿度に関する不満の割合が高く、次いで音環境に対する不満の割合が高かった。音環境の満足度では、建物の規模が小さくなるほど満足度が有意に低下することが示唆された。
⑥ 建築物利用者の建築環境と健康評価の再分析
中規模建築物と特定建築物の衛生管理の実態について、既往研究データの二次分析を行った。従業員の環境に対する苦情は、全体では「温度」「湿度」「水漏れ、結露、雨漏り」について、15-25%の物件で確認できた。一方、「騒音」「衛生害虫など」「清掃」「廃棄物処理」は、非特定建築物でのみ少数ではあるが苦情があり、「衛生害虫など」に対する苦情割合は非特定建築物で有意に高いことがわかった。
結論
6件の建築物における長期測定結果及び夏期詳細測定により、中小規模建築物の環境衛生上の特徴・差異が明確になった。このことは、中小規模建築物特有の整理が必要であるということを示している。主観評価に関しては湿度に関して回答評価にばらつきがあることに加え、音環境にも着目すべき点が示唆された。
公開日・更新日
公開日
2024-10-02
更新日
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