公衆浴場の衛生管理の推進のための研究

文献情報

文献番号
202326009A
報告書区分
総括
研究課題名
公衆浴場の衛生管理の推進のための研究
課題番号
22LA1008
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
泉山 信司(国立感染症研究所 寄生動物部)
研究分担者(所属機関)
  • 枝川 亜希子(大阪健康安全基盤研究所 衛生化学部)
  • 金谷 潤一(富山県衛生研究所 細菌部)
  • 黒木 俊郎(岡山理科大学 獣医学部)
  • 小坂 浩司(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 田栗 利紹(長崎県環境保健研究センター)
  • 中西 典子(神戸市健康科学研究所  感染症部)
  • 前川 純子(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 森 康則(三重県保健環境研究所 衛生研究室 衛生研究課)
  • 栁本 恵太(山梨県衛生環境研究所 微生物部)
  • 淀谷 雄亮(川崎市健康福祉局 健康安全研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
22,947,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
公衆浴場は、適温の湯でレジオネラ等病原性微生物が増殖し、レジオネラ集団感染が繰り返された。衛生向上を目的とする公衆浴場において、衛生低下の問題が生じた(2002年 宮崎県他)。浴場施設の塩素消毒が緊急避難的に導入されたが、高pH(8~)での消毒効果の不足や、塩素臭の敬遠から消毒が不徹底等に陥る(2022年 福岡県)。未だに感染事故がある(2021年 広島県、2022年 兵庫県)。本研究は浴場施設の衛生向上と推進、さらに他の管理や対策方法の選択肢を増やすことを目的とする。
研究方法
研究班を①消毒洗浄、②迅速検査法、③保健所衛生部局との連携、④培養検査の向上、⑤分子疫学の大きく分けて5分野に編成し、これらの成果により直接あるいは間接的に衛生管理の向上と推進が得られることを目指した。
結果と考察
公衆浴場の衛生管理の推進に有用な結果を得た。①高pHや薬湯でのモノクロラミン消毒の効果と有用性を改めて詳細に確認できた。高pHの実施設でモノクロラミン消毒の試験を行い、消毒法の普及にも努めた。モノクロラミン消毒下の菌叢を解析した範囲において、病原細菌の増加は認められず、生活環境やヒト常在菌が検出されるにとどまり、特段の問題はなかった。ろ過器をオゾン消毒するだけでは不足で、逆洗の必要性が強く示唆された。洗濯機や加湿器からレジオネラが検出され、浴槽に限らず身の回りの生活環境を含め、洗浄や消毒が大事であることを繰り返し注意喚起する結果であった。②レジオネラ培養検査は1~2週間の時間を要することから、より迅速な検査法が望まれていた。遺伝子検査法やフローサイトメトリーなどの迅速な検査法を活用して、5施設と丁寧な対話を行い、汚染を特定したり、管理の向上につなげることが出来た。③保健所の職員を対象に、アンケート調査を行い、公衆浴場でのレジオネラ症対応、監視指導の実態が明らかになった。寄せられた要望に対応して、より向上を目指したい。④難しいレジオネラ培養検査の問題を改善するために、外部精度管理の選択肢を増やしている。UKSHAのEQAの場合、本当の試料に近い、夾雑菌を含む試料が届いており、各検査機関の日常的な検査法での参加が必要な、実践的な精度管理であった。新規のレジオラート法の検討も進めた。⑤レジオネラ血清型別のためのmultiplex-PCR法の改良と普及が進んだ。血清型別は疫学にも大事なことから、型別不能が減少することで、感染源調査も向上が期待できる。さらなる分子疫学の向上に、全ゲノム解析も進めた。
結論
pH10程度のアルカリ性温泉において、モノクロラミン消毒によるレジオネラ属菌に対する消毒効果を再確認できた。モノクロラミン消毒中の菌叢は、生活環境やヒトの常在菌に変化した。試験管内消毒試験により、高アルカリ温泉水と薬湯中のL. pneumophilaに対して、遊離塩素消毒よりモノクロラミン消毒が有効と確認した。洗濯機と加湿器からレジオネラが検出され、このような生活環境中の感染源について改めて注意喚起となった。循環式浴槽のろ過器にオゾンを注入しただけではレジオネラが増殖してしまい、逆洗による汚れの排出が非常に重要と示唆された。フローサイトメトリーや遺伝子検査に塩素濃度測定の非培養な検査法を用いて、5つの施設との丁寧な対話により、汚染を特定したり、管理を向上することが出来た。遺伝子検査が迅速なレジオネラ検査として有用なこと、遊離塩素濃度0.4mg/L以上の重要性が改めて示された。全ゲノム配列を用いた感染源調査には、ヒト分離株は2株で変異を把握できるのに対して、環境分離株では複数が必要であることが実測で示された。保健所の職員を対象にアンケート調査を行い、公衆浴場でのレジオネラ症対応、監視指導の実態が明らかになった。入浴施設の衛生管理の手引きの見直しとチェックシートの作成等が行われた。外部精度管理の一つ英国UKHSAのEQAに参加し、本物の環境水に近い試料が用意され、培養前処理ありの日常的な検査方法での参加が可能であった。レジオネラ属菌の新規培養検査法として、レジオラート/QT法は従来の平板培養法と高い一致率が得られた。培養前の酸処理により感度が若干低下したが、雑菌による偽陽性は抑制された。レジオネラ血清型別のためのmultiplex-PCR法の改良と普及が進んで全国的に使用可能となり、分離培養ができなかった喀痰への応用例が報告されていた。国内で比較的よく検出される遺伝子型のST1とST138の全ゲノム解析を行い、ST型によって多様性が異なること、多様性に乏しいST138型などは感染源の判断に注意を要することが示された。感染源調査には、ヒト分離株は2株で変異を把握できるとして、環境分離株ではなるべく多い複数が必要と実測で示された。

公開日・更新日

公開日
2024-10-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2024-10-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202326009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
23,743,000円
(2)補助金確定額
23,742,000円
差引額 [(1)-(2)]
1,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 16,296,878円
人件費・謝金 534,403円
旅費 743,799円
その他 5,371,588円
間接経費 796,000円
合計 23,742,668円

備考

備考
自己資金663円+利息5円=668円差額

公開日・更新日

公開日
2024-10-21
更新日
-