文献情報
文献番号
202325017A
報告書区分
総括
研究課題名
化審法における発がん性定量評価を見据えた新たな遺伝毒性評価技術構築のための基盤研究
課題番号
22KD2001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
杉山 圭一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 変異遺伝部)
研究分担者(所属機関)
- 井上 薫(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
- 増村 健一(国立医薬品食品衛生研究所変異遺伝部)
- 安井 学(国立医薬品食品衛生研究所変異遺伝部)
- 堀端 克良(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター変異遺伝部)
- 津田 雅貴(国立医薬品食品衛生研究所 ゲノム安全科学部)
- 伊澤 和輝(東京工業大学 情報理工学院)
- 鈴木 孝昌(国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子医薬部)
- 石井 雄二(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
29,307,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
遺伝毒性を有する化学物質の発がん性の定量的評価に応用可能な遺伝毒性評価法の開発を目指す。具体的には、in vivo遺伝毒性試験結果からのPOD(Point of Departure)の設定が可能か検証を行なう。この研究課題に対してはデータの堅牢性を高める観点での新規のin vivo遺伝毒性試験の実施のみならず、遺伝毒性と発がん性の連関を認める新規バイオマーカーの探索も想定している。また、将来的に動物実験の実施が困難となる可能性も見据え、in vitro遺伝毒性試験から発がん性の定量的予測が可能か検証するための多面的な解析も進める。また、Ames/QSARを含むin silico評価手法の化審法でのより一層の有効活用を目指すべく、ガイダンス作成の基盤となる調査・研究を実施する。
研究方法
過去のスクリーニング評価において評価保留となった2物質を対象に、類似物質候補について、有害性情報等の収集・整理と各物質の物理化学的性状、代謝物の調査を行った。既知の遺伝毒性発がん物質についてTGR試験と発がん性の量的相関性を検討するため、過去に実施した肝発がん物質のTGR試験データおよび文献情報から発がん標的臓器が異なる物質のデータを追加して変異原性PODと発がん性PODを比較し相関性を検討した。DIA法を使用したトキシコプロテオミクスデータとエンリッチメント解析を行なった。塩基除去修復機構で重要な役割を果たすAPE1を認識するモノクローナル抗体を用いたChIP法および定量的PCR、また、固定化組織を用いる遺伝毒性検出基盤研究を実施した。化学物質投与/非投与群のラットサンプルからDNAを抽出し、ecNGSの一つであるPECC-Seq法に従ったライブラリを作成、解析を行った。抗γ-H2AX抗体を用いた免疫組織化学染色による小核の検出を検討した。また、3用量のAA、N-nitrosopropylamine(NNP)又はquinolineを雄性F344ラットにそれぞれ28日間反復投与し、本法と肝臓小核試験の相関を確認した。AA誘発肝腫瘍においてコピー数増加がみられたがん遺伝子MDM2ついて免疫組織化学染色法によるタンパクの検出を行った。
結果と考察
スクリーニング評価において独自のリードアクロス(RA)を活用することを目指し、ケーススタディを実施した。トランスジェニック動物遺伝子突然変異試験(TGR試験)の用量反応データからベンチマークドーズ(BMD)法により変異原性のpoint of departure (POD)を算出し、発がん性POD(TD50、BMDL10)と比較した結果、概ね正の相関を示した。未処理細胞実験とマンニトール処理細胞実験によるプロテオミクスとエンリッチメント解析の結果に、DNA修復関連のGOが観察されないことは、昨年度のH2O2処理細胞から得られた結果が、非常に信憑性が高いことを示すと考えられた。遺伝毒性反応検出の技術基盤整備としてクロマチン免疫沈降法(ChIP)の適用性を検証した結果、定量定性的なアルキル化DNA損傷応答反応を検出できることを明らかにした。また、ecNGSによる変異原性評価手法が、既存手法を代替する手法として有用であることを示唆する結果を得た。抗γ-H2AX抗体を用いた免疫組織化学染色により小核が陽性を呈することを明らかにし、小核化細胞の検出法としての有用性を確認した。
結論
本年度は、化審法での毒性評価におけるRA有用性を検証するためのケーススタディを実施するとともに、変異原性PODと発がん性PODの相関性を検討した。既存データを活用した化審法での人健康に関する有害性評価に、これら成果は活用できる可能性がある。また、プロテオミクス解析、固定化組織標本へのChIP技術の適用に関しても、新たな遺伝毒性試験として活用できる可能性を見出した。ラット肝臓における変異原性をecNGS技術で検出できることを明らかにし既存のTGR試験結果との相関性も認めたことから、ecNGSが次世代のin vivo変異原性試験として有望であることも確認された。染色体不安定性の観点からの発がん機序については、指標となる小核化細胞検出法の有用性を検討した。これら成果は、遺伝毒性を有する化学物質の発がん性定量的評価に向けた基盤になる。
公開日・更新日
公開日
2024-10-03
更新日
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