In silico予測手法の高度化とNew Approach Methodologyの活用に基づく化学物質の統合的ヒト健康リスク評価系の基盤構築に関する研究

文献情報

文献番号
202325016A
報告書区分
総括
研究課題名
In silico予測手法の高度化とNew Approach Methodologyの活用に基づく化学物質の統合的ヒト健康リスク評価系の基盤構築に関する研究
課題番号
21KD2005
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
山田 隆志(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
研究分担者(所属機関)
  • 杉山 圭一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 変異遺伝部)
  • 古濱 彩子(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
  • 本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 広瀬 明彦(一般財団法人化学物質評価研究機構 安全性評価技術研究所)
  • 松本 真理子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
  • 安部 賀央里(鈴木 賀央里)(名古屋市立大学 大学院薬学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
21,752,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、数多くの化学物質が健康リスク評価未実施のまま流通しており、それら化学物質のリスクの評価と管理は世界的な課題となっている。リスク評価の迅速化へ向けて、in silico予測手法には、高品質のデータセットの使用、モデルの予測精度の更なる向上、予測結果の信頼性を評価する方法等が求められている。また、ヒト健康リスク評価に資するNew Approach Methodology(NAM)は、in vivo毒性の予測の信頼性を向上させると期待されているが、NAMデータを活用した健康リスク評価の行政的受け入れは未だ限られており、事例研究によって、その信頼性や規制上のニーズを満たすことに貢献できるかを概念実証することが求められる。そこで本研究では、Ames変異原性を対象としたQSARの高度化と、in vivo毒性を対象としたNAMの活用に基づく化学物質の統合的ヒト健康リスク評価系の基盤整備を行う。
研究方法
1.遺伝毒性評価に資するAmes/QSARの深化では、第2回国際共同研究プロジェクトの成果を論文化した。さらに、N-ニトロソアミンの知見の蓄積並びに深層学習ベースモデルのAmes予測への応用可能性を検討した。2.代謝予測に基づく反復投与毒性リードアクロスモデルの高度化に関する研究では、反復投与において低毒性が予測される物質群へリードアクロスを拡大適用した。トキシコキネティクス(TK)の類似性に基づき正当化し、本アプローチの適用可能性を検討した。3.有害性発現経路(AOP)に基づく生殖発生毒性の予測系構築に関する研究では、ミトコンドリア毒性AOPの作成とECHA REACHデータセットを用い精巣毒性AOPネットワークによるスクリーニングを行った。4.In vitro–in vivo外挿(IVIVE)用の生理学的動力学(PBK)モデル構築のための基盤整備では、パラメータ取得のためin vitro膜透過性・代謝試験を実施し、得たデータ等を用いてIVIVEを実施した。5.機械学習を用いた皮膚感作性試験代替法の開発と化学物質のリスク評価への活用に関する研究では、機械学習を用いた皮膚感作性強度予測モデルの適用領域の設定や外部検証を実施し、規制評価利用における課題を整理した。
結果と考察
1.第2回国際共同研究プロジェクトの成果を論文化し、Ames/QSARの社会実装に有益な情報を公開した。また、発がん性の懸念が高いが既存データで陽性と陰性が混在するN-ニトロソアミン化合物のAmes試験を行い、Ames/QSAR評価に資する知見を蓄積した。さらに、深層学習モデルのAmes変異原性予測への応用可能性を検討した。2.リードアクロスを低毒性が予測される物質群への拡大適用し、低毒性カテゴリーをTKに基づき正当化し、本アプローチの他の物質への適用可能性を示した。ヒトCYP代謝予測モデルについて高予測精度領域を精査し、リスク評価における動物試験のヒト外挿性向上の可能性を検討した。3.ECHA REACHデータセットの整備、解析結果から可能性を示したミトコンドリア毒性による生殖毒性AOPについて作成を試みた。さらに同データセットを用い、精巣毒性AOPネットワークによるスクリーニングを行い、さらなるAOPの可能性を見いだした。4. 評価対象物質のパラメータ取得のためin vitro膜透過性・代謝試験を実施し、得たデータ等を用いてIVIVEを実施した。in vivo経口等価用量(OED)から推測される子宮肥大試験の判定結果は、子宮肥大試験のアゴニスト活性を予測できる可能性があることを確認できた。5.開発した皮膚感作性強度予測モデルを精緻化し、適用領域の設定や外部検証を実施した。リスク評価への活用に向け、QSARモデル報告書式(QSAR model reporting format)に従い検討したところ、信頼性や透明性は確認できたが、適用領域や外部検証の妥当性について基準や評価等の課題が明らかになった。また、皮膚感作性関連in vitro試験の予測モデル、化学構造に基づくヒト皮膚感作性判別モデルを構築した。
結論
化学物質のヒト健康リスク評価の重要な毒性エンドポイントであるAmes変異原性、反復投与毒性、生殖発生毒性、皮膚感作性を対象に、それぞれに適したin silico予測手法の高度化とNAMの活用に基づく統合的ヒト健康リスク評価系の確立へ向けた研究を遂行した。その一環として信頼性の高いデータセットの収集・整備および試験結果の再評価によるデータベースの精密化を実現した。また、既存予測モデルの評価・改良およびNAMを活用した新しいモデルの構築と評価へ向けた事例研究を実施し、適用範囲の拡大へ向けた基盤を整備した。5つの分担研究で着実に結果を積み重ねた結果、本研究は目的とする成果を得られたと考えている。

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202325016B
報告書区分
総合
研究課題名
In silico予測手法の高度化とNew Approach Methodologyの活用に基づく化学物質の統合的ヒト健康リスク評価系の基盤構築に関する研究
課題番号
21KD2005
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
山田 隆志(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
研究分担者(所属機関)
  • 杉山 圭一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 変異遺伝部)
  • 古濱 彩子(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
  • 本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 広瀬 明彦(一般財団法人化学物質評価研究機構 安全性評価技術研究所)
  • 松本 真理子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
  • 安部 賀央里(鈴木 賀央里)(名古屋市立大学 大学院薬学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、数多くの化学物質が健康リスク評価未実施のまま流通しており、それら化学物質のリスクの評価と管理は世界的な課題となっている。リスク評価の迅速化へ向けて、in silico予測手法には、高品質のデータセットの使用、モデルの予測精度の更なる向上、予測結果の信頼性を評価する方法等が求められている。また、ヒト健康リスク評価に資するNew Approach Methodology(NAM)は、in vivo毒性の予測の信頼性を向上させると期待されているが、NAMデータを活用した健康リスク評価の行政的受け入れは未だ限られており、事例研究によって、その信頼性や規制上のニーズを満たすことに貢献できるかを概念実証することが求められる。そこで本研究では、Ames変異原性を対象としたQSARの高度化と、in vivo毒性を対象としたNAMの活用に基づく化学物質の統合的ヒト健康リスク評価系の基盤整備を行う。
研究方法
1.遺伝毒性評価に資するAmes/QSARの深化では、データベースの信頼性向上と精密化を実現した。国際プロジェクトを論文化した。さらに、深層学習モデルの検討を行った。2.代謝予測に基づく反復投与毒性リードアクロスモデルの高度化に関する研究では、事例を用いて、代謝の類似に基づくリードアクロスによる毒性予測の可能性を実証した。低毒性が予測される物質群へリードアクロスを拡大適用し、トキシコキネティクス(TK)の類似性に基づき正当化し、その適用可能性を検討した。3.AOPに基づく生殖発生毒性の予測系構築に関する研究では、事例を用いてAOPによる安全性評価の改善を検証した。ECHA REACHデータセットを既存の生殖発生毒性や精巣毒性AOPネットワークと比較し、その改善の可能性を検討した。4.In vitro–in vivo外挿(IVIVE)用の生理学的動力学(PBK)モデル構築のための基盤整備では、既存PBKモデルの調査に基づきマウスPBKモデルを構築、検証した。データベースやツールの調査、in vitro試験実施によりモデルパラメータを取得し、それ等を用いてIVIVEを実施した。5.機械学習を用いた皮膚感作性試験代替法の開発と化学物質のリスク評価への活用に関する研究では、皮膚感作性関連の機械学習モデルを構築した。構築したモデルの適用領域の設定や外部検証を通し規制評価利用における課題を整理した。
結果と考察
1.試験データベースの信頼性向上と精密化を実現した。N-ニトロソアミン化合物のAmes試験とQSARを行いAmes/QSAR評価に資する知見の蓄積を行った。第2回国際共同研究プロジェクトの成果を論文化し、Ames/QSARの社会実装に有益な情報を公開した。さらに、深層学習モデルの応用可能性を検討した。2.複数の事例研究で代謝の類似性に基づくカテゴリー化によって毒性発現を予測する方法の妥当性を検証した。リードアクロスを低毒性が予測される物質群への拡大適用し、低毒性カテゴリーをTKに基づき正当化し、本アプローチの他の物質への適用可能性を示した。3.事例を用いてAOPによる安全性評価の改善できることを示した。ECHA REACHデータセットを既存の生殖発生毒性や精巣毒性AOPネットワークと比較した結果、新規AOPの可能性が示唆され、ミトコンドリア毒性による新規生殖発生毒性AOPを作成した他、新規精巣毒性AOPの可能性を見出した。4.in vitroアッセイのIVIVEで使用された既存PBKモデルを調査し、PBKモデルを構築した。データベースやツールの調査とin vitro試験実施によりモデルパラメータを取得、それ等を用いIVIVEを行った。in vivo経口等価用量(OED)から推測される子宮肥大試験の判定結果は、子宮肥大試験のアゴニスト活性を予測できる可能性を確認できた。5.皮膚感作性予測モデルを構築し、精緻化した。構築モデルの適用領域の設定、外部検証を実施し、QSARモデル報告書式に従い検討した。規制評価利用に向けて妥当性評価に課題があることが明らかになった。また、皮膚感作性関連in vitro試験の予測モデル、化学構造に基づくヒト皮膚感作性判別モデルを構築した。
結論
化学物質のヒト健康リスク評価の重要な毒性エンドポイントであるAmes変異原性、反復投与毒性、生殖発生毒性、皮膚感作性を対象に、それぞれに適したin silico予測手法の高度化とNAMの活用に基づく統合的ヒト健康リスク評価系の確立へ向けた研究を遂行した。5つの分担研究で着実に結果を積み重ねた結果、本研究は目的とする成果を得られたと考えている。これらはNAMのリスク評価への統合に資する先駆的な成果であり、今後の統合的ヒト健康リスク評価系の基盤となり、現状の課題を克服するリスク評価系の構築に貢献できる。

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202325016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
Ames変異原性についてはデータベースの信頼性向上と精密化を実現した。国際プロジェクトの論文化、深層学習モデルの検討を行った。反復投与毒性、生殖発生毒性に対し代謝、AOP、生体内曝露などNAMによるin silico手法の精度向上、統合的手法の優位性を示した。皮膚感作性機械学習モデルの構築と評価を行い、行政利用における課題を整理した。以上はNAMのリスク評価への統合に資する先駆的な成果であり、今後の統合的ヒト健康リスク評価系の基盤となり、現状の課題を克服するリスク評価系の構築に貢献できる。
臨床的観点からの成果
特になし。
ガイドライン等の開発
本プロジェクトで得られた成果は、In silico予測手法とNAMを活用した今後のガイドライン等の開発に大きく貢献できる。
その他行政的観点からの成果
(Q)SAR Assessment Framework. OECD Series on Testing and Assessment. No. 386
イタリアIstituto Superiore di Sanità(ISS)と欧州化学品庁(ECHA)の共同リードのもと、OECDメンバー国のQSAR専門家が参加し、本ガイダンスを作成した。本研究班からは、山田隆志および古濱彩子が本ガイダンスおよびケーススタディの作成に貢献した。
その他のインパクト
シンポジウムや企業の化学物質管理関係者への講習会を通し、in silico予測手法とNAMの有用性、本プロジェクトやその成果について紹介し、一般への知識普及、啓発を推進した。また、OECD QAFガイダンスのケーススタディを実施しOECDワーキンググループにて発表した(OECDホームページにて公開)。さらに、成果の一つであるAOPについてホームページにて一般に向け紹介した。
2024年6月の日本毒性学会年会にて、本プロジェクトの成果を紹介するシンポジウムを開催予定である。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
30件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
93件
学会発表(国際学会等)
24件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
(Q)SAR Assessment Framework. OECD Series on Testing and Assessment. No. 386
その他成果(普及・啓発活動)
8件
講演2件、講習会2件、ワーキンググループでの発表4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Furuhama A, Kitazawa A, Yao J, et al.
Evaluation of QSAR models for predicting mutagenicity: outcome of the Second Ames/QSAR international challenge project.
SAR and QSAR in Environmental Research , 34 (12) , 983-1001  (2023)
10.1080/1062936X.2023.2284902
原著論文2
Furuhama A, Kasamatsu T, Sugiyama K, et al.
Curation of more than 10,000 Ames Test Data Used in the Ames/QSAR International Challenge Projects.
“QSAR in Safety Evaluation and Risk Assessment” Elsevier Academic Press , 365-372  (2023)
10.1016/B978-0-443-15339-6.00022-9
原著論文3
山田隆志, 丸山(薦田)多恵子.
化学物質のヒト健康影響評価に資するリードアクロス -行政リスク評価への適用を目指して-
CICSJ Bulletin , 41 (1) , 6-10  (2023)
10.11546/cicsj.41.6
原著論文4
Myden A, Stalford SA, Fowkes A, et al.
Enhancing developmental and reproductive toxicity knowledge: A new AOP stemming from glutathione depletion.
Current Research in Toxicology , 5 , 100124-  (2023)
10.1016/j.crtox.2023.100124
原著論文5
Yamazoe Y, Murayama N, Kawamura T, et al.
Application of fused-grid-based CYP-Template systems for genotoxic substances to understand the metabolisms.
Genes and environment , 45 , 22-  (2023)
10.1186/s41021-023-00275-4
原著論文6
安部賀央里.
皮膚感作性強度の予測に向けた機械学習によるin silicoアプローチ.
フレグランスジャーナル , 51 (7) , 16-20  (2023)
原著論文7
安部賀央里.
機械学習を用いた皮膚感作性試験代替法の開発.
コスメティックステージ , 2023年2月号 , 60-65  (2023)
原著論文8
安部賀央里.
第Ⅴ編 香粧品業界 第4章 皮膚感作性in silico予測モデル
「動物実験代替法とNew Approach Methodsの開発・利用動向」シーエムシー出版 , 193-200  (2023)
原著論文9
Yamada T, Kawamura T, Tsujii S, et al.
Formation and evaluation of mechanism-based chemical categories for regulatory read-across assessment of repeated-dose toxicity: a case of hemolytic anemia.
Regulatory Toxicology and Pharmacology , 136 , 105275-  (2022)
10.1016/j.yrtph.2022.105275
原著論文10
Ambe K, Suzuki M, Ashikaga T, Tohkin M.
Development of quantitative model of a local lymph node assay for evaluating skin sensitization potency applying machine learning CatBoost.
Regulatory Toxicology and Pharmacology , 125 , 105019-  (2021)

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
202325016Z