ナノマテリアル吸入曝露影響評価のための効率的慢性試験法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
202325015A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアル吸入曝露影響評価のための効率的慢性試験法の開発に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21KD2004
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
広瀬 明彦(一般財団法人化学物質評価研究機構 安全性評価技術研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部・動物管理室)
  • 津田 洋幸(公立大学法人 名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 横田 理(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 渡部 徹郎(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
  • 石丸 直澄(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部(歯学系))
  • 小林 憲弘(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 北條 幹(東京都健康安全研究センター 薬事環境科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
32,189,000円
研究者交替、所属機関変更
研究代表者の所属機関は、令和5年4月1日より国立医薬品食品衛生研究所から一般財団法人化学物質評価研究機構に変更となった。

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は2年間の慢性吸入曝露試験結果が唯一利用出来る多層カーボンナノチューブのデータに基いて効率的な吸入曝露リスク評価法の開発を目指している。先行研究では通常の2年間連続吸入曝露試験結果と比較可能な2年間の間欠型慢性曝露手法を開発してきたが、本研究では、さらに曝露期間の短縮する、短期間歇曝露型の曝露手法の開発を目的とする。さらに、定量的リスク評価のため吸入曝露後の体内分布とそのメカニズム解析を行うと共に、曝露評価手法の最新情報を入手することも目的とする
研究方法
今年度は、昨年度の引き続き、慢性影響評価法の改良と吸入曝露装置の効率化研究において検体調製工程の自動化の実用化を目指した改良と、昨年度に開始した短期間間欠吸入慢性試験の観察と短期間間欠気管内投与試験の結果の解析を行った。さらに、体内分布の把握とそのメカニズム解析を引き続き行うと共に、ナノマテリアルの曝露評価手法の最新国際情報を入手した
結果と考察
ナノマテリアルの吸入曝露システムの効率化に関しては、ボトルネックとなっている検体調製工程の自動化を検討し、良好な懸濁状態を維持しつつ、濾過工程を簡便に実施可能な装置を開発した。これにより、効率的な吸入曝露実験の実施並びに実験実施者の労働安全への貢献が期待される。従来使用してきたMWNT-7同様の製造方法で作成したNT-7について、単回吸入曝露試験における肺負荷量の経時的変化の結果より、NT-7の半減期はおよそ7日であることを明らかにし、この結果をもとに、野生型マウス、リンパ管マウス、ラットに対して1週間毎に1回の13回の間欠吸入曝露試験を実施した。一方、13週間のラット反復気管内投与の試験では、肺腫瘍と胸膜中皮腫が発生し、総負荷量に対する用量反応性のデータを得ることができた。肺腫瘍発生の用量反応性は、基本的に吸入試験と類似するものと考えられ、肺負荷量をベースとして2年間の慢性吸入試験をある程度代替し得ることが示された。Prox1-GFPマウスにNT-7を3週間(1回/週)吸入曝露した結果、肺組織においては、気管支の分岐部分においてNT-7と考えられる粒子が集積し、曝露量依存的に粒子の集積が増加することが観察された。抗GFP抗体による免疫染色肺切片の観察において集積部位の細胞組織反応の詳細解析が可能であることが示された。凝集体は、終末細気管支周囲の領域に気管支に沿って規則的な模様を描くように局在することが示され、リンパ管の形状に影響することが示唆された。さらに吸入曝露した肺を3次元で解析したところ、肺周縁部の微小リンパ管の増生などの変化が観察された。また、EndoMTレポーター細胞を用いた検討により、CD40が部分的EndoMTから完全EndoMTへの移行を抑制していること示され、ナノマテリアルの吸入曝露によるEndoMTの進行を抑制するための標的となり得ると考えられた。一方、TIPS法で多層ナノチューブを投与した際の用量依存性と発がん標的組織の関係を明らかにするためにMWCNT-7を低用量域(0.00008mg/ラット)から5用量群で投与した慢性観察研究では、74週までに最高用量群(0.5mg/ラット)の4例に腫瘍病変が肉眼所見として認められた。免疫系への影響では、NT-7の単回吸入長期暴露による肺免疫への影響はMWCNT-7吸入暴露と類似していた。加えて、骨髄由来マクロファージを用いてin vitroでのNT-7とMWCNT-7の反応性に違いが見られた。曝露評価手法の情報収集に関しては、OECDのTG 126に記載されている疎水性指標は他の物性パラメータの中でも ナノマテリアルの様々な相互作用に関するより多くの情報を提供する可能性があると考えられた。
結論
以上のことから、効率的慢性試験法の開発に関して、13週間の短期間欠型の気管内曝露実験により既報の2年間連続慢性曝露吸入試験の結果と中用量群まではよく似た用量依存性を示すことが明らかにでき、気管内投与でもある程度吸入試験の代替になりうることを示すことができた。さらに、現在進行中のマウスへの同様の間欠吸入曝露試験結果と比較も可能となり、肺への負荷量解析と慢性影響に関しての種差を明らかにすることも可能となると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202325015B
報告書区分
総合
研究課題名
ナノマテリアル吸入曝露影響評価のための効率的慢性試験法の開発に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21KD2004
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
広瀬 明彦(一般財団法人化学物質評価研究機構 安全性評価技術研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部・動物管理室)
  • 津田 洋幸(公立大学法人 名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 横田 理(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 渡部 徹郎(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
  • 石丸 直澄(徳島大学大学院医歯薬学研究部(歯学域))
  • 小林 憲弘(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 北條 幹(東京都健康安全研究センター 薬事環境科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
研究代表者の所属機関は、令和5年4月1日より国立医薬品食品衛生研究所から一般財団法人化学物質評価研究機構に変更となった。

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は2年間の慢性吸入曝露試験結果が唯一利用出来る多層カーボンナノチューブのデータに基いて効率的な吸入曝露リスク評価法の開発を目指している。先行研究では2年間の間欠型慢性曝露手法を開発してきたが、本研究ではさらに曝露期間の短縮を目指す。あわせて、定量的リスク評価のため吸入曝露後の体内分布とそのメカニズム解析を行うと共に、曝露評価手法の最新情報を入手することも目的とする。
研究方法
本研究では、先行研究の2年間の曝露期間に対して13週間の曝露期間に短縮した慢性プロトコルを確立する。一方、効率的な吸入曝露を達成するために作業の律速となっている検体調製工程において自動化を目指した改良を行う。さらに、体内分布の把握とそのメカニズム解析のために、リンパ管を可視化できるリンパ管レポーターマウス(Prox-1)を用いた曝露研究や間歇曝露に対する肺免疫系への影響を解析する。また、曝露評価手法についてOECDの産業用ナノマテリアル作業グループ(WPMN)における最新動向を調査する。
結果と考察
慢性影響評価法の改良と吸入曝露装置の効率化研究においては、R3年度は短期間に高濃度曝露して慢性影響観察を行うプロトコルの開発、Taquann法自動化装置の開発検討と短期曝露に応じた分散手法の検討を行い、1回/週で13週間曝露するプロコルを設定し、R4年度に慢性実験開始した。吸入曝露装置の改修については、検体調製工程の自動化を検討し、濾過中に発生するケーキ抑制による濾過効率の増強とドライアイスを用いた凍結方法を採用したシステムを構築した。一方、ラットの13週のNT-7反復気管内投与実験においては、肺負荷量の比較により、Kasaiらの2年間慢性曝露吸入試験の結果と中用量群まではよく似た結果となり、気管内投与でも用量依存性を示すことが明らかにできた。先行研究から行っている気管内内噴霧法(TIPS法)による慢性実験では長さの異なる二層カーボンナノチューブについて発がん性において線維の長さによる差異がないことを示した。
体内分布と慢性影響発現部位の解析に関して、リンパ系経路の解析を可能とするトランスジェニックマウス(Prox-1マウス)の導入、肺のリンパ管内皮間葉移行(EndoMT)に関する検討を行った。Prox-1マウスに対するNT-7吸入曝露の結果、肺組織の線維化や肺胞上皮細胞の内皮間葉移行(EMT)の誘導因子であるTGF-βの受容体の発現が上昇していた。さらに、Prox1マウス に対する3週間NT-7吸入曝露後の肺の透明化による三次元観察により、肺組織の気管支の分岐部分においてNT-7と考えられる粒子が曝露量依存的に粒子の集積が増加することと、肺周縁部の微小リンパ管の増生などの変化が観察された。EndoMTレポーター細胞を用いた検討では、CD40が部分的EndoMTから完全EndoMTへの移行を抑制していること示され、ナノマテリアルの吸入曝露によるEndoMTの進行を抑制するための標的となり得ることが考えられた。先行研究で行われた慢性影響の研究結果の解析研究において、2年間のMWNT-7の間欠曝露実験結果の病理解析を行ったところ、先行研究で行われたNMNT-7の2年間の間欠吸入曝露試験データの解析では、中用量群でマウスにおける腺癌の誘発を確認したが、高用量群では体重増加抑制による影響で発癌性を確認することが困難となる事が示唆された。TIPS法でのNMNT-7慢性観察研究において用量依存性と発がん標的組織の関係を明らかにするためにMWCNT-7を0.00008~0.5mg/ラットの5用量群で投与した実験は観察中であり、74週までに最高用量群(0.5mg/ラット)の4例に腫瘍病変が肉眼所見として認められた。BALF細胞の解析では、NT-7の長期暴露によって肺胞マクロファージの分化異常が生じる可能性が示された。MWCNT-7と同様にNT-7の長期暴露によって肺胞マクロファージにおけるMMP12が肺毒性の評価マーカーとして重要であることが明らかになった。
曝露評価における情報収集調査では、OECDが開発あるいは評価した曝露評価ツール・モデルの使用に関する手順のガイダンスとOECD テストガイドラインNo. 125およびNo. 126に関する情報を整理した。
結論
本研究の主目的としての効率的慢性試験法の開発に関して、13週間の短期間欠型の気管内曝露実験により既報の2年間連続慢性曝露吸入試験の結果と中用量群まではよく似た用量依存性を示すことが明らかにでき、気管内投与でもある程度吸入試験の代替になりうることを示すことができた。さらに、現在進行中のマウスへの同様の間欠吸入曝露試験結果と比較も可能となり、肺への負荷量解析と慢性影響に関しての種差を明らかにすることも可能となると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202325015C

収支報告書

文献番号
202325015Z