トキシコゲノミクスとシステムバイオロジーとの融合による新型化学物質有害性評価系の実装研究

文献情報

文献番号
202325012A
報告書区分
総括
研究課題名
トキシコゲノミクスとシステムバイオロジーとの融合による新型化学物質有害性評価系の実装研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21KD2001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
相崎 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
研究分担者(所属機関)
  • 北野 宏明(特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構)
  • 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 夏目 やよい(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 AI健康・医薬研究センター バイオインフォマティクスプロジェクト)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
29,334,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質が実験動物に惹起する毒性を、全遺伝子の発現変動等の分子生体反応として網羅的に観測し、トキシコゲノミクス・データベースを構築し、インフォマティクス、及び、人工知能を融合して、新たな有害性予測評価手法を確立する。これにより、従来の安全係数に依存する評価法を補強しつつ、生命科学的な根拠に基づく評価システムの実装を進める。このために短期、且つ小規模なin vivo実験プロトコルを最適化し、迅速、高精度、省動物を具現化する。
研究方法
先行研究において短期の試験から慢性毒性を予測する基礎検討を行い、遺伝子発現には、①曝露の度に短期的に変化を示す「過渡反応」と、②曝露を反復するに連れて発現値の基線(ベースライン)が移動する「基線反応」の二つの成分があると判明した。分担研究(1)『短期間「新型」反復曝露実験と単回曝露実験データベースの対比による反復曝露毒性予測技術の開発』では、新型反復曝露実験(4日間反復曝露を行い、次の日に単回曝露を実施し2、4、8、24時間後に肝の網羅的遺伝子解析を行う)をブロモベンゼン及び2-ビニルピリジンに適用した(国立医薬品食品衛生研究所の「動物実験の適正な実施に関する規程」を遵守)。同(2)『反復曝露影響のエピゲノム機構解析』では、サリドマイド影響の可逆性検討のためのサリドマイド14日間反復曝露+14日間休薬、が誘発するヒストン修飾の解析を次世代シーケンサーを用いて行った。同(3)『システムバイオロジーによる毒性解析のAI化』、(4)『統合ツール“Percellome Integrator”の開発』、(5)『Percellomeデータベースを利用した解析パイプライン』においてはデータ解析用のアルゴリズムをPercellome技術やシステムバイオロジーを基に開発し、独自の解析プログラムに実装した。
結果と考察
(1)では、ブロモベンゼンは、反復曝露によりタンパク質翻訳に関わる遺伝子群の強力な抑制効果を発揮することが示された。この作用により肝、および、翻訳に関する機作に共通性を有する諸臓器に対する広範な毒性を発揮することが考察された。2-ビニルピリジンは、反復曝露によりグルココルチコイド受容体、NRF2系、グルタチオン、チオレドキシン系、PPARαによる脂質代謝、PAR、AhR、CARを介しての広範な標的に対する酸化的ストレスに対抗する因子の増強を誘導することが示唆された。いずれも、明らかな毒性所見を発揮しない用量において、4日間という短期の反復曝露によって、単回曝露とは異なる変化を明らかにすることが出来た。(2)では、サリドマイド影響の可逆性を検討したところ、サリドマイド14日間反復曝露による明らかなエピジェネティクス影響は、14日間休薬することで、元に戻ることが明らかになった。(3)では、深層学習を用いて、膨大な遺伝子変動データやエピゲノムデータから、生物学的に有意な変化を呈した遺伝子を高精度且つ自動的に抽出するシステムの開発を進めた。(4)では、解析モジュールのコンセプトモデルを作成し、また変動遺伝子の自動抽出パイプラインの改良などを実現した。(5)では、既知のAhrリガンドであるTCDD(2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin)と、同様の遺伝子発現変動を示す化学物質として複数のタール色素(赤色225号、501号、505号)を選択し、その遺伝子発現プロファイルを比較解析すると共に、トランスクリプトーム情報及びエピゲノム情報を利用した効率的な解析モデルの構築を試みた。
結論
本研究は、ほぼ計画通りに進捗した。分担研究(1)での解析の結果、先行研究と同様に、新型反復曝露実験プロトコルとPercellome法に基づく網羅的解析技術により、4日間の短期試験による反復曝露毒性の予測の実現性が高いことが示唆された。分担研究(2)においては、サリドマイドの反復曝露によるエピジェネティック影響の一部は可逆性であることを明らかにした。分担研究(3)については新たに開始したエピゲノム解析のAI自動化について、訓練データの質と量の重要性に加え、精密な構造デザインが要求されることが分かった。分担研究(4)については、変動遺伝子の自動抽出パイプラインの改良により、統合ツールがより機能的・実用的なものになることが期待された。分担研究(5)においては、化学物質が惹起する遺伝子発現変動パターンを曝露時間情報を元に分解することにより、時間を追うごとに変動する生体応答を捉え易くなることを確認した。

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202325012B
報告書区分
総合
研究課題名
トキシコゲノミクスとシステムバイオロジーとの融合による新型化学物質有害性評価系の実装研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21KD2001
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
相崎 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
研究分担者(所属機関)
  • 北野 宏明(特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構)
  • 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 夏目 やよい(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 AI健康・医薬研究センター バイオインフォマティクスプロジェクト)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質が実験動物に惹起する毒性を、全遺伝子の発現変動等の分子生体反応として網羅的に観測し、十分な数の化学物質についてトキシコゲノミクス・データベースを構築し、インフォマティクス、及び、人工知能を融合して、新たな有害性予測評価手法を確立する。これにより、従来の安全係数に依存する評価法を補強しつつ、生命科学的な根拠に基づく評価システムの実装を進める。このために短期、且つ小規模なin vivo実験プロトコルを最適化し、迅速、高精度、省動物を具現化する。
研究方法
先行研究において基礎検討を行い、遺伝子発現には、①曝露の度に短期的に変化を示す「過渡反応」と、②曝露を反復するに連れて発現値の基線(ベースライン)が移動する「基線反応」の二つの成分があると判明した。分担研究(1)『短期間「新型」反復曝露実験と単回曝露実験データベースの対比による反復曝露毒性予測技術の開発』では、新型反復曝露実験(4日間反復曝露を行い、次の日に単回曝露を実施し2、4、8、24時間後に肝の網羅的遺伝子解析を行う)をペルフルオロオクタン酸、エストラゴール、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、ブロモベンゼン及び2-ビニルピリジンに適用した。同(2)『反復曝露影響のエピゲノム機構解析』では、サリドマイドの14日間反復曝露、メチルセルロース水溶液(溶媒)の14日間反復曝露、及び、サリドマイド影響の可逆性検討のためのサリドマイド14日間反復曝露+14日間休薬、が誘発するヒストン修飾の解析を行った。同(3)『システムバイオロジーによる毒性解析のAI化』、(4)『統合ツール“Percellome Integrator”の開発』、(5)『Percellomeデータベースを利用した解析パイプライン』においてはデータ解析用のアルゴリズムをPercellome技術やシステムバイオロジーを基に開発し、独自の解析プログラムに実装した。
結果と考察
(1)では、ペルフルオロオクタン酸の曝露によりNR1I2(PXR)、IEGシグナルやPPARの下流因子の関与と、DNA障害、RNA障害、タンパク合成障害、癌、ユビキチン、NRF2系、ミトコンドリア障害の系の動員が示唆された。フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)の基線反応に対する影響は、PPAR下流の脂質代謝に関わる遺伝子が主たる標的であり、反復曝露により小胞体ストレスなどを介した細胞増殖シグナルなど広範な増強が示唆された。ブロモベンゼンはタンパク質翻訳に関わる遺伝子群の抑制を示し、これにより肝、及び、翻訳機作に共通性を有する諸臓器に広範な毒性を発揮することが考察された。2-ビニルピリジンはグルココルチコイド受容体、NRF2系、グルタチオン、チオレドキシン系、PPARαによる脂質代謝、PXR、AhR、CARを介した広範な標的に対する酸化的ストレス対抗因子の増強を誘導することが示唆された。(2)では、サリドマイドの反復曝露によりCyp4a10,4a14,7b1等のプロモータ領域でヒストン修飾影響が観察されたが、Cyp4a10やCyp4a14等では溶媒であるメチルセルロースの反復曝露によっても同様の影響が確認された。サリドマイド反復曝露によるエピジェネティクス影響の一部が14日間休薬により、元に戻ることを明らかにした。(3)では、深層学習を用いて、膨大な遺伝子変動データやエピゲノムデータから、生物学的に有意な変化を呈した遺伝子を高精度且つ自動的に抽出するシステムの開発を進めた。(4)では、解析モジュールのコンセプトモデルを作成し、また変動遺伝子の自動抽出パイプラインの改良などを実現した。(5)では、PPARαリガンドやAhrリガンドの関連遺伝子発現変動を示す複数の化学物質を選択し、その遺伝子発現プロファイルを比較解析すると共に、効率的な解析モデルの構築を試みた。
結論
本研究は、ほぼ計画通りに進捗し、以下の結論を得た。(1)新型反復曝露実験プロトコルとPercellome法に基づく網羅的解析技術により、4日間の短期試験による反復曝露毒性の予測の実現性が高いことが示唆された。(2)エピジェネティック変化の一部は可逆的であること、また溶媒影響が有り、その補正が可能であること、を示した。(3)AIを使った高精度解析とその自動化技術の開発に関する様々な知見を得た。(4)基盤情報を整備し、解析ユニットのコンセプトモデル開発を終えた。(5)化学物質の遺伝子発現変動パターンを曝露時間情報を元に分解することにより、経時的に変動する生体応答を捉え易くした。(3)、(4)、(5)は解析パイプラインの性能向上に寄与し、効率的な解析に繋がることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-10-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202325012C

収支報告書

文献番号
202325012Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
29,334,000円
(2)補助金確定額
29,334,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 5,763,320円
人件費・謝金 0円
旅費 804,202円
その他 22,767,296円
間接経費 0円
合計 29,334,818円

備考

備考
収入の「(2)補助金確定額」と支出の「合計」との差異は、支出に分担研究者(北野宏明)の自己負担分818円を含むため。

公開日・更新日

公開日
2024-12-24
更新日
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