文献情報
文献番号
202325010A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルの有害性評価を迅速化・高度化する短期経気管肺内噴霧暴露評価系およびin vitro予測手法の開発
課題番号
23KD1002
研究年度
令和5(2023)年度
研究代表者(所属機関)
内木 綾(公立大学法人 名古屋市立大学 大学院医学研究科 実験病態病理学)
研究分担者(所属機関)
- 戸塚 ゆ加里(日本大学薬学部 環境衛生学)
- 梯 アンナ(大阪公立大学 大学院医学研究科)
- 津田 洋幸(公立大学法人 名古屋市立大学 津田特任教授研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
18,462,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
化学物質のナノサイズ化により、機能や特性が飛躍的に向上することから、ナノマテリアル(NM)の新素材としての使用や生産が増大する一方で、吸入暴露による毒性影響が懸念される。カーボンナノチューブ(CNT)のような不溶性繊維状NMは、長期間体内に蓄積され持続的な炎症を誘発する。また低炭素社会の実現に向けて、植物繊維由来のセルロースナノファイバー(CNF)をはじめとした新たなNMが登場し、CNTとは異なる毒性影響を持つ可能性があるもののその情報は乏しい。従ってNMの吸入暴露による実用的な健康影響評価手法の開発は極めて重要である。申請者らはこれまでに、大規模施設と高額費用を要する吸入暴露試験を代替しうるNMの有害性試験法として、簡便な経気管肺内噴霧投与(TIPS)法を用いた試験デザインを開発し、吸入暴露試験で発がん性が見出された多層CNT(MWCNT)-7を含めた4種のMWCNTについて、肺・胸膜中皮における障害性と発がん性を明らかにした。さらに発がん性陽性MWCNTでは、活性化マクロファージ(Mφ)によるケモカイン、活性酸素種(ROS)の産生と、肺胞上皮の増殖活性・酸化的DNA損傷の促進を投与後早期に検出した。これらの毒性所見は、CNT毒性のAdverse Outcome Pathway (AOP)のKey Eventと捉えられる。
本研究の目的は、TIPS試験法で得たCNTのAOPを高精度化し、NMに広く対応するAOPを把握することにより、OECD TGに提案できる短期in vivo健康影響評価手法を開発する事にある。さらには、AOPを構成するKey Eventを利用し、迅速で信頼性の高いin vitro試験を提案することにある。
本研究の目的は、TIPS試験法で得たCNTのAOPを高精度化し、NMに広く対応するAOPを把握することにより、OECD TGに提案できる短期in vivo健康影響評価手法を開発する事にある。さらには、AOPを構成するKey Eventを利用し、迅速で信頼性の高いin vitro試験を提案することにある。
研究方法
In vivoでは、TIPS投与によるNMの肺・胸膜中皮毒性影響について、経時的な病理組織学的、生化学的解析かつゲノム解析を行う。サイトカイン分泌パターンにより、呼吸器感作性と機序について把握する。次世代シーケンサー(NGS)解析により、CNT誘発腫瘍における遺伝子パスウェイ変化や変異シグネチャーを解析し、既知の発癌物質誘発癌との比較によりNM発がん特異性や、前癌病変における検出の可能性を検討する。In vitro系では、肺オルガノイド・中皮細胞とMφの共培養システムを確立し、細胞増殖、酸化ストレス、遺伝子変化などのin vivoと対応した毒性影響について定量する。
結果と考察
MWCNTs、SWCNTにより、投与4週後から肺胞上皮の増殖(Ki67)、炎症関連DNA損傷(8-NG)マーカー、Ccl種のmRNA発現は有意に増加した。104週における肺胞上皮腺癌の発生は、MWCNT-N、SWCNT、MWCNT-7で観察された。胸膜中皮腫の発生は、MWCNTs高用量群で認められた。さらに亜急性期のRNA-seq解析による発がん性陽性、陰性CNTの比較では、発がん性陽性群において複数の炎症関連パスウェイが抽出された。変異シグネチャー解析の結果から、C:G to T:A変異が顕著な2つの変異シグネチャー(Rat_SBS_A, Rat_SBS_B)といずれの変異パターンもまんべんなく検出されるRat_SBS_Cが同定された。全てのDHPNサンプルにおいてRat_SBS_Aが90%以上を占め、Rat_SBS_A がDHPNに由来するシグネチャーと同定した。一方、MWCNT-7では、Rat_SBS_B及び Rat_SBS_Cがメジャーなシグネチャーであり、これら2種の変異シグネチャーがMWCNT-7に由来することが示唆された。
結論
本研究から、増殖、酸化的DNA損傷やケモカイン発現などの毒性所見は、CNTのAOPのKey Event (KE)と考えられ、発がん機序への関与と発がん性短期予測指標への応用の可能性が示唆された。また変異シグネチャー解析では、化学発癌とは異なるCNT特異的な変異シグネチャーが得られ、さらにIndel解析や変異のストランドバイアス、ゲノム構造異常などの解析を行うことで、in vitro系開発にも応用しうる、発がん機序解明やリスク評価などに有用な情報が追加できるものと考えられた。
公開日・更新日
公開日
2024-10-03
更新日
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